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地方大学の研究力向上は官公庁、産業移転が大前提

国内の大学の研究力低下が問題となりつつあります。

2002年の法人化後、予算や研究費の削減が続き国立大学の研究力は低下し続けています。

論文の引用回数は低下し、昨年度は過去最低の10位となりました。

国内の独自の文系学問の論文が日本語というローカル言語で書かれているというマイナス要因はあるものの、こうした引用回数の減少は明らかに研究力の低下と連動しているようです。

こうした状況に対して文科省は「科学技術・イノベーション白書」の中で「
日本の研究力の底上げには地域の大学が強みを伸ばすことが重要だ」と主張しています。

有名大学の研究施設誘致の取り組み

この記事、および白書の中では山形県鶴岡市では慶應義塾大学の研究施設を誘致した事例があげられています。

行政の支援のもとで慶応大学の研究所を中心としたサイエンスパークが形成され、生命科学関連のスタートアップ企業が誕生して新しい技術や製品が生み出されているほか、進学で地元を離れた大学生が就職を機に戻る動きも見られるとしています。

関東の伝統的な名門大学の慶應義塾大学の研究施設ですので、影響力は大きいものでしょう。

また慶應と双璧をなす早稲田大学も地方都市に大学院を設置しています。

こちらは福岡県北九州市に2003年に誘致されたデータサイエンス系の大学院です。

こちらは地方で活躍する人材を育成することも目標としており、すでに多くの卒業生が活躍しています。

しかし、就職先の一覧を見るとその目的が達成されているかは微妙です。

NTT / 日本マイクロソフト / 日立製作所(およびグループ会社) / 三菱電機 / キヤノン / ソニー(およびグループ会社) / 日本IBM / 楽天 / パナソニック(およびグループ会社) / 東芝(およびグループ会社) / NEC(およびグループ会社) / 富士通(およびグループ会社) / シャープ / ソフトバンク / ローム / アドバンテスト / ルネサスエレクトロニクス / 東京精密 / 村田製作所 / 富士電機 / リコー / セイコーエプソン / コニカミノルタ / 京セラ / オムロン / 横河電機 / アクセンチュア / ブラザー工業 / ゼンリン / フォスター電機 / 富士ゼロックス / Samsung Electronics / LG Electronics / Huawei Technologies / Alibaba Group

早稲田大学 大学院情報生産システム研究科
卒業後の進路・就職先 修了生の主な就職先
電気・情報・通信・半導体

これは電気や通信系の就職先ですが、東京および近郊の大企業がほとんどで、どう見ても地方創成に直接つながるような就職先は少ない印象です。

地方大学の研究力向上

結局のところ、鶴岡の事例も北九州の事例も有名大学のラボや大学院を誘致しただけで、その地域の大学の研究力を向上させたわけではない、ということが分かります。

そこで研究する人材や、学生も慶應や早稲田だから遠くまで来ているに過ぎないということでしょう。

地方大学の研究力向上を目指すのならば、すでに存在する研究機関である国立大学のそれを向上がまずは大前提となるはずです。

ところが、実際にはそうした地方の大学から予算を取り上げていることで研究力を低下させていることが問題となっています。

さらに、仮に山形大学である程度の先端研究に取り組んだとしても、その実績で就職する企業が地方に無いために、学生が就職先段階で大都市圏に流出問題が山形だけでなく全国で発生しています。
(実際に山形大学の中で世界レベルの研究分野はあるはずです、というよりも全国の国立大学の工学部等の研究力は高い)

こうした問題を解決しない限りは、単に出張所を地方に設置しただけで研究力向上にはなっていないのが現実でしょう。

官公庁、産業移転

地方創成が謳われる中で官公庁の地方移転が検討されたのは2014年の「日本創成会議」が最初であるように記憶しています。

複数の省庁の移転が検討されましたが、現在のところは文化庁が京都に移転したのみです。

一方で民間企業はコロナ禍でのリモート推進もあって地方移転を行う企業が一定数現れました。

人材派遣のパソナは徳島県淡路島に、ジャパネットは福岡市、日本ミシュランタイヤは群馬県太田市、お茶の製造販売のルピシアは北海道ニセコ町に本社や本社機能の移転を行っています。

官公庁はいまだ一つ、民間企業も一部の企業のみでその動きは鈍いのが実情です。

こうした官公庁や大企業が地方に移転し、学生が働く場所が確保されれば共同研究も増加し地方大学における研究環境も向上するでしょう。

本当に地方大学の研究力向上、地方創成を目指すのであれば法人税や固定資産税の軽減なども含めた推進策を行う必要があるでしょう。

特に、コロナの収束によって従来の働き方を維持する動きが強まる中においてそうした強い政治的牽引無しには移転は進まないでしょう。

「科学技術・イノベーション白書」で推進する動きがどこまで実現に動くのか注視していきたいと思います。

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