見出し画像

きざみ食

病室に母の食事を運んできて
さあ食べさせようと食器の蓋を取ると
何の手違いか
きざみ食ではなかった

母は入院する際に
あぶないからと
入れ歯を外されてから
その後も
ずっと入れ歯をしないでいたので
食物が小さく刻まれていないと
食べることができない

そうなってから初めて聞いた
「きざみ食」とは
その名の通り
細かく刻んである食事のことだが

その日は
きざみ食でなかった事に苛立ちを感じたが
わざわざこれからきざみ食にしてもらうのも
時間がかかって面倒なので
困ったなと思いながらも
お皿の中の食物のかたまりを
細かくしてから
母の口に運んで
どうにか食べさせた

そして食後に
ナースステーションにいた看護師さんに
母は歯がないので
きざみ食でないと食べられなくて困ると

まだ分別が足りていなかった私は
ちゃんとしてくれないと困ると思い
ストレートに言って
怒りの気持ちをぶつけると

看護師さんは
ちょっとムッとしたような顔をしてうなづくだけで
てっきり謝ってくれると思っていた私は
なんで謝らないのだろうと
腹を立てた

そんな思い出もある
きざみ食だが

長い介護期間中
この「きざみ食」から始まって
だんだんと認知症もすすんで
身の回りの世話も必要になっていった

今から思えば
母がだんだんと
赤ちゃんになっていく
長い介護の
その第一歩が
きざみ食だった



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?