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【医師のイギリス公衆衛生大学院留学】受験と渡航までのタイムライン

医師としての留学の際の選択肢

 私は元々英語が好きで、学生の時からバイトでお金を貯めては長期休暇を使って海外旅行に行っていました。旅行先のユースホステルで出会った人たちと交流したり、交換留学で自分の大学に来てくれていた人達の国を逆に訪れたりした時に、片言でも英語でコミュニケーションが取れることがとても楽しく英語を勉強するモチベーションになっていました。せっかく好きな英語を活かすために海外で仕事がしたいという思いが強く、実際に医師になった後にはその方法を色々と模索していました。学生の頃も医師になった後も私は無知だったため、医師の留学は大きく臨床留学と基礎研究留学に分かれるのみと思っていました。海外で臨床をすることは単純にカッコ良いなという憧れはありつつも実行に移すのはあまりにハードルが高く感じられ、一方で自分が基礎研究の研究者になる姿もあまり想像できませんでした。

 もともと大学に入学する前から小児科医になることは決めていたのですが、学部での臨床実習を経て感染症も面白いと思うようになり、医師としての研修を開始してから小児感染症というサブスペシャリティがあることを知りました。感染症の勉強をする中でワクチンや、薬剤耐性、熱帯感染症や顧みられない熱帯病のことを知るようになりました。世界中の主要な大学には公衆衛生大学院という場所があり、公衆衛生が一つの学問分野として確立しており各所で先進的な研究が行われていることを知りました。なにより小児科学・感染症学と公衆衛生の親和性は非常に高く、自分が留学をするならこの道が1番良さそうと思うようになりました。医師として働き始めて色んな学術論文に目を通す機会が増えて、Methodのところに書いてある詳細な研究方法を100%理解できないことが多く自然と疫学や統計学の勉強をはじめました。ある程度理解できるようになってきたら、今度はどんな環境にいたらこんなすごい研究ができるんだろうと思いを馳せるようになり、自分もそんな環境に一度は身を置いてみたいと思うようになりました。

MPH留学を決意

  小児科の後期研修2年目(医師4年目)の時に、数年以内に公衆衛生大学院へ留学することを決心して、周りにも伝えるようになりました。ただし、地方大学出身で当時の勤務先も地域の基幹病院という環境で、身の回りには公衆衛生大学院留学の経験者は全くいませんでした。今はどうかはわかりませんが、当時はMPHというもの自体知っている人が身の回りに全然いませんでした。

 実際の出願に際しては推薦書が必須である中、欧米のMPHホルダーなど海外における公衆衛生分野での経験がある方に推薦いただくのが最も強力なのではないか、と当時の自分は思い*、そのような推薦をしてもらえる方との繋がりを求めて、小児科研修を終えた後は東京の病院で小児感染症のサブスペシャリティ研修を行うこととしました。

 *実際は推薦状は受験先の大学が指定している要項を満たしていればよく、MPHホルダーや海外経験のある先生方から推薦をもらうことが有利に働くかどうかは不明です。もちろん強力な推薦が得られるに越したことはないとは思いますが、何より受験先の大学が欲しいと思う学生像と、受験時の志望動機書や推薦状の記載内容から浮かび上がる学生像が上手くマッチしていることが一番重要な気がします。

 地方から東京に出てきて、MPHホルダーの先生が勤務先に何名かいらっしゃったのでお話を伺いました。東京でのサブスペシャリティ研修はとても忙しかったのですが、その中でご縁が繋がり大規模な臨床研究に関わることができました。研修と研究をそれぞれ指導いただいた先生方と、出身大学でお世話になった小児科教授に推薦状を書いてもらえる目処が立ちました。

Deferという選択肢

 自身にとしては、留学を開始するタイミングはサブスペシャリティ研修を卒業する年になればキャリア上のギャップができないので、一番スムーズだと考えていました。実際に受験するタイミングを具体的に調べてみると、だいたい夏〜12月頃までに出願を完了し、翌年1〜3月頃に合否判定が来ることが多いようでしたので、万が一留学先が決まらなかった場合に、サブスペシャリティ研修修了後の身の振り方が難しいなと思いました。

 各大学の出願要項を見ていると、条件付きで「合格した権利を翌年に繰り越せる(defer)」システムがあるところがいくつかあることを知りました。Deferできる条件は大学により様々で、原則認めない・原則認めないが余程の理由がある場合・納得できる理由があれば可能・特に理由を提示せずとも可能、など様々でした。もし自身がサブスペシャリティ研修を終える最後の年に早々に留学先が決定していれば、実際の留学までの期間の過ごし方も早いタイミングで決めることが出来そうでしたし、返済不要の国内奨学金の獲得にも有利な気がしました。実際の留学開始を2023年に設定した場合に、2022年秋入学の権利をdeferすることを前提に、2021年に受験することにしました。

受験

 合格後にDeferできる可能性が高そうで、かつ自分の興味・関心と合致する大学を選定し、2021年の8月〜12月にかけて、下記の大学に出願しました。

 ・Emory University - MPH in Epidemiology 不合格
 ・Boston University - MPH Epidemiology and Biostatistics 無条件合格・奨学金付き
 ・Imperial College London - MSc Epidemiology 条件付き合格
 ・University College London - MSc Applied Infectious Disease Epidemiology 条件付き合格 
 結果は上記の通りとなりました。

 合格した大学のうち、どこにdeferを依頼するかを検討しました。Deferをする場合も学費の1割程度をdepositとして納める必要があったので、依頼するとしても1-2校だと考えていました。各大学のホームページを改めて詳細に確認し、どのような教育を受けられ、どのような研究に関わることができそうかなどを比較検討した結果、Imperialのみにdeferを依頼することにしました。Imperialのdeferはそこまで厳しい条件ではありませんでしたが、理由を説明する必要がありました。「自身は病院の感染管理部門で仕事をしているためコロナ禍の最前線に立っており、国内のコロナ流行が終息の兆しを見せない状況であるため、もう1年現場での仕事をしたい」という半分本当・半分誇張のような内容のletterを書いて提出したところ、幸いにして翌年入学へのdeferが認められました。これを受けて進学先を確保した状況で2022年度は1年間過ごすことが出来ました。

 一方で、元々deferできないことが明言されている大学への出願を2022年に行うことを検討しました。しかしImperialの詳細を調べれば調べるほど本学への興味が湧き、実は自身の興味関心との親和性が非常に高いことに気づきました。日本人医師が公衆衛生大学院留学をする際にチャレンジすることの多いHarvardやLondon School of Hygiene & Tropical Medicineを受験しようかとも思いましたが、これらの有名大学に合格したとしても実際に進学してそこでないと勉強できないことがあるかというと微妙な気がし、Imperialで行われている研究内容に既に興味が湧いており何となくご縁を感じたことなどから、メンターの先生方とも相談の上で2022年の新規出願はしない方針としました。コロナ禍の感染症診療において多忙を極めていたことや、夏頃に大きな怪我をして手術を受けたことなどから、新しく出願する余裕が無かったことも大きな理由です。

奨学金の申請と獲得

 海外大学院留学に際しての国内財団をはじめとした返済不要の大口奨学金は、ほとんどが渡航前年から申請と選考が始まります。公衆衛生大学院は専門職学位のため、留学前に研究テーマが明確に決まっている受験生はごくわずかだと思います。その一方で奨学金の申請書には留学後の研究テーマや研究計画を詳細に記載しなければならないところが多く、自分は留学して何をしたいのか・留学後にどのようなビジョンがあるのか・どんな研究をしたいのかなどについて深く考える必要がありました。

 私はすでにImperialへの入学権利を保有していたので、奨学金への申請においても有利に働くのではないかと思っていましたし、実際そこを強みとしてアピールしました。幸いにして吉田育英会からのサポートをいただくことになりましたが、自身の年齢から申請さえできなかった奨学金も多かったです。奨学金の申請と面接などの一連のイベントは2022年度の1年間の中で最もストレスフルなものでしたが、この中で自身の留学に向けての考えがより精錬された気がしています。

 また、進学先のImperilaの内部奨学金として自身が申請できるものが2つあったので、ダメ元で応募してみたところ、幸運なことに学費に充てられる返済不要のImperial College School of Public Healths Masters Scholarshipというものを頂ける事になりました。

学生ビザ申請と渡航準備

 IELTSやTOEFLなどの英語スコアは2年で有効期間が切れますが、入学時点で有効であることが無条件合格の要件となります。すでにスコアを持っているものは出願の際には使えたのですが、入学時点で有効期間が切れてしまうので実際の渡航前には受け直しを予定していました。イギリスの学生ビザ申請のためには受け入れ大学からの無条件合格を得るか、IELTS UKVIという通常のIELTSよりセキュリティチェックが一段強いもので一定のスコアを得た上で大学主催のPre-sessional courseを受講する必要があります。IELTSの受験し直しは、実際の渡航に間に合うタイミングまでにすれば良いだろうと悠長に考えていたのですが、そもそもIELTS UKVIのスコアを持っていない場合、Pre-sessional courseへの応募もできず、自分はこのままだとビザの申請さえ出来ないことに2023年3月に気づきました。

 2023年4月に久しぶりにIELTSの勉強を短期集中で行い、4月末にIELTS UKVIを受験して無事無条件合格のスコアを獲得することが出来ました。同時期に、受験費用が安く短時間で終わるDuolingo Engish Testを何度か受けてみましたが、結果としてIELTSでのスコアメイクの方が自分には合っていました。Imperial側に連絡し、速やかに無条件合格にoffer statusがアップデートされました。

 イギリスの学生ビザ申請のためには、大学からのCAS(Confirmation of Acceptance)の発行が必須となります。私の場合、IELTS UKVIのスコア獲得後の比較的早いタイミングにCASが発行されたのですが、ほぼ同時期に学内奨学金の獲得が決まったので、CASの記載内容に変更が生じることとなりました。以降大学側からの新しいCASの発行まで約2ヶ月待つこととなり、6月末にCAS発行、7月上旬にビザ申請の流れとなりました。申請後、審査完了まで通常3~6週間かかると言われ、Pre-sessional course(無条件合格済みなので必須ではないが有用そうなので希望で参加)を受ける自分は8月末には渡航予定だったので、最悪審査が却下されてしまった場合に渡航まで間に合わなくなると判断しました。審査を早められるファストパスのようなサービスに課金し、申請から1週間後の7月中旬に無事ビザの審査を通過した旨の通知が来ました。

 現在、ビザの申請と同時進行で細かい渡航準備を進めています。
 具体的には、
 ・現地で住む部屋の予約
 ・飛行機チケット購入
 ・学費の送金
 ・留学保険の申し込み
 ・銀行口座の整理、WISEなどの準備
 ・国内における各種契約や投資の整理
 ・船便の手配
 ・引っ越し荷物の準備
 ・積み残している研究業務
 ・会いたい人に会う
 ・英語の勉強
 ・Rや統計学の勉強
 などです。今後渡航直前期になると行政上の手続きがいくつか発生します。

おわりに

 留学を実現させるために、色々と計画的に動いていたつもりでしたが、奨学金の年齢制限や、IELTS UKVIの存在など事前に知っておきたかったこともたくさんありました。各ステップのさらなる詳細はいずれ記録に残したいと思っていますが、上記のような大きな流れに関する記事が誰かのお役に立てば幸いです。





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