[本・レビュー] サラリーマンこそプライベートカンパニーをつくりなさい
うーん。私は本書を否定するものではありません(それだけの根拠をもちあわせません)。
しかしながら、何か大きな違和感を感じずにはいられません。そのために私個人としては本書を他人にはおススメできません。
本書を読んで、人生が劇的によい方向に転換する人もいらっしゃると思います。
ポイントとしては、
好きでもない、つらい仕事を一生懸命続けるより、好きなことを仕事あるいは副業にすることで、今より大きく収入を増やせる可能性がある。
プライベートカンパニーをつくる、特に法人化をすることで、節税効果等により世帯収入を大きく増やすことができる。
プライベートカンパニーを作るのは非常に簡単で、リスクも少なく、副業を禁止されているサラリーマンでも家族を社長にすえることで、ばれずに収益を得ることができる
といったところです。
このポイントについてはそれほどひっかかる点はありません。
実際、自分も本屋を開くつもりなので、プライベートカンパニーをつくって、節税の勉強などもしていこうと思っています。
しかしながら、ひっかかるのは「本書の論理展開」です。いくつかあります。
坂下さんは、もともとメガバンクの融資課長だったと書かれています。そして、株の暴落で破産寸前だったところを、プライベートカンパニーを考案して大儲けし、セミリタイアされたようです。
まず、「お金のプロが金融知識を駆使したのに失敗した」とあります。私がこれまで金融関係の本を読んだ印象では、もちろん銀行員の方は優秀であることは間違いありませんが、銀行員は「金融商品の営業のプロ」であって「投資のプロ」ではないという認識です。
『メガバンクの融資課長「なのに」株で負けた』は必ずしも成り立たないと思われます。せいぜい『メガバンクの融資課長「が」株で負けてしまった』といったところでしょう。
そして「お金=感謝の気持ち。だから誰かに貢献して喜ばれればお金が増える」とあります。例としてジェフ・ベゾスやビル・ゲイツの名前があがっています。『彼らが大富豪になれた理由は、まぎれもなく誰かに役立つことをして「ありがたい!」って感謝されたから』とあります。
他の例としてパイナップルの果実をくりぬいた後の皮にパイナップルジュースを混ぜたアイスティー(原価50円)を入れて1600円で売る商売が挙げられています。お金=感謝の気持ちなので、価値のないものでもいいとされています。
坂下さんが銀行員をやめて、不動産投資の副業をメインにする際には、『貸しはがしで中小企業をいじめるし、手数料が高くて危険な投資信託や保険を高齢者に売りつけている。今の銀行は誰にも感謝されていない。社会に一番貢献しているのは孫さんや三木谷さんのような起業家。僕らの生活を豊かにして感謝されたからこそ彼らは裕福になっている』
とされています。
かなりの違和感です。
GAFAやソフトバンク、楽天は確かに「サービスや商品の価値」があるのは明らかです。便利ですし、物欲もそそられます。しかしそれはイコール感謝ではありません。送料無料は購入者や、楽天にとっては「感謝」ですが、各企業にとっては大きな負担でしょう。
原価50円のパイナップルジュースを1600円で売られて「感謝」でしょうか。まあ、人間の心理として50円で売られた飲み物より、1600円で売られた飲み物の方に人が並ぶという面もあるかとは思いますが、「需給」と「感謝」は別問題です。「感謝」ではなく、せいぜい「満足」程度かもしれません。
銀行員も、NISAやつみたてNISA、iDeCoなどを通して、一生懸命に顧客の資産運用を行ってくれるならば、私だったらたとえ資産が下がっても「感謝」です。
住みたいところに仮に高いお金を払って住ませてもらっても「大家」に「感謝」はできません。一般の相場にくらべてかなり安くしてもらった方が「感謝」します。
株などの投資がリスクが高いように、不動産投資のリスクも決してばかにはできません。本書では、論理展開の一つ一つにおいてひっかかるため、途中から強い違和感を払拭できなくなってしまいました。
先にも書きましたが、本書を読まれて本業+副業+α、プライベートカンパニー設立および節税によって今までとは想像もできないような暮らしを実現される方もいらっしゃるかもしれません。
ただ私としては、論理展開に違和感を感じすぎたからなのか、本書の「お金のソムリエメソッド(夫がサラリーマンをしながら社長の妻と一緒に副業する)」に全く魅力を感じませんでした。
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