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実際の業務よりも大変な作業を体験させることのデメリット:後継者不足と稲刈り体験の矛盾


農業後継者問題

現在、農業の従事者の高齢化が顕在化しており、後継者問題が日本全国で発生しています。

この原因の一つとしては、日本の農家の多くが個人事業者であり収益性が不安定であること、農地の売買自体が自由化されていないこと、肉体j労働が多く自然災害に対する収支の影響を受けやすいことなどが考えられます。

農業体験によるトラウマ

そんな状況にもかかわらず、小学生に農業体験をさせるという行事が地方では頻繁に行われています。

熊本県阿蘇郡南小国町は農林業を主産業とする人口3600人ほどの小さな町です。

そんな町の小学校の農業体験がニュースになっていました。

くまモンがサプライズ参加して楽しかった、という子供のコメントものっていました。

4年生の男の子は「まさか、くまモンが来るとは思わず、びっくりしました。一緒に稲刈りができて楽しかったです」と話していました。

この少年は素直なのでしょう、楽しいという感想のようです。しかし私のように体力に自信の無い人間はどうでしょう、手で刈り取る稲刈りを楽しいと思えないように思います。

むしろ農業に対する忌避感さえ芽生えそうに感じます。

興味関心と後継者候補探し

さて、この体験は何のために行うのでしょうか。

こうした行事の多くは興味関心を高めることを意図しています。特に南小国町のような過疎自治体においては農業継承をしない若者は外に出るしかありません。

ということはこの行事は農業継承候補者に関心を持ってもらうという意図があってのものでしょう。

少なくともの行事に田畑を提供しているであろう農家などはそうしたことを意図しているはずです。

しかし、果たしてこの行事はどれほどの効果があるのでしょうか。むしろ農業にとってマイナスな印象を与えることになるのではないでしょうか。

機械化されていない農作業の体験

この様子を見る限りは稲刈り体験を手に持った「鎌」で行っています。

稲刈りを鎌で行うのは力が入りますし、腰をかがめて行う必要がある重労働です。

この体験を通して感じることの一つは農業は大変で、しんどく、効率性が低いという印象です。

もちろん汗を流して労働する価値や食べ物がどこから来るのか、という経験と知識の獲得といった効果もあるでしょう。

しかし、機械を使わず肉体労働を経験して、将来その仕事に就きたいという子供がどれほどいるのか、私は疑問に感じます。

実際の業務よりも大変な体験はデメリットしかない

ところがこうした構図は多くの日本における多くの業界で見られる慣行のように感じます。

私の従事する教育業界でも一昔前までは教育実習で指導案の作成など、ことさらに厳しくするのが常態化していました。

業務体験の若者にまずは厳しさを教える、という意味合いがあるのでしょう。

こうした慣行はその仕事を希望する人間が一定数存在している人気の職業であった場合には成長だけでなく、適格者の選別として機能してきました。

しかし、現状はどうでしょうか。農業も教員も志望する人は減少し続けています。

体験者が志望者になる可能性を下げているのではないでしょうか。

年功序列、終身雇用の保証あってのもの

見習いや徒弟制度は対価が存在して初めて成立します。

貧しい時代は住み込みで働くことそのものが対価となっていましたし、のれん分けをすることもありました。

終身雇用においては雇用の安定と数十年後の給与の増額がそれにあたります。

農業もまた、国の政策により通常の自営者とは異なる参入者が少ないなど保護されてきました。

そしてその代わりに苦労や無理難題を長期的な視点で若者は引き受けてきました。

しかし現在はどうでしょうか。

おそらくほとんどの業界はそうした何十年も先のことを約束できる経営状況でもないし、社会全体もそれが不可能であることが前提で回っているのではないでしょうか、

もうそろそろ、大変な業務体験や若手へのしごきを止めるべきでしょう。
これがあらゆる業界でスタンダードになることを願います。

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