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稽古場でのふるまい

芸事は「礼に始まり、礼に終わる」と言われるように、ご入門の方にはご挨拶の仕方からお伝えいたします。

稽古場に入ると、まず師匠に「こんにちは。よろしくお願いいたします」と座って手をついてご挨拶。師匠が他のお弟子さんの稽古中なら、気づいていただくか、キリのよいところまでお待ちします。

師匠へのご挨拶が終わってから、待ち合いにいらっしゃる同門の方にご挨拶。それからはご自分の順番がまわってくるまで、お茶を飲んでくつろいだり、洋服でお越しの場合は浴衣に着替えたり。和気藹々と過ごします。

稽古が始まると、また師匠にご挨拶。座って手をついて「よろしくお願いいたします」と言い終わってから上半身を倒します。ゆっくり頭を上げ、両手を膝の上に戻し、姿勢を正すまでがご挨拶です。

そしてもう一度待ち合いの方に「お先です」「お先に勉強させていただきます」とご挨拶。

稽古が終わると、師匠に「ありがとうございました」。そしてお待ちの方に「お先でした」「お先に勉強させていただきました」。

ご自分が使われたお湯呑みなどを洗い、お帰りになるときはまた師匠のキリのよいところを見計らって「ありがとうございました」とご挨拶。それから同門の方に「お先に失礼いたします」。

稽古場では何度となく座って手をついてご挨拶をするので、ご入門の方はみるみるぴしっと型が決まり、きれいなお辞儀ができるようになっていかれます。

大切なのは、師匠と他の方と、わけてご挨拶をすること。例えばご宗家がいらっしゃれば、まずご宗家にご挨拶。それから師匠、そして他の方にいっぺんに、という順になります。堅苦しく感じられるかもわかりませんが、慣れるとすっきりと気持ちよいものです。

また、ご挨拶のとき以外でも、目上の方とお話するときは必ず膝をつきます。最近は畳のあるご家庭が少なくなり立ったままが普通になりましたので、こちらもご入門の方にお伝えするようにしています。ちなみに土足の場所では膝をつけませんので、目上の方からお話を伺うときは少し腰を落とすか、場合によってはしゃがみます。

もうひとつ、気になっているのが室内での羽織のあつかい。コートは玄関先で脱がれることが多いのですが、着つけ教室やきものに関する本に「羽織は室内で着ていてもよい」と指南されているようで、羽織を着たまま稽古場にお入りになったり、ご挨拶されたりの方がたまにいらっしゃいます。羽織は「自分が目上の立場なら着ていてもよい」のが本来ですので、一般的にはやっぱりコートと同じように、玄関先で脱がれたほうがよいと思います。羽織を着たまま師匠にご挨拶…というのは大変失礼にあたりますので、着つけ教室やきもの本の記載が正されることを願っています。

ご挨拶の順番やお作法など、現代的でなく面倒に思われるかもわかりません。ただ、伝統芸能は先人から学ぶことが大前提ですので「目上の方を敬う」のはとても自然で、合理的なことでもあります。

年少者でも「知識」は得ることができますが、経験から培われた「知恵」は師匠や先輩から教えていただくもの。「礼に始まり、礼に終わる」とは、豊かな知恵をスムーズに伝承することができるシステムでもあるような気がしています。

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