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薔薇にしか興味がなかった私が
野の花を愛でるようになったのは
いつからだったろう


遠い先日だったような
ほんの昨日だったような…



可憐で健気な風情が どうにも受け入れられず
見向きもしない時期が確かにあった



あの頃の私には
花が咲き散っていく姿は ただの風景でしかなく
桜を愛でる人々の事でさえ
斜に構え白けて見ていた




そんな私のもとに
幼い頃のままごとで いつも一緒に遊んでくれた愛しい野の花たちが
ある日突然 戻ってきてくれた






ひんやりとした空気が 里にも降りてくるようになった近頃では
夏の陽射しで温められた 豊かな土の養分を
グンと蓄えたような しっかりとした茎に
小花を数多く咲かせるものが多く
その姿は 主張はせずとも素朴で温かい

夏の花は 色鮮やかな姿で太陽に向かい
威勢のいい咲きぶりで 皆に主張をする


それに比べ 春の花の淡さといったら
それはとても儚くて
吹き曝す風雨はもちろん
人の手さえも拒むかのようなデリケートさで
強く掴むと溶けていく
泡雪の化身のよう





人にもそれぞれ たくさんの個性があるように 野に咲く花もまた 様々な横顔を見せてくれる


花にも心があるのだと教えてくれる








そんな 声のない言葉を聞けるようになるために 私は随分と 遠回りをしてきたように思う


荒みきり 哀しみの底で喘いでいた時には
花たちの微かな呼び声に 気付く隙はなかった


そんな私に 花たちの見返りを求めない
慈悲の姿の有り様を見せてくれたのは
何ものでもなく ある日の末期の目だった


あの目に映った野の花たちは
幼い時に微笑みかけてくれた
あの優しいままの姿だった


あの経験がなければ 私は今でも
あの時以上に 腐った人間だったに違いない


花たちの優しさにも気付かず
寒々しい心で過ごしていたことと思う




だから今では いつでも
そっと そっと‥
私は花に語りかける



「ありがとう」 と…‥









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