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「活性地域へ実際に行き、知る、感じる」フィールドワークin三豊③ 〜熊本リーダーズスクール2022第4回レポート〜

一般社団法人自然基金(以下、自然基金)は、自然電力グループが開発した再生可能エネルギーの収益の約1%を地域に還元するプロジェクト「1% for Community」に取り組んでいます。2022年度は、地域コミュニティを牽引する次世代リーダーの輩出を目指す「熊本リーダーズスクール」を開催。
 
今回は、10月25日と26日の2日間にわたって実施した、第4回三豊でフィールドワークのレポート3回目です。三豊で次々と新しいビジネスを展開している地元事業者、「三豊鶴」仕掛け人の1人・細川貴司さん、「宗一郎珈琲」オーナー・今川宗一郎さん、合同会社Fizm代表・藤岡優さん、暮らしの交通株式会社代表・田島颯さん、4人によるプレゼンテーションをご紹介します。

※「熊本リーダーズスクール」第4回 フィールドワークin三豊 レポート①、レポート②

【三豊フィールドワーク1日目行程】
■讃岐文化を伝える宿泊施設「UDON HOUSE」の代表・原田佳南子氏による施設紹介
■「三好うどん」で、さぬきの食文化体験
■暮らしづくりカンパニー「しわく堂」と、お座敷ビュッフェカフェ「おむすび座」の視察
■ビリヤードコミュニケーションプール「BCPOOL」で、しわく堂代表・関大樹氏による事業説明
■絶景農園のゲストハウス「荘内半島オリーブ農園」の代表・真鍋貴臣氏による施設紹介
■父母ヶ浜の夕日、「宗一郎珈琲」「百歳書店」「CHICHIBUGAHAMA-PORT」視察
■地域連合の絶景ゲストハウス「URASHIMA VILLAGE」で懇親会、宿泊
■「三豊鶴」仕掛け人の1人・細川貴司氏、「宗一郎珈琲」オーナー・今川宗一郎氏、合同会社Fizm代表・藤岡優氏、暮らしの交通株式会社代表・田島颯氏、4人によるプレゼンテーション

【三豊フィールドワーク2日目行程】
■「伊吹いりこセンター」でうどん県の朝ラーメン
■臨海ゲストハウス兼ショールーム「積凪」の視察
■古酒蔵を改修した複合施設「三豊鶴・TOJI」の視察
■建材屋+雑貨+不動産「DEMI1/2」の視察、買い物
■窯焼きピザガーデン「SUN CAFÉ」で昼食、振り返り
■豆腐屋とゲストハウス辻家を併設「宗一郎豆腐」、映像制作会社「Fizm」視察
■関係人口シェアハウス「GATE」視察
■薪火グリルの宿泊施設「ku;bel」で、オーナー・浪越弘行氏による施設紹介
■「百歳書店」で買い物


取り壊し寸前の旧酒蔵に新たな息吹を!
“地域の価値”を醸造する場所へ

約140年にわたり、三豊で日本酒を醸造していた酒蔵が2005年に廃業。放置されていた蔵を、地域の有志5人が改装し、2019年夏に“地域の価値”を醸造するスペース「三豊鶴」として蘇らせました。建材店や建材加工、建築土木、農家、地域商社と、職業が異なる5人が、それぞれの得意分野を持ち寄って運営しています。

「三豊鶴」仕掛け人の1人、細川貴司さん

仕掛け人の1人で農家の細川貴司さんは、「酒蔵が危険家屋として取り壊されると聞き、見に行きました。『この土地を見守ってきたよ』と語りかけてくるような、誇りある、圧倒的な佇まいでした。この建物を、自分たちの代で終わらせてはいけない、次の代に残していかないといけない、と強く思いました」と当時を振り返ります。
 
「買い取った当初は、中がとても汚れていたんですが…。少しずつ、皆で片付けて、改装をして、今はとてもきれいになっています。僕らが大事にしたのは、昔のものも、見方を変えると大事な宝になる、ということ。例えば、樽のふたを活用してテーブルを作るなど、古いものに新しい価値を生み出しました」
 
「三豊鶴」では、貸しスペースやレストラン、ゲストハウスなどの事業を行っています。期間限定の地域食文化継承レストランやアートギャラリー、現代サーカスなどのプログラムには、地域内外の人々が多く訪れ、とても盛況だったのだそう。

「三豊鶴」外観

2020年秋にオープンしたゲストハウス「三豊鶴TOJI」は、宿泊客が“酒米”としてチェックインし、酒米を蒸していた釜を活用した醸造大浴場に入るなど、酒造りのプロセスを体感することで、自分自身を発酵させるというユニークなコンセプトです。

「三豊鶴TOJI」の醸造大浴場

細川さんは今後について、「私たちは、“地域の価値”をここで醸造することで、地域内外のいろんな人たちのつながりや、新しい発見、チャレンジをつくり出していきたい。始まってまだ3年目ですが、100年、200年と続いていくようにこれからも頑張っていきます」と話してくれました。


“後継者コンプレックス”を乗り越え
地域コミュニティを牽引するプレーヤーへ

三豊で生まれ育った今川宗一郎さんは、地元スーパーの3代目でありながら、家業だけに留まらず、多数のプロジェクトを立ち上げています。離島での移動販売や老舗蒲鉾店、父母ヶ浜のかき氷カフェなど事業継承を受けたものも含め、その内容は多岐にわたります。

「宗一郎珈琲」オーナー・今川宗一郎さん

「地域のために、といろんな事業に取り組んできましたが、家業も事業継承も、自分でつくり出したものではないという“後継者コンプレックス”を感じていました。そんな自分を乗り超えたいと、 “地域のやりたいに火をつける”をビジョンに掲げ、2019年に『株式会社ウルトラ今川』を設立しました」
 
同じ頃、父母ヶ浜が、1日1万人が訪れるほどの有名観光地になりました。今川さんは、地域の人の想いを伝えることができ、また観光客ともつながれる場所をつくりたいと、コミュニケーションコーヒースタンド「宗一郎珈琲」をオープン。ゴミゼロを目指して5色のマグカップを用意し、赤は「もっとキレイな浜になってほしい」、青は「もっと水回りがよくなってほしい」など、カップを選ぶことで、観光客が父母ヶ浜の未来を考えるきっかけをつくっています。

コミュニケーションコーヒースタンド「宗一郎珈琲」

「コーヒースタンドの後も、『宗一郎豆腐』やカラオケパブ『ニュー新橋』、『URASHIMA VILLAGE』など、いろんな事業に取り組んでいますが、共通するのは、自分の街に投資していること。地元の仲間たちや地域に暮らす人たちなど、身近にいる人の幸せが、自分のモチベーションにつながっているからです」
 
「三豊にはプレーヤーがたくさんいて、チームでプロジェクトに取り組むことが多いですが、もともとはみんなバラバラでした。つながったきっかけは、『UDON HOUSE』での飲み会。何度か集まるうちに一体感が生まれ、点から面へ、そしてシェアする地域へと変わっていきました」
 
「三豊は全員が真剣勝負。お互い本音で話し、指摘し合います。決算書を見せ合うほどの信頼関係があるんです。僕は今36歳で、40歳という年齢が見えてきました。これからは、自分が表に立つことよりも、若い世代が前に出ていけるよう、バトンを渡していきたいと思います。自分1人が生き残るよりも、地域のみんなが生き残ることを、長期的なスパンで取り組んでいきたい」


「三豊の歴史は俺が撮る」
豊かに暮らせる選択肢を増やしたい

三豊のさまざまな事業のプロモーション動画の制作や写真撮影を担当している、地元出身のカメラマン・藤岡優さん。2011年ごろにウエディングの映像制作をフリーランスで請け負うことからスタートし、2018年に合同会社Fizmを立ち上げ、代表を務めています。
 
「三豊の歴史は俺が撮る、という覚悟で撮っています」。藤岡さんは冒頭、こう断言しました。「僕が生まれ育った三豊は、何もない田舎でした。目立ちたがり屋だった僕は、地元で注目されたい一心で、若い頃はやんちゃをしていましたね (笑)。勉強もスポーツも得意ではなかった僕には、それしか選択肢がなかったんです。一度高校を中退しましたが、両親の支えのおかげで、大学に進学できました」

合同会社Fizm代表・藤岡優さん

「映像との出合いは、大学時代に所属していたダンス部のイベント。オープニングで流れた映像を見て、膝から崩れ落ちるほどの衝撃を受けたのを今でもはっきりと覚えています。独学で映像を学び、東京の映像制作会社に就職しましたが、ADとして雑用ばかりの仕事にモチベーションを保てず、2年半で地元に帰りました」
 
三豊に戻ってから、写真も撮り始めた藤岡さん。地元の風景を撮ってSNSにアップしていたところ、あるコメントに目が留まりました。「『すごい、三豊じゃないみたい』と書かれていました。僕には、『三豊にはこんな美しい場所があるわけない』と、三豊が舐められているように感じて…。その時にはじめて、街のことを考えるようになり、街おこしの活動に取り組みました。そこで出会ったのは、本気で楽しみ、本気で学び、本気で挑戦する大人たちです」
 
「カラオケパブ『ニュー新橋』や『暮らしの大学』の立ち上げにも携わるなど、いろんな活動を通して、三豊には自分にできることがたくさんあることに気づきました。かつての僕には、やんちゃをすることしか選択肢がありませんでしたが、豊かに暮らせる選択肢を、この街にもっと増やしていきたい。『三豊の歴史は俺が撮る』という使命と、『やりたいことに本気で挑戦する』という自分が合わさって、『三豊の歴史は俺がつくる』という気持ちで進んでいきます」


新しいオンデマンド交通サービスで
生活をより豊かにするインフラをつくる!

東京都で生まれ育った田島颯さんは、2021年9月に三豊に移住しました。翌年9月、東京の大学卒業と同時期に、地元交通事業者を含む12社の共同出資によって誕生した「暮らしの交通株式会社」の代表に就任。オンデマンド交通サービス「mobi(モビ)」を提供しています。

暮らしの交通株式会社代表・田島颯さん

「僕は高校を卒業して以降、“学びの関係人口を増やす”をテーマに、教育の仕事に携わっています。三豊では、教育委員会と共同で、中高生向けの『みとよ探究部』を企画・運営してきました。三豊には面白い大人がたくさんいるのに、地元の子どもたちは知りません。そこで、子どもたちが大人と触れ合い、プロジェクトを肌で感じる機会をつくることで、子どもたちのワクワクや、やりたいことを引き出そうという教育プログラムです」
 
「三豊で教育の仕事をしながら感じていたのが交通の課題。三豊はコミュニティバスが2時間に1本しかなく、子どもたちの移動手段は自転車だけなので、行動範囲が制限されていました。そこで『暮らしの交通』では、オンデマンドの乗合バスサービス『mobi』を導入していきます。『この時間にここに行きたい』と伝えると、乗合バスが迎えに来て、目的地に送り届けてくれるサービスです。『mobi』によって、学生がこれまで行けなかったところ、出会えなかった人・ものとの接点が生まれます」
 
「学生の移動だけでなく、高齢者の方の移動や子どもの送り迎えなどにも活用してもらうことで、高齢者が免許を返納しても遠方の人に会いに行けたり、お母さんが働く時間を延ばして収入を増やすことができたりと、新しい選択肢が生まれます。この交通サービスを通じてインフラを整えることで、いろんな人の暮らしがより豊かになる。そんな街の未来をつくっていきたいです」

プレゼンテーションに耳を傾ける参加者の皆さん

それぞれの視点から地域の未来を真っ直ぐに見つめ、地域のために自分ができることを実践している4人の熱いプレゼンテーションを、参加者の方々は、真剣な表情で聞き入っていました。


次回、三豊フィールドワークのレポート4回目は、視察に訪れた、臨海ゲストハウス兼ショールーム「積凪(つむなぎ)」、古酒蔵を改修した複合施設「三豊鶴・TOJI」、建材ショールーム&雑貨屋「DEMI1/2」、関係人口シェアハウス「GATE」、薪火グリルの宿泊施設「ku;bel」をご紹介します。