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手作りのお弁当とは?

 学校のプールも始まって、もうすぐ夏休み。小3の娘は夏休みをとても楽しみにしている。でも、こちらとしてはだんだん気が重くなっている。休みになると、お弁当を毎日、作らなければならないからだ。遠足や運動会といった行事がある時だけ作ればよかった保育園時代でも面倒くさかったのに、小学校では夏休み、冬休み、春休み、そのたびに作らなければならない。

 そんな気持ちを知ってか知らずか、娘は最近、こんなことを言うようになった。

 「ママの手作りのお弁当が食べたい。『チン』のお弁当はいやだ」

 私は目をむいた。

 「なに言ってんの。冷凍食品を使ったって手作り弁当って言うんだよ」

 「言わないよ」

 「工場の人たちが手作りしてくれてるんだよ」

 娘は納得できない顔で黙っている。私は「昔はねえ、冷凍食品なんてなかったから、お弁当作りは大変だったんだよ。今はこんなにおいしくて便利なものができているんだから、ありがたく利用しなきゃいけないの。分かった?」と屁理屈を繰り出しているうちに、「それにしてもなぜ、誰の影響で、彼女の語彙に『手作り』という言葉が入ってきたのか?」という疑問が湧いてきた。聞いてみると、どうやら、お友達との会話から「冷凍食品は手作りではない」という発見をしたようだった。

 私は、冷凍食品がなければ、休みの間中、毎日お弁当を用意するなど不可能であること、そもそも、学童クラブには、申し込んでおけばお弁当(通称「頼み弁」)を買える仕組みがあるのに、娘が「おいしくないから、家で作ったお弁当が食べたい」と言うので、申し込まなくなってしまったのがいけないと熱弁をふるった。でも、娘は「ああ、ママにもアスパラベーコンを作ってほしいなあ。あゆみちゃんのママが作ってくれるみたいな……」とつぶやくのだった。

 結局、私はある朝、アスパラベーコンを作ってお弁当に入れた。一つ一つ、アスパラにベーコンを巻いて爪楊枝でささなければならず、とても面倒くさかった。その後もリクエストされるが、体調が良く、時間がたっぷりある時だけ作っている。娘にとってはアスパラベーコンは「手作り」を象徴する食べ物のようだ。

 と、ここまで私は、わが家では私が毎回、お弁当を作るかのように書いてしまったが、本当は夫と代わりばんこにお弁当を作ることになっている。それなのになぜか、娘は夫にはアスパラベーコンを要求しない。考えてみると不思議だ。別に深い意味はないのか、あるいは、子どもが母親に求めるハードルは父親に比べて高いのかなあと思う。

2011年7月3日

【追記】

 この記事が出て数年後、この文章が日本語学校の問題に使われていたことを知った。外国の人が読んでも、きっと「このお母さん、ひどいなあ」と思ったのだろう。

 私も今回久しぶりにこれを読み、自分がどれだけアスパラベーコンを作るのが面倒くさかったんだと呆れた。私の人生は、このように面倒くさいことをいつもしないできたからいけなかったと言っても過言ではないと反省している。

 以下が日本語学校で出された問題。「中級日語」と書いてあるから中級らしい。

問題:下の文の内容は「手作りのお弁当とは?」の内容と一致していますか。一致していれば〇を、一致していなければ✕を書いてください。

①この文章の筆者は、お弁当を作るのが大好きである。

②この文章の筆者は、毎日お弁当を作っている。

③筆者の娘は保育園に通っていた。

④筆者の娘は「チン」のお弁当は手作りではないと思っている。

⑤筆者が娘に「手作り」という言葉を教えた。

⑥筆者はアスパラベーコンの入ったお弁当を作ったことがある。

⑦筆者の娘はアスパラベーコンの入ったお弁当をお父さんにも作ってもらいたい。


☆2009年から2012年まで子ども向けの新聞につづった連載を改編したものです。


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