奇妙な自粛「実験ラーメン」
深夜むくりと起きた。
小腹が空いたのだ。
こんな朝食まで我慢するのが吉なのだが、腹が減ってどうしても寝付けない。
きっと胃を満たせば眠れるだろう。
そう考えた私は、妻を起こさぬように寝室から抜け出し、深夜の袋麺タイムを楽しむことにした。
最高最強の時間と言って差し支えないだろう。
食すは出前一丁。
細い縮れ麺の醤油味、これが一番好きやねんなのだ。
沸騰した湯に乾麺をぶち込み、煮込むこと3分。
ほぼ麻薬に等しいブツが出来上がった。
熱々をハフハフと食す。
うますぎる。
絡みつく麺、醤油味の液体を舌の根元で味わう、ゴマの食感が丁度いい。
作る時間がたった3分なら、食す時間もたった3分だった。
ありがとう出前小僧。
しかし時間は深夜。
多少の健康を気遣った私は、汁は飲み干さずに流してしまおうと決断した。
普段は汁まで飲み干す派なので、やや後ろ髪引かれながら流しに汁を捨てる。
排水口に吸い込まれていく魅惑の汁。
穴の奥からコォォゥゥウという反響音がする。
コォオオォォゥゥウウマィィ・・
ウマイって言った・・
聞き間違いでなければ排水口がウマイと言った。
深夜の袋麺は排水口すら狂わす麻薬だったのか?
そんなバカなと思いつつ、蛇口をひねって水を流してみる。
コォォォオオオ・・
ただ水の流れる音が響く。
反響音に異常はみられない。
ほなこれではどうか?
鍋に水を汲んで砂糖をたっぷり溶かし、排水口に流してみた。
コォォァァアマイィィ・・
確かに言うた!甘いって聞こえた!
味のついた液体であれば反応があるのかもしれない。
よしよし、ほなこれはどうや?と塩水を作って流してみる。
ショッパァァィイイィィ・・
やっぱり言うてる!
調子にのった私は次々と味付け汁を作って排水口に投下してみた。
豆板醤をとかした汁→カァァライィィ・・
ビール→ニガイィィケドォノドゴシィイイィ・・
小松菜をミキサーで撹拌した汁→ヘルシィィィ・・
あったかい牛乳→ホッコリィィィ・・
私は様々な味汁を投下して遊んだ。
味だけでは満足いかず、私は次なる実験を試みる。
キッチンハイターを濃いめに入れた水を用意した。
人間ならとても飲めないが、排水口ならどうだろう?
私はワクワクしながら流してみた。
途端に、
ギャアァァアアア!!!!!
おぞましい叫び声が部屋中に響いた。
まるで断末魔のような叫びだった。
叫び声に驚いた妻が起きて来た。
「何事か?」と問う妻に適当な言い訳をし、
「まさか一人でラーメンを食べたのか?」とも問う妻を寝室へ促し、
今一度砂糖水を作り、流してみた。
しかし何の反応も無い。
塩水を流しても、コーヒーを流しても反応しなくなってしまった。
何の変哲もなく、ただ排水口に吸い込まれる音がするだけ。
コォォオオオっと聞こえ、奥でゴボゴボと鳴って仕舞いである。
残念だ・・と未練がましくシンクに頭を突っ込み、奥から何か聞こえないかと、排水口に耳を近づけてみた。すると、
お前が殺したんだろ。
と耳元で声がした。
今度は私の叫び声が部屋に響いた。
ゴボゴボという音がたまたまそう聞こえただけかもしれない、と解釈し、
念のためもう一度ハイターを流して寝室へ向かった。
胃は満たされたが、ついに眠ることはできなかった。
失業中の夫婦をサポートしていただけたら・・幸いです・・食費にします・・そんなこと関係なく、ただ楽しんでもらえたら本望です・・