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【職人探訪vol.9】 漆のことならお任せあれ!日本の漆器産地を支える箕輪漆行 前編

こんにちは。漆琳堂8代目当主、内田徹です。

越前漆器を支える職人たちを訪ねる「職人探訪」。
前回からしばらく経ちましたが、コロナ禍も少し落ち着き、ようやく世の中が再び動き出してきた感じがいたします。

職人探訪でも引き続き、漆器にかかわるヒト・モノ・コトをお伝えしていきたいと思います。どうぞおつき合いください。

第9回目は、越前漆器の産地、河和田(かわだ)のお隣、越前市にある箕輪漆行(みのわしっこう)をご紹介します。

漆器づくりに欠かせない漆。
越前漆器だけでなく全国各地の漆器産地を支える会社が福井県越前市にあります。

株式会社 箕輪漆行は貴重な国産漆や中国産漆、顔料や下地の材料など、全国トップの漆取扱い量を誇る問屋。漆琳堂も長年お世話になっています。今回あらためて会社にお邪魔し、代表取締役社長の蓑輪利一(みのわ りいち)さんに工場の様子を案内していただきました。前編・後編に分けてその様子をお届けします。

純度の高い漆を生み出す精製技術

箕輪漆行 代表取締役社長の蓑輪利一さん(左)と漆琳堂8代目当主 内田徹(右)

ーー箕輪漆行さんは漆琳堂から車で10分くらいの場所にあるんですよね。近いですが、普段なかなかお会いする機会がないですね。今日は楽しみにしていました。よろしくお願いします!

こちらこそお願いします。本当に近いですよね(笑)。以前は別の場所に会社があったのですが、2年ほど前に今の場所に移転しました。まずは漆を精製する蔵からご案内しましょう。

ーーすごい量の漆ですね。

室内は常に20℃以下に管理されています。ここはもともとJA(農業協同組合)がお米を保存していた蔵だったんです。分厚い土壁でできているので夏も涼しいんですよ。

ここにある樽は黒い漆を作るために発酵させている途中のものです。生漆に少量の鉄粉を入れて1週間ほど発酵させるとこんな色になるんです。

漆と鉄分が反応すると黒く変化。細かく泡立ち、一見漆には見えない

ここから水分を抜き、艶や粘度などを調整して、お客様の要望に合わせた漆に仕上げていきます。

成分を均一にし、艶を出す

ーー問屋でありながら、漆精製の工程も見られるのですね。どのように漆がつくられるのか教えてください。

まずは原料の漆を専用の攪拌機に入れ、「なやし」という作業を行います。漆を高速で撹拌することで成分が細かくなり、艶が出てくるんです。

「なやし」にかける時間は1〜2時間。冬の時期は漆の粘度が高くなり艶が出やすくなる

その後、熱を加えて水分を飛ばす「クロメ」という作業にうつります。原料の漆は水分が25%ほど含まれていますが、6時間ほどクロメにかけると水分量は3%ほどになります。

ーー25%から3%に!!おどろきです。
  ところどころで綿を見かけるのですが、こちらは何に使うんですか?

原料の漆には細かい木の皮など不純物も1割ほど入っているので、それを取り除くのに使います。漆に綿を入れて遠心分離にかけると綿がフィルター代わりになり、最後に綿を絞ると、純度の高い漆に仕上がるんです。

漆が付着した綿は1時間ほどで硬化する。これまで使用後の綿は廃棄していたが、最近では創作活動に使用したいと綿の引き取りを希望する作家もいるそう

ーーいろんな素材や技法を使いながら、手間をかけて漆ができていきますね。

昔ながらの方法を受け継いでいる方法もあれば、今の技術を取り入れたものもあります。例えばうちでは高機能漆と呼ばれる「MR-S漆」も作っています。MR-S漆とは20年ほど前に開発された方法で精製した漆のこと。ローラーの間に一滴一滴落としてすりつぶすことでこれまでよりさらに細かい粒子になります。

MR-S漆を使った漆器は紫外線や熱に強く硬度も抜群で、建築にも使われます。

速度の異なるローラーの間に少量ずつ漆を流し込む。漆が乾かないように30分おきにローラーを拭くなど、手間もかかる

さまざまな方法で精製した漆はここからさらにオーダーに応じて調合し、容器に入れたら完成です。

巧みなヘラ使いで漆を容器に入れる職人
容器から漆が漏れないように隙間なくフタをする。これも職人技

漆に関するあらゆる道具が揃う材料倉庫

ーー普段使っている漆ができる工程を見せていただき、あらためてその品質の高さを実感しました。箕輪漆行では漆だけでなく、漆の道具も取り扱っていますよね。

そうです。漆原料の問屋機能だけでなく、漆芸に関わる道具、材料、設備まで幅広く取り扱っています。材料倉庫もご案内しましょう。

ーーすごい!ハケやヘラ、顔料だけでなく、木地まで揃うんですね。漆に特化したホームセンターみたいでテンションが上がります!

弊社では職人の方だけでなく一般のお客様にもお取引させていただいていますので、プロ向けの道具はもちろん、自分で漆塗りに挑戦したいと木地と漆をセットで購入される初心者の方もいます。商品の量はとにかく多いので、県外からお見えになって、1日中居たいとおっしゃるお客様もおられますね(笑)。

別の倉庫には地ノ粉(じのこ)や砥ノ粉(とのこ)も揃う

ーー特に1個から販売してくださるのはありがたいですね。例えば、サンプルを作りたいと木地を注文しても「最小ロットで50個から」みたいなことがよくあるんです。まさにいたれりつくせりですね。

オンラインショップや電話での注文も受け付けているので、できるだけ即日発送も心がけています。漆器を盛り上げたい、産地を支えたいという思いは会社として長年大事にしているので、どんなご要望にも応えたいという気持ちは強いですね。

長いお付き合いのある箕輪漆行さんですが、あらためてその商品力や技術、ノウハウに驚かされ、初めて知ることもたくさんありました。後編は蓑輪さんに漆業界を取り巻く近年の状況について伺っていきます。

取材協力

箕輪漆行
〒915-0261 福井県越前市朽飯町11-25
https://www.urushiya.jp/











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