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大学受験と高校受験の本質的な違い

私は数学を教員として勤務しており、主に大学受験を予定している生徒の授業を担当しています。そうしたクラスの生徒は当然本人だけでなく、保護者も大学進学の意欲が高いことがほとんどです。

ところで、九州では保護者の世代は大学進学者がそれほど多くありません。そのため、場合によってはクラスの半数以上の生徒の保護者が大学受験を未経験ということがあります。

もちろん、普通科の進学コースに入学している生徒の保護者ですので、基本的には生徒には大学進学をさせたいという希望を持っています。

しかし、そうした保護者と面談をするときには大学受験を経験した保護者ではあまり起きない「問題」が一つだけ発生します。

それは、大学受験が高校受験と同じだとイメーしてしまうことがあるということです。

親も子もほとんどが国公立大学志望者

私の担当クラスではほとんどの生徒が入学時には国公立大学を志望しています。

これは九州の進学校(自称を含む)では当たり前の現象です。

もちろん旧帝大や県名の国立大学が第一志望であることが多いのですが、県立大学や市立大学などの公立大学であっても、都会の私立よりも志望順位は高い傾向にあります。

そのため、三者面談では大学受験、特に国公立大学受験の話がメインテーマになります。その中で大学受験の仕組みなどを説明しているときに発生するのが先述の「問題」です。

大学受験と高校受験の倍率

大学受験は国公立大学の場合は前期では倍率が2倍以上、旧帝大などの人気大学や医療系などの学部においては3倍を超えます。

しかもそれは共通テストを受験して、ある程度勝算がある受験者が定員の倍以上存在し、同時に受験をしているということです。

つまり、大学受験は不合格する人間の方がはるかに多い、ということです。これは地方の中堅国立や、いわゆる駅弁大学と呼ばれる国立大学であってもそうなのです。

ところが高校受験はそれとはまったく異なります。県内の難関高校と呼ばれる学校であっても、九州の場合では2倍を超えることはまずありません。

むしろほとんどは1.5倍程度、低い場合には県トップ高校であっても1.2倍を切っています。

例えば昨年度の入試で言えば、大分県のトップ校である上野丘高校は1.17倍です。しかし上野丘高校は東京大学に18名、九州大学に66名の合格者を出す九州では屈指の名門です。

方や、同県の国立大学である大分大学の一般選抜の実質倍率は2.4倍です。

本質的に異なる試験の意味

大学と高校では種別が異なるため、入試難度を比較することは困難であり、あまり意味はありません。また、本人の適性によっての向き不向きも存在します。

しかし、少なくとも倍率を見る限りにおいては、大学入試は受験者の半数以上が不合格となるため、「合格者を選別する」試験であると考えるべきでしょう。

実際に、不合格になっている人の方が多いことからも、多数から小数を選んで合格させていることは明らかです。

一方で、高校入試は受験者の大半は合格する、つまり「不合格者を選別する」試験と言って差し支えないでしょう。

そして、この違いは大学受験にかける期間にも大きく関わってきます。

受験のタイムスケジュール

九州の高校受験では、それなりに学校で真面目に授業を受けていき、高校受験の本格的なスタートは中学3年の夏、部活動の引退を待ってがほとんどです。

この時期に塾の夏期講習から参加し、そのまま入塾して入試まで、というケースをよく見ます。また公立高校入試の試験は3月にあるため、本当の意味で本腰を入れるのは年明けからです。

中学校の学習内容はそれほど高度でないうえに、分量が少ないため、これでも十分に間に合ってしまいます。

では、大学受験に関してはどうかというと、九州内の国立大学志望者の本格的なスタートは高校2年生の夏です。そこからさらに本腰を入れて学習に臨む時期が高3の春から夏にかけてとなります。
(関東の人からすると信じられないスケジュール感かもしれませんが)

面談で発生する「問題」

そこで発生するのが、高3の夏の面談の段階でかなり難しい状況であるにも関わらず、これから頑張っていけば合格すると信じている保護者の方が非常に多いという「問題」なのです。

もちろん、それが難しいことはお伝えしますが、自分の高校受験の経験から「自分はそこから合格した」、「隣の○○さんは冬休みから塾に行って合格した」といった話で返されることが多々あります。

そこから逆転合格も不可能ではありませんが、難しいのが実際のところです。

何よりも、そうした第一志望に厳しい生徒の場合、推薦選抜などの選択肢を提示してもそれを検討対象にすら入れてもらえないこともあり、忸怩たる思いをしたことが何度もあります。

こうしたことから、事前に大学入試と高校入試の本質的な違いなどについては、本人と保護者双方に普段から話すことを心掛けていますが、実感の伴わない知識は印象に残りにくいようです。

私自身、まだまだ道半ばではあります。しかし、このような「問題」をゼロとは言わずとも可能な限り減らし、受験経験者でない方に、しっかりと受験情報を伝えられるスキルを磨くことも教員に必要なものなのではないでしょうか。


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