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日本とドイツ。両国の大学で抱いた印象

今回は日本とドイツの大学に通ってみて私自身が感じたことを少し書いてみようと思う。

ドイツでは現在、ケルン市にあるケルン体育大学に在籍している。ヨーロッパの中で見ても規模の大きい体育大学の1つであり、サッカー関係者にはそれなりに知られている大学である。(ちなみに日本で大学、大学院と体育系の大学を卒業しているのにも関わらず、ドイツでも再び体育大学に通うというしつこい性格)


日本の大学に通っていたのは何年も前の事であるため、現在の日本の大学の事について書くことはできないが、あくまで当時の大学の印象と現在在籍しているケルン体育大学の授業で受けたそれを綴っていく。
(※ケルン体育大学内でも学科によって様々であるためここでは在籍している競技パフォーマンス学科について話を進める)

前置きとしてケルン体育大学(の形態)がドイツのスタンダードというわけではないという点は強調しておきたいし、それぞれの大学で色々な手法があるので「これは単なる一例」くらいの感覚でご理解いただきたい。


学ぶことに対する姿勢、授業のシステム

そもそも体育大学とかいう以前に、学生の(学ぶ)姿勢、授業のシステム・進め方が日独で異なっていたのが1番印象的で、「入学するのが難しく、卒業するのが簡単」と表現されることの多い日本の大学とはこの点で違いを感じた。


学生の姿勢

まず学生の姿勢に関して。
日本では大学入試に全精力を注いで、大学に入って満足。入学後は遊んでバイトして授業は代返で...という感じの、何をしに大学に進学しているのかよく分からない人も割と多かった。勿論、ケルン体育大学の学生全員が皆、大学での勉強を第一にというわけでは無いだろうが、それでも日本の学生よりも相対的に「学びに」来ている人数は多いと思う。
一見、あまり真面目そうに見えない学生であっても授業では積極的に発言するし、以前に別の講義等で取り扱った内容をしっかり理解した上で運動生理学や神経学の先生の授業内の設問に答えている事も多い。

だいたい想像はつくが、授業態度は日本の方が圧倒的にいい。大人数で広い講義室で行われている授業ならまだ分かるが、20人程度の小さなセミナールームで開催されている授業でも最前列の人が余裕でスマホをいじっている。隠れてやっているつもりなのか、机の下で操作しているが残念ながらモロバレである。


授業の進め方

全学科の学生が受講する「基礎科目」は講義形式の授業も多いが、それぞれの学科で異なる「専門科目」では、競技パフォーマンス学科に関してはそのほとんどがセミナー形式になる。学生が与えられたテーマを自らプレゼンする授業形態がとられているのが特徴的で、プレゼンの合間や終わってからの授業内フィードバックとして先生からの補足があったりするが、基本的に「授業内でインプットする」というよりも自分で参考文献をいくつも調べて、プレゼン資料を作成して発表するため「授業外で(授業前に)インプットし、授業内でアウトプットする」という感じだろうか。

正直なところ最初の内は日本での講義形式の授業、教授や講師が書いた板書やスライドの内容をノートにひたすら写して...という形式に慣れていたため、参考文献があるとはいえ学生がまとめた内容を本当に信頼していいものなのか、内容の信ぴょう性という点でやや不満というか説得力に欠けるようにも感じていたし、やはりその分野の専門家本人から教えてもらいたいというのがあった。今でもそういう部分はあるが、この形式だと少なくとも自分に与えられたテーマに関しては時間をかけて詳細に(なるべく突っ込み所が無いように)調べていくため、内容の頭の中での定着化が講義形式よりも圧倒的に優れていると個人的には感じた。
ただ、自分のテーマ以外の内容となると一部やや緊張感が薄れてしまうし、教授ではなく学生が発表している分適当に聞き流している学生も多い。

日本とドイツ、どちらの授業形式が優れているという事ではなく、日本ではあまり無かった取り組み方で授業に臨む経験はある意味新鮮であるし、この違いは文化的な背景が影響しているかもしれない。そういった点を感じることができていることは、海外の大学に通ってよかったと思える部分だと思う。


内容的な違い

ドイツの大学の授業構成にも紹介含めて少し触れたいと思う。

日本の大学に在籍していた時のものと比較してケルン体育大学は1つ1つの授業である程度範囲(授業内で取り扱う内容)が絞られているという点に違いを感じた。
基礎科目の授業では「生科学基礎」だとか「トレーニング科学基礎」といった表題の授業が開講されているのだが、その各大枠の授業の中で更にいくつかのテーマ毎の授業に細分化がされており、その全てを履修する形になっている。

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例えば図のBAS1(基礎科目1)は「生科学基礎」の授業であるが、その中で更に「呼吸・循環器系の機能」や「筋・骨格筋の機能における動力学・運動学」などの5つの授業に分かれていて、BAS3(基礎科目3)「トレーニング科学基礎」では「筋系・持久系・コーディネーション系トレーニング科学の基礎」の講義の他に20人前後のクラス単位で行う、持久系やコーディネーション系の実技の授業が組み込まれている。
基礎科目、専門科目ともに実技系の授業も多く、実際に体育館やグラウンドで行う実践的な授業形態が多いのも特徴的である。

日本の体育大学にいた時は基本的に「運動生理学」や「スポーツ医学」、「コーチング論演習」といった大枠の授業の中で「今週はこのテーマ、次回はこのテーマ…」というような形で授業が進められていたし、各分野の研究室やゼミに入らない限りは『広く浅く』、各項目における一般概論的なものを学んでいった印象だった。「基礎の基礎」の扱い方は日本の方が優しいという印象(ドイツでは「これくらいは知っておけよ」というようなスタンスで進められる授業もあるため、日本で体育学を専攻していなかった人は若干苦労している感じもある。その点日本は学期の最初の方は特に、知識のない人でも分かるように授業を進めてくれる傾向がある)。
ケルン体育大学では限局的な内容を扱うことも多いため、「この知識はいつどこで使うの?」と感じるような内容もまれにあったりする。実際私は「トレーニングの組織的・方法学的計画」の分野の「特殊環境下でのトレーニング」という授業で、アラスカ山脈のマッキンリー(デナリ)を登頂する際の注意点とトレーニング計画や、ドーバー海峡横断の準備と留意点に関するテーマが割り振られたりした。私にとってはややマニアック過ぎて若干苦労した。


まとめ

日本での運動生理学などの各授業は自分自身にとっては当時、今まで学問としての視点から見たことの無いものだったため新鮮であったし、有意義だった。ケルン体育大学で再び体育学を学び、細かく分けられた授業を履修することで、また別の視点や知識を得ることもできた。


私自身、日本で体育大学を出ていることから「なんでドイツでも体育大学で勉強しているのか?」とドイツ人に聞かれることがまれにあるのだが、同じ事をしている訳では無いため新しい刺激がいくらでも入ってくる。
ケルン体育大学にはサッカーコースが存在するが、そのサッカーコースでの、特に「サッカーのスポーツ科学」においての専門的な学びは日本で経験が少なかったため、私自身の中で「ケルン体育大学で学ぶことができて良かった」と1番感じる部分であった。

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