【ライブの記憶】宇野維正 × てけしゅん音楽情報 カルチャー系ジャーナリストはYouTubeとどう生きていくのか 2024/03/20

映画ジャーナリストの宇野維正さん、批評家・"Youtuber"の伏見瞬さん、"Youtuber"の照沼健太さんによる、Youtubeを軸に据えたトークイベントに行ってきました。
もちろん宇野さんの話も楽しみでしたが、特にてけしゅん音楽情報は2023年のベストコンテンツにも選びましたし、しっかり応援していきたいという気持ちもあっての現地参加でした。

満席とのことで、まさかここまで人がいるとは思ってなかったですが、3時間半に及ぶイベントは終始面白かったので、感想を書き残しておこうと思います。(アーカイブを確認してはいないので、ニュアンス等の若干の違いはご容赦いただければ)

正直最初は、あまりにイシューてんこ盛りすぎじゃない?と思っていたのですが、終わって振り返ってみると、結構な部分をしっかり回収していて、凄いなと思っています。
相当に話の幅が広いので、個人的に特に興味深かったポイント3つに絞って、考えたことを書いておきます。

①編集者の役割と取り巻く状況
②てけしゅんはファンダムとの距離をどう取っていくのか

③Youtubeはみんなやるべき(?)

編集者の役割と取り巻く状況

てけしゅんの動画でもレビューされていた某本についての話の流れで、SNSでもいろいろ指摘をもらっている部分など、そもそも編集者は何故これでOKしたのか?何をしていたのか?という話です。

この件に限らず、話題になっている是枝裕和監督に関する対談も同様で、編集者不足により、適切な形でコンテンツが提供されていない現状は問題ではという話だったと思います。

自分はこの業界については全く知らないので直接何かを言えるわけではないですが、
(期待通りの働きができる)人が足りていないというのはどこの業界でも深刻な問題になっているように感じます。
自分はITエンジニアの端くれなので、その文脈でひしひしと感じています。

ただ、この手の問題の難しいところは、単純な人手不足ではなく、かっこ書きした期待通りの働きができるという点が重要だからだと考えています。

ITエンジニアの文脈でいえば、企業で求められるのはインターネットには転がっていない古の技術に関するスキルを持つ人材だったり、逆に最先端のスキルをばりばりに使いこなせる人材だったりします。
それは、いわゆる半年やそこらの"リスキリング"なんかでどうにかなるものではなく、深い学習を前提とした長い時間をかけた実務の経験が必要なことも多いわけです。
そうなると、需要と供給が見合わない、それが今起きているITエンジニア不足のポイントだと思っています。

話を戻すと、編集者も似た感じなのではと、率直に思いました。
一歩踏み出せば炎上だらけの世の中において、それこそ是枝監督の記事なんかを、全方位に気を配りながら、十分なコンテンツに仕立て上げるのは、相当なスキルと経験がいるように思います。
それで大して稼げるわけでもないでしょうから、そこまでリソース割けないジレンマを抱えている中で、もはや最低限のチェックをする余力もないままに、世に出ていくコンテンツはたくさんあるのだろう、なんて想像していました。

この辺は全く業界に明るくないので、ただの想像ですが、
現代日本社会のあらゆるところで起きている問題と通じているんだろうなと思う話でした。

てけしゅんはファンダムとの距離をどう取っていくのか

続いては、終盤に宇野さんから質問が出た「ファンダムへのアクセスは危うさも孕んでいるが、その距離感についてどう考えているか?」という話です。

これは自分もかなり気になっていた部分なので、応答自体はシンプルなものでしたが、印象に残りました。

具体的に言ってしまえば、今のてけしゅん躍進の大きなきっかけは、Number_iを取り上げていることにあると感じています。
実際にざっと再生回数を見ても、他の動画の10倍ぐらいコンスタントに回っているように見受けられます。

この点についてどう考えているのか興味深かったのですが、回答としては、
「ランキング等はもちろん参考にするが、あくまで前提として自分たちが良いと思った作品を取り上げている。マーケット前提では絶対にない。」
というシンプルかつ強い言葉でした。

まぁ100点の回答だなと思いつつ、
Youtubeの"回らない動画を出してしまうと、他の動画のリコメンドにも影響してしまう"アルゴリズム(この仕組み知りませんでした)
を考えた時には、やはりまだスッキリこない部分あるのが正直なところです。

別のタイミングで、ゆくゆくはメンバーシップ機能の活用も考えているので、そこでの棲み分けもありえるという話もありましたが、
良くも悪くもあまりに強烈なファンダムの魔力に、正論でどこまで抗えるのかというのは気になりポイントですね、、、

Xで照沼さんがポストしていた話も興味深く、おそらくやるべきだし、やればそれなりのリターンがあるだろうと思います。
それは皆わかっていると思うんですが、誰も手を出していない現状を見るに、もう少し考えなきゃいけないことがあるように感じています。

Youtubeはみんなやるべき(?)

最後は、結構話の大前提になっていた、Youtubeはみんなやるべきという考え方についてです。特にメディアなどはやるしかないでしょという論調だったと思います。

が、あまりピンときていない部分もあり、自分がうまく理解できていない前提があるのかなと感じました。

確かに伏見さんがいう通り、もはやマスがどこにもない世の中において、いま場を開いていくとしたら、選ぶのはYoutubeなんだろうという感覚はあります。
が、自分自身がそこまでYoutubeにリアリティがないからか、どうしてもそこにそこまで乗れないんですよねぇ、、、

照沼さんがおっしゃっていた、もはやテキストなんてほぼ読まれないという話もよくわかるんですが、
まだYoutubeにはフロンティアが残っているという程度の話であって、そこまで可能性があるとはあまり感じられていません。

ちょっと先の未来だと、動画にも生成AIが気軽に活用されて、Youtubeが生成AIで作成された動画だらけになって、Googleと同様アルゴリズムがまともに機能しなくなるだろうと思いますし、
もう少し先を見れば、個々に完全にパーソナライズされた形で、都度都度コンテンツを生成するような未来になるとすると、テキストでも動画でもあまり変わらない気がします。

自分が飛躍した考えをしているんだろうとも思うので、もうちょっと前提をしっかり合わせたい感じもありますが、まぁメディア関係者の方とかだと、そこまで切迫した状況なんだろうなという気もします。
今後てけしゅんがYoutubeを続けていくことで見えてくるものたくさんあるでしょうから、継続的にこういった話は聞いてみたいです。

どうやって社会やマスと接続していくのか?という話は、もっと考えてみたい話題でした。


という感じでいろいろ考える機会になる面白いイベントでしたが、
シンプルに見ても、伏見さんのスター性というかカリスマ性というかフロントマン気質っぽさ(逆に危うさもあるけど)、照沼さんの落ち着いているように見えて過激思想がちょこちょこ垣間見える点、宇野さんの年長者さながらの場の回し方、そして田中宗一郎さんと佐々木敦さんの乱入…etc
と、見どころが大量にあったので、非常に刺激的でした。

てけしゅんが好調なのは本当に良いことだと思いますし、実践の重要性というか、やっぱりやってみないとわからないよねという証明でもあると思います。
そして、ここにニーズがあったということはもっと深掘りして良い話だと思いました。
より具体的に、実際にどういう人が、どういう目的で、どのように動画を観ているのか?を探索していくことは、今後の音楽業界にとっても有益なことだと思います。
そういう仕掛けもたくさんしていってくれたら嬉しいですね。

"てけしゅんの父母会"として、とてもバランスの良い座組だったと思うので、今後も定期的に開催してくれたら嬉しいなと思うイベントでした。

まだアーカイブ見れる期間であれば、ぜひ見てみることをお勧めします。

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