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まえがき
2024年3月11日。忙しい日々に少しばかりの自由な時間を見つけ、街の図書館に出向いてきた。オフホワイトの壁に焦茶色の窓枠が取り付けてあり、初春のやわらかな日差しがダークグレーの絨毯に影をおとしている。本棚や2階へ通じる螺旋階段も窓枠と同じ焦茶色の木材で作られており、全体としてシックで落ち着いた雰囲気である。それでいて、窓を大きく取ることによる採光の工夫と白い透けガラスのシャンデリアによって重々しい雰囲気は一切感じない。時折目の前の通りを走る車たちが反射したであろう軽やかな白い光が時折館内の壁をかけ踊る。ああ、冬が終わったな、と思う。
わたしは今、日本の反対側、カナダのとある街にいる。時差は13時間。たとえば日本の人たちが週末明けの重たい体をベッドから起こして仕事に行く準備をする月曜日の朝、わたしは日曜日が少しずつ終わっていくことを惜しみながら週末最後の夕食を準備し始める。不思議だなと思う。通信技術が発達した現代、ネットの世界では誰もが世界中と繋がって同じ時間を共有しているように見えるけれど、現実世界では誰かが誰かの昨日を生きている。
冒頭で述べた通り、最近この忙しない外国生活の中にようやくゆとりが持てるようになってきた。毎分毎秒頭に浮かんでは消えていくとりとめの無いことを少しずつ、この無限に広がる宇宙のようなネットの世界のかたすみに記録しておこうと思いたった。これはわたしの独り言であり、同時にこの世界の見知らぬ誰かへの宛先の無いメッセージでもある。
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