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地方では出る杭は打たれず、引っ張られやすい理由 | 天神屋 有田一喜 社長インタビュー

ホテルや鉄道など、数々の事業の再建に携わってきた天神屋の有田社長。今回、静岡みんなの広報は、そんな有田社長に天神屋50年後のビジョンや食の未来、一緒に働きたい人の特徴について伺いました。

▼前編はこちらから▼


社会的に価値のあることをやりたい

私が新たな事業に踏み込むかどうかを判断する基準は二つあります。一つ目は「できそうかどうか」、二つ目は「面白そうかどうか」です。ここで言うところの「面白さ」は、社会的意義の強さのことを指します。

私は以前、金融の会社に勤めていたことがありますが、「消費者金融事業再生の話があって……」と話を持ちかけられてもあまり積極的にやりたいとは思いません。

しかし、「かつて一世を風靡した老舗プラモデルメーカーが潰れそうで……」と相談されたら、「ぜひやらせてください」とお願いしてしまうと思います。あくまで個人的な感覚でしかありませんが、単純に利益が出ることより、ユニークかどうかが私の中で優先順位は高くなります。ユニークとは「他にはない」と言う意味です。他にないものには社会的意義の強いものが多いように感じます。

たとえば、同じ電車、同じ線路を持つ鉄道会社は二つとありませんし、そんな鉄道会社を経営できる経験は滅多にないでしょう。したがって、鉄道会社は私の中では「面白い」と感じられました。そのように、「社会的に意義があってユニークだ」と思ったらやってみたくなるのです。

突出した能力はない。しかし……

役職の階級やレイヤーが上がれば上がるほど、実際やっていることや考えていることは同じではないかと考えています。

たとえば、フリーランスでデザイナーを始めた人は、サービスの前線で画像編集ソフトのPhotoshopやIllustratorなどを開いてデザインの作成をしてくことが仕事となります。内容がとても具体的ですよね。

しかし仕事が増えてくると、請求書や書類を作成したり、銀行と交渉するといった経理事務が増えてきます。そのうち法人化して人を雇い始めると人事、総務、労務が必要となります。さらに会社が大きくなればマーケティングやマネジメントが必要になって……と、デザインや電卓を叩いたりするような具体的な仕事から遠ざかっていきます。

会社では役職が上になるほど、全体を俯瞰して足りないものを探すような仕事が増えていきます。「事業の目的・目標をどうするのか」「マンパワーは足りるのか」「資金はあるのか」など、大枠でのコントロールが主な仕事になってきます。このような姿勢は、ビジネスごとであまり変わらないのではないかと私は考えます。

独立をした27歳の頃には、会社を俯瞰して見るようになるとは想像もしていませんでした。昔に比べると経営の考え方だけではなく、自分自身の見方もかなり変化しました。

自分の特徴を端的にたとえるなら、「どこにでもいて、どこにもいなさそうな人」です。東京に住んでいたときは「東京の人らしくないですね」と言われましたし、北海道や静岡でも同じように「○○にいなさそうですね」と言われました。当然、海外でもです。

一方で、「東京の人らしいですね」「静岡の人らしいですね」と言われることもあります。「どこにでもいてどこにでもいなさそう」なのが私の持ち味であり、この特性は「守備範囲が広い」と表現することで説明ができると考えています。

たとえば私は大学生の頃、アルバイトでWEBデザイナーをやっていました。しかし、最初に就職したのは金融の会社で、財務や金融の仕組みを、その次はリクルートで営業や会社の仕組みを学び、独立して、それらに加え人事・総務・経理をやるようになりました。さまざまな職種を経験し、さまざまな方と関わってきました。だからこそ、いろいろな言語が話せます

デザイン・エンジニア界隈の用語を知っているので、「WEB業界の昔はこうでした」という話ができます。経理をやっていたので、「会計資料の数字がおかしいです」と不備を見つけられます。営業の方には、「どんな営業方法をしているのですか?」という会話が成り立ちます。このように言語を使い分けることで、どこにいても合わせられるというのが、私の最大の強みだと認識しています

誰もがそうだと思いますが、野球でいえば、エースで四番になりたいという願望がありますよね。誰よりも突出した能力を持ち、チームを優勝へ導ける存在になりたいと思いますよね。独立当初は私も、そのように思っていました。

しかし、冷静になって考えてみると、私には突出した能力はありませんでした。確実にエースで四番向きではありません。一点突破で勝負しても勝ち目がないでしょう。20年近く経ってやっと気がつきました。そこで「自分の強みはなんだろうか?」と考えたときに思い浮かんだのが、さまざまな言語を使い分け、多くの人とその人の言語で話せる能力だったのです。

もし今、WEBサイトを立ち上げてほしいと言われても、私にはおそらくできません。一から始めたらとても時間がかかってしまいますが、広く浅く知識があるので首を突っ込むことはできます。また、営業の経験があるので、WEBデザイナーと顧客を繋げる役にはなれると思います。

このように、身軽なフットワークで幅広い分野の人々にコミットできるのが私の特性であり、強みだと気づきました。

だからかもしれませんが、静岡に来て7年経った今でもときどき「静岡にいなさそう」と言われてしまいます。まだまだ静岡人にはなれていないようです。

住みやすく、ビジネスのしやすい静岡

東京で起業してからすぐに上海や香港に行きました。日本に帰ってきて東京を拠点にしながら、北海道で働きました。そして静岡の事業に関わるようになり、島田市に住み始めました。そうやってさまざまな場所を転々としてみると、静岡はビジネスがしやすいなと思える瞬間があります。

私は現在、静岡市内に住んでいます。ビル群がないので街が低く、空気も綺麗です。空が広くて富士山も見えます。食べ物もおいしくて、衣食住すべての水準が高いと考えます。

ただし、原付バイクくらいは持っていた方が良いかもしれません。バスや自転車だけだと移動に困ることがあります。運転が増えるのでお酒をよく飲む方は不便に感じるかもしれません。

私は一切お酒を飲みません。若い方にもお酒を飲まない方が増えていると聞きます。そうはいっても東京に行ったら「飲みにケーション」という文化はあります。なぜなら、お酒の飲める場所がたくさんあるからです。

そのような事情もあってか、静岡は東京に比べて飲みの誘惑が少なく、時間を浪費することがありません。また、仲間内で飲みに行くことがあっても、価値のある付き合いが多いように感じています。お酒を飲みに行った先で新たなビジネスが生まれることもあるのではないでしょうか。

広々とした環境でゆったり仕事ができる

テレワークに関しても東京でするとなると、駅まで行って隣の駅で降りて、どこかのカフェやレンタルオフィスで仕事をすることになるでしょう。

静岡だと市街地から20分ほどのところに温泉気分を味わえる施設があります。温泉に入ったり食事の取れる環境で、集中して仕事ができます。仕事終わりにマッサージを受けることもできます。一日利用しても、コストパフォーマンスがとてもよいと言えるでしょう。

また、車で数㎞ほど走れば海があり、海を見ながらカフェで仕事することもできますし、同じように数㎞行けば山にも行けます。自然の景色が広がる中で、仕事も生活もとてもしやすいと思います。

コロナ渦も地方にとってプラスだと思っています。テレワークが浸透し、東京は流出が増え、地方は転入が増えるわけです。とくに静岡の場合は、週に一回東京に行くことが苦ではありません。交通費だけの問題なので、会社が月に10万円くらい出してくれるなら、わざわざ東京に住む必要はなくなります。

ただし、東京は情報が密集していることもあるため、濃密に時間が過ぎていくと感じられます。一方で、静岡は気が緩むと無限に時間を使ってしまいそうになります。そこだけは気をつけないといけません。

三段飛ばしで芽が出る可能性

都心だと、よっぽど人材として飛び抜けてないと注目されませんが、静岡の場合、頑張っている人はしっかりと興味を持ってもらえます。母数が少ないので、目に留まりやすいんですね。

また、自分で発信しようと頑張っている人は努力が報われやすいと思います。成果は抜きにして、頑張っていることに対して報われている実感は東京よりあるのではないでしょうか。それは経営者のような、会社のトップも同じです。

東京では能力の目立つ人が多すぎるため、一人ひとりの影響力が弱まってしまいます。相対的に目立ちにくい。そのような中では手を挙げてアピールしにくいですし、注目されにくいですよね。

その点、静岡は東京に比べて人口が少ないため、手を上げてアピールすると周囲から注目されやすく、三段飛ばしで芽が出る可能性があるのです。

仮に静岡で少し話題になれば、ホップステップの段階を省略し、一足飛びに大手企業の会長から「今すぐ来てください」と声がかかるかもしれません。東京ではまずありえないことでしょう。静岡はそれだけ人材に飢えているのです。

静岡では、出る杭は打たれるのではなく、むしろ出る杭は引っ張られやすいと私は思います。純粋に量と質を考えると、意思が強い人なら静岡のほうが仕事をしていきやすいのではないでしょうか。

こんな人と一緒に働きたい

食やサービス業が好きな方、ぜひ一緒に仕事をしましょう。「誰かに必要とされる仕事をしたい」「世の中のために小さくとも意味のある仕事をしたい」と考えている方には、当社で活躍をしてほしいと思います。

天神屋には18歳から60歳を超える方々が働いています。優秀であれば何歳でも新規事業担当をお願いすることがあります。実際、直近に立ち上げた新規事業の担当は60歳くらいの方でした。つまり、年齢は関係ありません。

ここ3年くらいの天神屋の戦略は「目的と資源」です。最初に申し上げたように、これまでは「何百、何千の細かい改善をすれば必ず良くなるはず」という、パワーで押し切る経営方針でした。しかし今では、目的なく資源を消費するようなことはせず、慎重に資源の投資先を選ぶようになりました。

優先順位を付けずにリストの上からすべてに手を入れるパワー戦略で改善できた事業も、過去には多くあります。たとえば鉄道でしたら、線路沿いの中でもターミナル駅の強化が売上のキーポイントになります。重要拠点にいる従業員に影響を与えられれば、事業改善は進んでいきます。

ところが、天神屋ではそれが通用しませんでした。なぜなら静岡県全土に価値が分散してしまっているからです。天神屋は店舗数が30店もあります。くわえて店舗は東は伊豆、西は浜松にまで広がり、行き来に3時間半もかかります。私の能力が常人の10倍だったとしても、全員に影響を与えるのはほぼ不可能です。

このような経験は初めてで頭を抱えました。しかしそんな時に手に取った、『なぜ「戦略」で差がつくのか。』という本に、現状を打開するヒントが書かれていました。

ここには「戦略とは目的と資源の管理だ」と書いてありました。詳しい内容は省略しますが、この本の教えに沿って考えを整理したところ、付加価値の高そうなところに資源を集中させていくことこそが、これから天神屋がやっていかなければいけないことだと気づきました。

また、エースで四番でなくても成果の出る環境づくりが求められるのだと再認識しました。基本的に私たちは凡人なのですから。

個人的な感覚ですが、基本的に人の能力に大きな差はないと思っております。そういう意味では、私を含め「凡人」です。それでも成果が出せる環境をどうつくるのか、どのように従業員の力を引き出すのかが、私の仕事として極めて大切な部分だと考えています。

同時にサービス業、飲食業というくくりに関わりなく、タフで優秀で、さらには「10年以内に社長になりたい!」のような大きな野心を持っている方がいらっしゃれば、かなり大胆に面白い仕事を任せたいとも思っています。リスクを取るのは私の仕事です。その上で、大胆に攻めてほしいとも思っています。

5年前に事業再生が始まり、途中にコロナもありましたので、まだまだ道半ばです。やらなければいけないことがたくさんあるので、活躍の場はいくらでもあります。

新卒でも、第二新卒でも、「我こそは!」という方をお待ちしています。静岡の食のインフラ、静岡を代表するフードカンパニーを一緒に創っていきましょう。

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