大正時代の自社ビル。隣は自宅。通勤は秒の扉ドン。
鴻池組旧本店[洋館・和館]。
洋館が自社ピル。和館が自宅。
壁ドンならぬ、扉をドンと開けるだけ。扉一枚で通勤0秒!
ユニークな大阪の近代建築です。
鴻池組
前回は和館の内部見学。
よろしければ「鴻池組 明治43年の自社ビル」記事をご覧ください。
今回は洋館へ
大阪市此花区。
ご存知、湾岸にテーマパークが在る街。
戦前まで、此花区は鉄工所が多い重工業地帯。
「東洋のマンチェスター」と呼ばれていました。
戦争が始まると、軍需工場地帯に。
1945年・大阪大空襲。鴻池組旧本店は奇跡的に戦禍を逃れたのです。
1910年(明治43)竣工。和洋館設置型というそうです。合理的ですね。内部の扉で自宅と会社を行ったり来たり。
当時としては最先端。現在でも珍しいですね。
アール・ヌーヴォーの洋館
2階建ての洋館。
屋根はスレート葺。
モルタル塗り。最初は白い壁。すっきり、煉瓦色と白色ボーダーラインはタイルで。1914年(大正3)後付け。
社章は、丸に「北」。丸北マーク。
1918(大正7)年に株式会社鴻池組の設立時、所在地の北伝法村より。
◆用語解説
お手伝いさん目線で、大正時代の家政婦は見た
日本家屋と全く違う西洋の建物。
北伝法村の住民は、さぞかしびっくりしたことでしょう。
また、奉公に来ているお手伝いさんたちは、お掃除ひとつとっても超緊張!
鴻池組のお手伝いさんになったつもりで、ご案内します。
わたしは、お手伝いの靜子と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
現在の住宅では、新聞や郵便物の差し入れ口は、やや高い位置にあります。
むかしの建物は低い位置にあったので、しゃがんで取ってました。
では、扉の中へ。
玄関ホールに窓があります。
「ガラスに色が! しっぽの長い、ニワトリ?」
わたしは、ガラスの絵画のような美しさとモダンなデザインに腰が抜けました。
初めて見ました。キレイです。割ったらたいへん!
窓を拭く時はドキドキします。
天井の高い洋風建築。
事務室・会議室・応接室。
お仕事の、お客さまが来られるところです。
窓の布は「カーテン」。川島織物製品。
(自動車1台ぶんの費用で新調したそうです)
カーテンを、見るのも扱うのも初めて。帯のように厚地で重たく、取り外し・取り付けで時間がかかります。
カーテンを結ぶのは大きな帯締めの要領で。キュ。これは得意です。
タッセルと言うそうです。
襖より高いカーテン。
ハタキをかけるだけでも、梯子に登ります。
細かい溝にホコリが。優雅な立体感も、お掃除たいへんです。
木を傷つけないように、優しくね。
明治の終わりから大正時代。約100年前。
なにもかもが体当たりの時代の建物と生活。全集中!
◆用語解説
お手伝いさん目線で、言わせていただくと、凹凸が多すぎて。装飾がキレイなぶん、気をつかいます。
2階の応接室は、まるで外国
階段が大きく広く、2階がとても高く感じます。
日本の階段は、隠れるように小さいのに。
応接室の調度品は、アール・ヌーヴォー様式。
まるでお城。スズランのような電気器具。シャンデリアだと、教えてもらいました。
壁に囲炉裏がくっついているみたいですね。
外国の暖房器具です。鏡は大きくてビックリしました。
外国人は、背の高いちゃぶ台のような、テーブルと椅子で暮らしているのですね。
なにか落ち着かず、ソワソワ。お手伝いのわたしは畳がすき。
座布団だと動かすのが楽なのに。
床に座らないなんて。
壁は、植物模様の布が張ってあります。高級な帯のような柄です。
高い位置に木の飾り。彫った模様がたくさんありますね。
水洗便所は洋式
便器は、英国トライフォード社製品です。
お食事中の皆さま、お許しください。
お手洗いは、腰かけて用を足し、最後はトイレに水が流れるなんて。
信じられません。
手ぬぐいを掛ける横棒もあります。
ここは、縁側ではなく、ベランダというのですって。舌を噛みそうで言いにくい。
若竹色というのかしら、いい色、明るいです。南に向いてます。
旦那さまの像。戦時中の金属供出で、現在の像はハリボテです。内緒にしててくださいね。
洋館も和館も、毎日お掃除。
お手伝いさんのわたし、大忙しです。
最後に洋館と和館の扉ドンを。
通勤0秒。ギリギリまで寝てられます。お昼ごはんも、隣の和館にすぐに食べに帰れますよ。
内部見学は年に一度ぐらいですが、抽選に当たったら、是非ともいらしてくださいね。
キレイにお掃除して、お待ちしております。
お手伝いの靜子でした。
いつも こころに うるおいを。
水分補給も わすれずに。
まとめ
◆鴻池組旧本店[洋館・和館]◆
設計・久保田小三郎
1910年(明治43)竣工。
1968年(昭和43)まで本店。
●洋館・木造地2階建、スレート葺、建築面積90㎡
●和館・木造地上2階建、瓦葺、建築面積154㎡
2022年(令和4)国の登録有形文化財。
普段は内部非公開。年に数回、内部見学会があります。
毎週水曜日は「建物のエッセイ」です。
最後までお読みくださり、
ありがとうございます。
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