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「データサイエンス学部」は現代における「教養学部」

大学の学部設置にもトレンドがあります。

コロナ前の10年ほどは「国際」の名前がついた学部が流行っていました。

経済や流通がグローバル化し、英語ベースでの取引や英語文化圏の前提知識を持つ人材が求められたことがその理由でしょう。

大学側としても既存の学部の内容に国際系のカリキュラムを増やしただけで志願者が増加したということもあります。
(実際、それまでの既存学部で国際的な学びを行っていないわけではないのですが、名前の持つ影響力の強さでしょう)

これ以外にも薬学部の設置基準緩和に伴う薬学部設置ラッシュなどこれまで何度もそうした流行は繰り返されてきました。

近年のトレンドは「データサイエンス学部」

ここ最近のトレンドは「データサイエンス学部」です。

IT技術の進歩やAIの発達は目覚ましく、実社会にいかに取り入れるかが問題となっています。

Googleなどの巨大データ企業はネットにつながるあらゆる人々の情報を集積、分析し様々なビジネスへ繋げています。

コロナ禍での人の流れや感染者予測はもちろんですし、そもそものmRNA
ワクチンの開発も医学×データサイエンスという試みの成果の一つと言えるでしょう。

こうした流れの中で研究成果、学生募集の双方の観点から「データサイエンス学部」を設置する大学が増加しています。

2017年の滋賀大学、2018年の横浜市立大学を皮切りにここ数年の間に設置ラッシュを迎えています。

この春、2023年の4月には一橋大学、和歌山大学、名古屋市立大学といった国公立大学だけでなく、東京都市大学や京都女子大学など有名私立大学でも設置が相次いでいます。

2024年には千葉大学、お茶の水女子大学、熊本大学などの設置が予定されています。

「データサイエンス学部」は何を学ぶのか

では具体的にデータサイエンス学部は何を学ぶのでしょうか。

データサイエンス学部は主にデータサイエンスに関連する知識、技術を幅広く学習する学部です。

様々なデータを取り扱うという学問上の特性から、汎用性が高く経済、医療、教育、気象など他分野への応用が利くことが学部の特徴となります。

従って、学部で学ぶことも数学、統計学、コンピュータやAI関連の知識をベースにしながら、他分野の知識を実践的に学ぶことになります。

そのため、大学進学後も特定分野に限らない、幅広い関心を持つことが進学者には求められます。

「データサイエンス学部」に進学するためには文系、理系どちらを選択すべきか

こうした特徴から、多くの大学は受験に際して文理双方の受験者に対して門戸を開いています。

国立大学の場合は共通テスト+英語、数学(ⅡBorⅢの選択制)が一般的で、私立大学の場合も英語、数学を試験に課しているようです。

それゆえ、受験自体は文系、理系、どちらの生徒も可能となっています。

しかし、いわゆる専門領域に特化した興味関心のある生徒や、私立文系型で受験を考えるような生徒には不向きでしょう。

進学後の学びが多岐に渡る上、すべての内容に数理統計の知識やスキルが要求されるため数学が苦手な生徒は進学後に地獄を見る可能性が高いからです。

逆に、興味関心の幅が広い生徒や、数学は苦手ではない文系の生徒にとっては自らの視野と可能性を広げる選択肢と言えます。

現代の「教養学部」

そういった位置づけからも「データサイエンス学部」は現代の「教養学部」と言えます。

戦後の学制解体後、高等教育における教養部は縮小傾向にありました。

旧制高等学校にあった教養教育を大学に移管したことで、専門教育や研究による実績評価と教養教育の負担が対立関係となったからです。

それに加えて1991年の大学設置基準の大綱化により、教養教育の負担を下げることは大学経営上における合理的判断となり、日本中の教養部は廃止されました。

一方でここ数十年にわたって教養教育の推進が叫ばれ続けてきましたが、経済的合理性の観点からどの大学も教養部の復活は二の足を踏む状態だったようです。

IT技術やAIの進歩による社会状況の変化が生み出した新たな知の要請が今回の「データサイエンス学部」の設置の根底にあるように見えます。

「データサイエンス学部」ブームはそういった意味で、これまでの学部設置ラッシュとは少々毛色が異なる様子が伺えます。

いわゆる難関大学や名門大学など、比較的保守的な大学が設置に乗り出しているからです。

個人的には、今回の「データサイエンス学部」の設置は現代の「教養学部」の再設置であり、高等教育における教養教育のスタンダード化につながるのではないかと考えています。

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