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読書ログ 『解像度を上げる』

どんな本?

 スタートアップ向けのアクセラレータプログラムを主宰する著者が、ビジネスの作る上でのコツを「解像度」というテーマから紐解いていく本。2年前くらいに著者のスライド(以下)に衝撃を受けたこともあり購入。

 ベストセラーになっているだけあってよくまとまってはいたが、似たジャンルの本を読みすぎたせいかスライド以上の驚きまではなかったのと、抽象的な話が長く続くので、読むのが大変だった。ビジネス作る時の戦術の辞書としては役に立ちそう。

おすすめ度

★★★★☆(まずはスライドを見るだけでも十分か。腰を据えて学びたい人にはおすすめ)

こんな人におすすめ

  • 事業開発を担当している人

  • 提案がなかなか通らず困っている人

  • 問題解決力を上げたいが何からしていいか分からない人

この本を読むにあたって

  • なぜこの本を読むのか

    • ビジネスを設計し、グロースさせる力を伸ばしたいから

  • いろいろある中で、なぜこの本なのか

    • 著者はインキュベータとして数多くのビジネス案を見てきているため、考え方のコツや、筋の良し悪しのドライバーがわかっていると思ったから

      • 本書を読むことで、著者の経験を擬似体験できそう

    • スライドを見て、言語化や構造化が極めて上手い人だと感じたから

  • 特にこの点を注意して読む

    • 上記の考えゆえに、著者の主張の中でも特に「私の経験上こういう失敗が多い」「こういうスタンスの人は成功しやすい」といった経験則にアンテナを高く張って読む

学び(★は自分の意見)

解像度が低い時の特徴

・顧客像がぼんやりしている
・話を聞いていると、疑問が湧いてくる
・具体性がなく、フワッとしている
・競合や事例を知らない
・解決策が安易
・話がバラバラで、論理の飛躍がある
・進め方の見通しがない

典型的なダメな例

  • アイディアに対する疑問がたくさん湧いてくる
    例:「学生が進路を考えるときに必要な情報が足りず、AIで一人一人に情報を届ける」という起業案の場合
    ・情報があるのに届いていないのか?情報自体が存在しないのでは?
    ・そもそも学生は十分な情報を持っていないのか?
    ・足りていないとしたら、どんな情報が足りないのか?
    ・特にどんな学生が困っているのか?
    ・一体どんなAIを作ろうとしているのか?
    ・そんなAIは本当に今存在しないのか?

  • 視野が狭い

    • 「競合はいません」

    • 「全性能で勝っています」

    • なぜその打ち手を選んだのか?という質問に明確に答えられない

  • 浅すぎる

    • 「情報が足りない」「売上が低い」など他の業界や領域でも頻繁に聞く問題を設定している

    • 「安い方が選ばれる」など当たり前すぎる洞察にすがっている

    • 問題をひっくり返しただけの解決策を提案している

  • 解決策がぶっ刺さっていない

    • 課題に少しかすっているが、課題と解決策のフィットの程度が小さい

    • 顧客の重視していない評価軸では他の解決策に勝っているが、重視している評価軸では負けて居る

    • 専門性がないので、解決策がなんとなく当たり前すぎる(=十分な深さにない)

      • 【多くの人が陥りがち】自分ができないことは、解決策の選択肢から無意識のうちに外してしまう

      • スキルやお金がなくても調達できる。良いアイディアであれば。

解像度の構成要素

解像度は以下の4要素で構成されている。以下の4点が詳しく掘り下げられているほど、解像度は高くなる

  • 深さ:原因や要因、方法を細かく具体的に掘り下げる

    • 例えば、「売上が下がっている」という表面だけを見ても有効な解決策は分からない。深く掘ってみると、競合の値引きが課題かもしれないし、営業の訪問回数が少ないからかもしれない。

    • 成功する起業家と失敗する起業家の差の多くは「情報量」で説明できる。「宇宙デブリの論文を1,000本読み、主要な教授に訪問した」など

      • サーベイをきちんと行うだけで、トップ20%に入ることができる。土日の2日をサーベイに充てるだけでも大きな差がつく

  • 広さ:考慮する原因や要因、アプローチの多様性を確保する

    • 例えば、「醤油が美味しくない」という課題に対し、「大豆の質」「発酵が不十分」など醤油自体の質を深く掘り下げるだけでは、広さが足りない。「食事の傾向が変わった」「利用頻度が低いから酸化して劣化する」など別の切り口も原因として考えられる。

    • 特に専門家は、視野を広げることに資源を振り向けることで、解像度はさらに上がる

    • 「数ある選択肢の中からなぜこれを選んだのか」がきちんと言える

  • 構造:深さ・広さの視点で見えた要素を意味のある形でわけ、要素間の関係性や相対的な重要性を把握する

    • 「売上をあげたい」という課題であれば、「顧客単価×顧客数」などと分解していかなければ、キードライバーが見つけられないが、分解するためには「売上」というものの「構造」がわかっていなければならない

    • 構造化が甘いことで目的と解決策がずれているケースがよくある。
      例えば「人類を幸せにするためにドラえもんを作る」と言った場合、ドラえもんを作ることが巡り巡って人類の幸せにつながる、という構造が不明瞭であるといえる。なぜドラえもんなのか?ドラえもんのどの部分が誰を幸せにするのか?などの疑問がたくさん湧いてくる

  • 時間:時間による変化や物事のプロセス・流れをとらえる

    • 時間の流れを考慮して案を練る必要がある。プロダクトを作っている間に世の中が変化したり、競合が有効な施策を打ってきて、そのプロダクトの優位性がなくなってしまうことだってあり得る。

基本的には「深さ」が足りない。まずは深さから

  • 著者の体感では、8割以上のアイディアに深さが足りない

    • 逆に言えば、深さに注力することで頭ひとつ抜けられる

  • 深い情報を持って共有することで、「この人は優れた洞察を持っている」という評判が立ち、人を巻き込みやすくなる

    • 「広さ」はインターネットによってある程度担保できるが、深さはそうは行かないため、希少性が高い

    • 人が集まるほど、自然と広さ・構造・時間の視点を得やすくなる

  • つまり、深さを確保することで、解像度を上げるサイクルが回り始める

まず問うべきは「わからないところがわかっているか?」

  • わからないことがわからない、というのは解像度が低いときの典型的症状

    • ニュースを見ても「へえそうなんだ」で終わってしまう

    • 解像度が高いと、「そういう面もあるけど、別の面からはこういう意見もあるよね」と自分の意見を持てるはず

  • 優れた起業家でさえも「過去の自分はまるでわかっていなかった」(しかもそのことに気付いていなかった)と言っている。

    • ★だから、「自分はわからないことがわかっている」なんて思うのは危険。往々にして気づけないもの

    • ★そう言えるのは、都度努力してわからないことを解明して、新たに分かり続けている証拠。

  • ★座右の銘が「無知の知」である人間としては激しく共感。突き詰めた人ほどわからないことやまだわかっていないことを多く言える。謎を解き明かすには、「わかっていないところをわかる」必要がある。それがないと行動に移せない

広さの探索に20%を充てる気概を持つ

  • 効率性を追い求めると、体験したり人と話したりすることの優先順位は下がりがち

  • しかし、それでは想定外の情報や視点が入ることが少なくなり、視野を広げることはできない

  • そこで、「広さの探索」に自分に2割程度の時間と資源を割り当てることで、中長期的な生産性が上がる

    • 人は放っておくと深めることに資源を投下しやすい傾向にある

    • ★「当たり外れのリスク」が探索する気持ちを萎えさせがち。必要経費と思った方が良い

  • 最も簡単なのは、他の人の目を使わせてもらい、実際に複数の視座から物事を見ること。「対話がなければ複眼的な思考を得ることはほぼ無理」と言っても過言ではない

    • ★自分はこの本を「著者の経験を疑似体験すること」に置いている。読書をする際にも著者との対話や視点の拝借を意識することで、複眼的な思考を得やすくなると思う。

  • 広さは深さと違って徐々にしか広がっていかないが、だからこそ粘り強い積み重ねが他社との大きな差を生む。

システムへの理解が場当たり的な解決策を減らす

  • システムの中にある要素の相互作用を理解していないと、場当たり的な解決策になるばかりか、良かれと思ってやったことが悪い結果を生むことすらある

    • 例えば「人とのコミュニケーションを増やしたいからオープンオフィスにしたら、返って会話が減ってしまった」というのが一例。対人コミュニケーションがどういうメカニズムで起こるかを把握しないまま、表面的な解決策を取った結果、状況が悪化してしまった。

  • システムを含む構造化をスムーズに行うコツは、「どれだけ多くの構造のパターンを知っているか」に尽きる。書籍などから日々切り口のパターンを学ぶなどの蓄積が不可欠。アナロジー思考。

    • ★細野さんの「組み木を持っておく」の思考と同じ。結局何をするにしても意外と知識ゲーだったりする。自己啓発本は組み木を増やすものではないので嫌い。もっと様々な実践知に触れなければならない。

    • 顧客の課題を深掘りしたいのであれば、人間の行動パターンや思考パターンを知るべき。社会の構造を知りたいのであれば、社会構造の分析アプローチを何種類も知っておくべき。例えば歴史を振り返ることは組み木を増やす一助になる。

解像度のチェック方法

もし考えているビジネスの解像度が高いなら、最低限この文言は埋められていないとおかしい。また、「」部分は明確、簡潔かつ具体的に話すことができるはず。

「状況」という状況で
「課題」という課題を持つ
「対象顧客」向けの
「製品・サービス名」という
「製品・サービスジャンル」を作ります。
これには「利点」という利点があります。
「既存の代替品・競合」とは違い
「差別化要素」が備わっています。

例えば、対象顧客を「新規開店をしたばかりで売上を伸ばしたい飲食店向け」と言っても、あまりに一般的すぎて意味がない。
また、「大きい課題があって」「それをお金を払ってでも解決したい」と消費者が思っていないと意味がない。課題の大きさ以上の価値は生まれない。
常に「Problemの質」か「Solutionの質」と高めるしかない。

どうすれば解像度を上げられる?

  • 「情報」「思考」「行動」の組み合わせ

    • 特にまずは行動。自分の考えを外に出したり、下手な段階でも作品を世に出すなど、打席に立つ回数を増やすことでヒットの数も増える

      • 幸運を得やすい場所に自らを導くイメージ

    • 粘り強い取り組み。起業であれば約1,000時間取り組むことで初めて光明が見え始める感覚。まず200時間を情報と思考と行動にあてる。それを検証し、ピボットし、、を繰り返すと1,000時間かかる。

    • ★インプットで良い材料を集めない限り、思考しても意味がない、というタカマツ氏の教えと同じで納得感がある。

  • 「内化」と「外化」の組み合わせ

    • 読む・聞くなどによって知識を習得したり、活動(外化)後の振り返りをする。それを書く・話すなどによって思考を表現する。外化することで気づきのフックが増え、結果的に内化が捗る。

    • まずは「自分が考えていることを書く」。書くことで私たちは考えることができる。特に、文章を書くことで論理の飛躍に気づくことができる。

      • 書くことで自分の間違いや解像度の低さに気付ける。書くことはあくまで作業だと考え、多少適当でも良いから筆を進めるのがコツ

    • サーベイしたことを言語化・構造化して意味付けする。サーベイしただけでは意味がない

    • コミュニティに入ることで内化の精度が上がる。ニュートンが「巨人の上に立つ」と言ったように、人の実践や失敗にも頼ることが大事。優秀な人をそばにおけば、「思考の質が上がる」「モチベーションが維持できる」「外化・内化のサイクルが早回しできる」など良いことづくめ。

      • ★「人との対話で思考は加速的に深まる」とすると、コーチングはとても理にかなっていると言える。人との対話にお金・時間を惜しまないことが勝ち筋だと思う

  • スタンス

    • 普段生活している世界を見つめ直し、これまで気にしなかったような物事に注意を向けて、改めて理解しようと努力する

    • 課題はWhyを、解決策はHowを5回繰り返す

感想

  • 一言で言えば「結果を出したいなら徹底的にやろう」ということだと思う。情報が簡単に得られるようになり、簡単に「それっぽいことができる」時代になったからこそ、徹底しないと良い答えを見つけられないし、人を説得することもできない。

  • パラノイアサバイブではないが、著者が向き合ってきたレベルの高い起業家たちはみな偏執狂であると痛感。1,000本の論文を読んでしまうほどの強い人と戦っていることを自覚しないといけないし、最後は粘り強い精神力がものをいう世界。

  • 「自分の頭がよくなるだけでは何もできないが、人を頼るためには自分が魅力的でないといけない」というニワトリタマゴを突きつけられているような気がした。身も蓋もない言い方だが、頭の良さと人間力を両立する。もう少し具体的に言えば、「インプット→思考→アウトプット」を自力で繰り返すサイクルと、「発信→他者との関係構築→特別なインプット」を他者と繰り返すサイクルの両輪をバランスよく回し続けないと、高みには到達できない。

    • ★自分はどちらかというと前者の方が得意なので、後者に注力しないといけない。元同僚でBizDevのプロの人が「自分は誰とも話さず家で本を読んでいたい人間だが、それでは事業開発をできないことはわかっているので、仕事だと思って心に鞭を打って人と会っている」と言っていたことを思い出した。

Next Action

  • 問題解決を迫られた時にはまず、「無知の無知があるかもしれない」と考える。その上で「現場で何が起きているのか」「その問題の真因は何か?」を掘り下げて考えることを習慣にし、「深さ」を確保する

  • 引き続き、人よりも多くの時間と金を「探索」に費やす。探索が失敗に終わるリスクを許容する

  • このサイクルを強く意識したい

本書を参考にVodka作成


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