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経営方針を大きくシフト。夫婦で生産する“価値ある卵”

熊本県合志市で養鶏を営む「緒方エッグファーム」代表の緒方克也さん・幸代さんご夫婦。一般社団法人自然基金(以下、自然基金)が後援している「熊本リーダーズスクール」の卒業生でもあります。

「熊本リーダーズスクール」は、地域コミュニティを牽引する次世代リーダーの輩出を目指し、地域ビジネスのかたちを各分野のプロフェッショナルから学ぶプログラム。このプログラムを通してご夫婦は何を感じ、事業にどう活かそうとしているのでしょうか。

「健康な鶏が健康な卵を産む」との信念で卵を生産

「竹林かぐや姫 オメガたまご」「竹林かぐや姫 平飼いオメガ有精卵」「竹林かぐや姫たまご」…。「緒方エッグファーム」では、ユニークな名称の卵を販売しています。「竹林かぐや姫 オメガたまご」と「竹林かぐや姫 平飼いオメガ有精卵」は、オメガ3脂肪酸を多く含む亜麻(アマ科の一年草)の種を中心に設計された飼料で育った鶏の卵。「竹林かぐや姫たまご」は、竹林に囲まれた鶏舎で、飼料米や海藻、ハーブ、乳酸菌を食べて育った鶏の卵。いずれも、「健康な鶏が健康な卵を産む」との信念から、鶏の食事や飲み水、飼育環境にまでこだわって生産しています。

鶏に飼料を与える緒方克也さん
オリジナル飼料の原料
「緒方エッグファーム」の卵

代表の緒方克也さんは3代目。祖父が60年前に自宅の敷地内に孵化場や育成場、成鶏舎を手作りして始めた養鶏を、31歳で受け継ぎました。

当時を振り返り「知識も経験もほとんどありませんでした。しかし、父親の手伝いをしながら、このやり方で良いのだろうかと漠然とした疑問を抱いていました」と言います。

「緒方エッグファーム」代表の緒方克也さん

当時は約4万羽を飼育しており、朝から晩まで鶏の世話に追われる毎日。卵の価格は市場の相場に左右され、利益を上げるためには飼育コストを下げるしかありません。「頑張っても報われないもどかしさ。それならば、鶏をもっと健康に育て、良質な卵を消費者に届けたいと思うようになりました」

祖父の代から続く養鶏で高付加価値商品を生み出す

そこで克也さんは、養鶏のスタイルを大量生産から高品質で高単価な生産へとシフトさせることを決意。飼育数を1万羽まで減らすことで、コストを削減するとともに、1羽1羽に目が行き届くようにしました。同時に飼料設計や鶏舎の環境改善に取り組み、妻の幸代さんとともに自社の卵を使った菓子の製造・販売も始めました。

鶏舎内で元気に動きまわる鶏

その後も「いい養鶏、いい卵」を模索し続けていた克也さん。2011年にBIO(オーガニック)先進国のフランスへ渡り、現地の畜産を視察したことが転機となりました。

「フランスの消費者は、生産者が信念を持って作った食べ物の良さに納得して購入しています。農業大国であり、人々にとって畜産は身近な存在で、環境に配慮した農法への理解度も高い。さまざまなことに感銘を受けました」。中でも、フランスの食品クラスター・ブルーブランクール協会の「地球と家畜、人の健康は一つである」との考え方が印象に残ったと話します。

フランスへの視察時に撮影

帰国後は飼育環境の整備を徹底するとともに、飼料設計の変更を重ね、 2014年に必須脂肪酸を豊富に含む「オメガ3ナチュラルエッグ」を発売。ブルーブランクール協会の日本初認証も得て、高品質で高単価な卵の生産を実現しました。

「竹林かぐや姫 オメガたまご」(左)と「竹林かぐや姫 平飼いオメガ有精卵」。2022年に機能性表示食品に認定され、「オメガ3ナチュラルエッグ」から商品名を変更

リーダーズスクールをきっかけに人の輪が広がる

「オメガ3ナチュラルエッグ」の販売が軌道に乗り、2020年には農場HACCP認証を取得。鶏舎に併設した直売所は週末に食に関するイベントを積極的に開催することで、人が集まるコミュニティスペースへと成長しました。

「緒方エッグファーム」直売所の外観
直売所内のコミュニティスペース

そんな時、幸代さんが選んだ次の一歩が熊本リーダーズスクールへの参加でした。「鶏舎と直売所を構えている合志市は、空き家が増えています。その空き家を有効活用し、地域を元気にするためのヒントを求めていました」

緒方幸代さん

具体的なビジョンがなかったため、初期の講座では戸惑うことも多かったと話す幸代さん。しかし、「ユニークでアイデア豊かな講師陣たちとの出会いは刺激的で、話を聞くだけでも視野が広がります。人の輪もどんどん広がっていきました」とも。そんな幸代さんの姿を見た克也さんも一緒に受講するようになり、未来について夫婦で話す機会が増えていきました。

合志市を面白い地域にするために夫婦でできること

今、克也さんと幸代さんは合志市を面白い地域にするためにできることを二人で探っています。ゲストハウスを運営したり、サイクリングロードを整備したり、養鶏に関する体験プログラムを考案したり…。

「人が集い、笑顔で過ごせる仕掛けを作りたい」と克也さん。幸代さんは「具体的なことはまだ決まっていないけれど、実現に向けて焦らずに一歩ずつ歩いて行きたい」とにっこり。続けて、「熊本リーダーズスクールは、ポジティブになれる場所。これから何かをしようと考えている人が集まっているからか、話をしているとワクワクして“やればできる!”と思わせてくれます」とも話してくれました。

地域の未来を語る緒方克也さん・幸代さんご夫婦

緒方克也(おがた・かつや)さん
1968年、熊本県合志市(こうしし)生まれ。「緒方エッグファーム」代表取締役社長。高校を卒業後、航空機整備員として航空自衛隊に勤務。その後、民間会社の航空機整備士、農機具販売の営業職を経て、1990年にUターン。実家を継ぎ、「竹林かぐや姫 オメガたまご」や「竹林かぐや姫たまご」など、鶏と人、地球の健康に配慮した養鶏を追究している。
緒方幸代(おがた・さちよ)さん
1966年、大阪府大阪市生まれ。小学校の教員を経て、2012年より「緒方エッグファーム」企画営業部長。

(取材・文章 三星 舞)