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社会課題を解決する浜松レモンケーキの誕生秘話 | 株式会社平出章商店 平出社長インタビュー

製菓・製パン材料、機械の販売をする株式会社平出章商店は、「つながり創造企業」を鍵にさまざまな事業を展開しています。また昨今ではSDGsや障がい者雇用にも力を入れているといいます。

経営理念を一新し、同社の舵を大きく切ったのは三代目社長の平出慎一郎さんです。

今回、静岡みんなの広報は、新たに始めた新規事業支援の内容や経営理念をつくり直すまでの苦労について伺いました。


レモンケーキから生まれたつながり

「つながりを創造」の成功例として浜松レモンケーキがあります。こちらはフードロス削減や障がい者雇用などを一気に実現できた事例だと私たちは考えています。

レモンケーキの一件はさまざまなメディアに取り上げていただき、浜松市からは社会貢献活動をした企業に送られる浜松市CSR活動表彰優秀賞をいただきました

菓子巧房 ほほえみ様のレモンケーキ

レモンケーキが生まれた経緯はこうです。

ある日、ジュースをつくっているある農家さんから、「果汁を搾り取った後の皮を何か使えないか」というご相談をいただきました。

そこで私たちは、加工業者さんと一緒に浜松レモン​​4ミリ角ミンスを開発しました。これはレモンの皮を砂糖で煮て小さくカットした商品で、焼き菓子やパン、ゼリーなどの材料にお使いいただけます。

こちらの商品を大手菓子メーカーさんに紹介したところ、レモンケーキの材料に採用していただけました。

しかし、今度は大量の皮が必要となりました。

そこで生産者さんたちに呼びかけたところ、形や大きさが規格に合わないレモンが大量に出荷できずにいることがわかりました。これを譲ってもらうことで、フードロス削減に貢献できました。

レモンの加工はジュースをつくっている地元の障がい者施設さんにお願いしました。

その施設は作業のある時期とない時期に偏りが出るという問題に悩まされていました。しかし弊社で取り扱っているレモンは冷凍保存しているため、時期を選ばず作業ができます。仕事のない時期に作業をお願いすることで、障がい者の方々の雇用を創出することにもつながりました

地元の方々と一緒に商品を開発していくうえで、本来捨てるものが商品になったり障がい者の雇用を創出することができたりと、まさにWIN-WIN-WINな循環を生み出せたと自負しています。

寄り添うことで見える課題

弊社は「つながり創造企業」をキーワードに、「商品の裏にある想い」「お客様とお客様」「安全な食と自然環境」をつなぐ取り組みをしています。

「つながり」は昔から掲げていたキーワードではなく、私が社長に就任してから意識し始めた言葉です。理由を話すと長くなるので(笑)、その前に少しだけ会社の紹介をさせてください。

弊社の主な事業は製菓・製パン原材料、パッケージ、機械の取り扱いです。

私の祖父にあたる平出章が会社を立ち上げたのが昭和24年、以来、浜松市を中心に地域密着で事業を展開してきました。件数だけで言うと、900を超えるお客様と取引させていただいています。

全国チェーンのお店はあまり入っておらず、地域のお菓子屋さんやパン屋さん、オーナーシェフのお店とのお取引がほとんどです。静岡県西部ですと、ヤタローさま、たこまんさま、春華堂さまなども弊社の大切なお客様です。

弊社は製菓材料だけでなく、機械の取り扱いもしています。材料と機械の両方を取り扱っている商社は静岡県西部地域で私たちだけです。ですので、材料を届けるとともに、「この機械があれば作業が効率化できるかもしれませんよ」といったご提案もできるわけです。

もちろんメンテナンスや修理も対応していますので、「機械の調子が悪いんだよね」とおっしゃっていただければ、すぐに駆けつけることができます。

また弊社は以前より、静岡県洋菓子協会、銘菓会、静岡県西部和菓子同業会といった製菓団体の事務局をさせていただいているので、事業支援の方面からもお客様の要望を聞ける立場にあります。

材料、機械、事業支援の三方向からお客様に関われるのが弊社の強みです。

この強みを活かすためにも、社員には「お客様に一番近いパートナーになろう」と伝えています。気軽にお声をかけていただける関係性を築くことで見えてくる課題があるんです。

平出章商店は「本当は何の会社」なのか?

私は平出章商店の三代目社長にあたります。9年前、私が会社を引き継いだ時、今後の経営をどのようにしていこうか再考しました。

父がつくった経営理念はあったんですけど、どうしても自分の中に落とし込めませんでした。社長が理念を説明できないのに、社員と想いを共有できるわけありません

だから、すでにあった経営理念に手を加え、自分の腑に落ちる形につくり直そうと考えました。

自分たちの会社は何の会社だろうか?
ただ商品を仕入れて届けるだけの会社だろうか?
従業員はどんなところに社会的意義を感じているだろうか?

このように考え始めたきっかけに、松下電器産業(現・パナソニック株式会社)の創業者、松下幸之助さんの逸話があります。

松下電器がまだ世間で知られていない頃、「松下電器とはどんな会社ですか?」と営業先から尋ねられた社員が「電気製品をつくっている会社です」と答えたそうです。

これに対して松下さんは言いました。「それ、君、僕の考え方と違うな。松下電器は、電気製品をつくる前に人間をつくる会社や。もう一回言い直してこい」と。

そのお話がすごく印象に残っていて、平出章商店の在り方を問い直すきっかけになりました。しかし、経営理念のつくり直しは想像していたほど平坦な道のりではありませんでした。

社員からの痛烈な一言

新たな経営理念をつくるため、私は東京で行われていた経営の勉強会に参加し、良い会社・良い経営理念を研究しました。

そしてある程度形が定まってきたタイミングで、新しい経営理念を幹部社員に周知しました。ところが返ってきた言葉は、「難しくてついていけません」でした。

もちろんショックは受けましたが、あの頃は考えすぎで迷走していたんだと思います。むしろ正直に言ってもらえてよかったです。せっかくつくり直しても社員に浸透しなければ意味がありませんから。

この失敗談を経営者の先輩にしたところ、「一人で悩むのではなく、プロジェクトチームを組んでみんな経営理念を考えてみてはどうか」とアドバイスをいただきました。

先輩方のアドバイスをもとに、経営理念づくりは平出商店の社員に加え、外部の専門家を巻き込んだ大プロジェクトとなりました。

社員アンケートで会社の好きなところ、お客様から感謝されたいところ、仕事のやりがい・働きがいなど、一つひとつを洗い出し、さらにお世話になっているお客様にもヒアリングしました。

会社が大切にしてきたもの、これから大切にしていかなきゃいけないもの、先代たちの信念などが浮き彫りになっていく中で、祖父の時代からコツコツと積み重ねてきた信用は、それだけで価値のあるものだと気づかされました。

70年間という長い時間の中で、お客様との間に築いた無数の「つながり」こそが我が社の最大の財産だったんです。

私たちのような卸売業といえば、材料のメーカーさんとそのユーザーを「つなげる」仕事です。ただし、つなげるのは商品そのものだけではなく、商品に込められた想いや受け継がれるノウハウを「つなげる」ことも大切な仕事なんです。

会社の歴史を振り返ってみれば、この役割は創業以来変わっていませんでした。「つながり」を経営の中心に据えたとき、一本の軸がすっと通ったように感じました。

「平出章商店は『つながり創造企業』です」と、今では自信を持って答えられます。

先ほど製菓団体の話が出ましたが、事務局に関わり始めた当初は「大変な仕事を引き受けちゃったな」という気持ちがありました。しかし、事務局の仕事は「つながりをつくる」という意味で、会社の目的そのものではありませんか。そう考えると、事務局の仕事も負担から目的に変わりました。

現在の経営理念もできてからまだ3、4年です。浸透するにはまだまだ時間がかかると思いますが、いずれ社員一人ひとりが理念に沿った行動をしてくれたらいいなと思います。

説明できないことはやめる

今までやってきたことっていうのはすごく大事だとは思うんですけど、一方で、「やめる時はやめる」というのも大切な考え方だと思います。

たとえば、明文化されていないのになんとなく機能している会社のルール。歴史の長い会社であれば、「うちはこういう会社だから」と思考停止して意味のない決まり事を続けているケースはよくあると思います。

しかし、ときどき立ち止まって考えてみて、「何のためにやっているのか」をちゃんと説明できないことは思い切ってやめちゃえばいい。時代とともに環境や考え方は変わっていくものであり、続けることが害となる慣習もあるでしょう。

弊社でいえば、以前は「毎週水曜日の始業30分前に会議をする」というルールがありましたが、「べつに仕事が始まってから会議をすればいいじゃないか」となって廃止しました。

もしかしたら制定されたときには意味があったのかもしれませんが、今では不要のルールとなりました。まだまだ推奨していない暗黙のルールがあるので、順次廃止していければと思っています。

採用強化中!

レモンケーキの話の中で障がい者施設さんの話が出たのですが、弊社でも障がい者雇用を進めています。

ご縁があってちょうど今日(取材日)から、近くに住んでいる方に職業体験という形で来てもらうことになっています。相性が良ければ今後ずっと働いてもらえることでしょう。

このように障がい者雇用の取り組みを始めて気づいたんですけど、やっぱり働きたい障がい者の方はたくさんいらっしゃって、企業とのマッチングを望んでいるんです。ただ、マッチングの段階でうまくいっていないのも事実です。その環境を整えるのも我々の大切な仕事だと感じています。

雇用で言えば、昨今では新卒採用にも力を入れ始めました

若い方に関心を持っていただけるようにホームページを見やすくしましたので、ぜひ一度覗いてみてください。

製菓業界に興味がある方、経営理念に賛同してくださる方、「入社したらこんなことしたい!」というビジョンのある方、一緒に地域を盛り上げていきましょう。


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