受講! 『エストニアから学ぶ『スタートアップ』が次々と生まれるまちとは』

    高度な電子化、IT技術は小国エストニアが見出した生存戦略である。
 背景には既存の産業や資源の乏しさ、
国家存続への危機意識が見え隠れする。
 表面的な移植は有害無益だが、その姿勢から学ぶべきところは多い。



 鎌倉に根ざしたコミュニティスクールであり、「何を学ぶか」よりも「誰と学ぶかのか」を大切にしている『まちの大学』

 まちの大学主催により、先日、講師に齊藤大将さん、モデレーターに宍戸幹央さん(鎌倉マインドフルネス・ラボ株式会社代表取締役、一般社団法人ZEN 2.0代表理事)を迎えた
 『エストニアから学ぶ『スタートアップ』が次々と生まれるまちとは』
 というタイトルでの講義が開かれ、受講してまいりました。

 本講義はPeatixを通して受講させていただきましたが、イベントの詳細より齊藤さんの簡単な御経歴を記載させていただきます。

 齊藤さんは日本の大学を卒業後、タリン工科大学在学中に現地案内・コンサルで企業。エストニアでのハッカソンでの受賞歴や、登壇多数。研究テーマは文学の数値解析。CNETのコラムニストでもある。
 現在、エンジニアやデータサイエンティストとして様々なプロジェクトで開発をしつつ、地方でイノベーションハブやプログラミング教室を運営するクリエータ集団SUNABACOや、VR学園(私立VRC学園)の運営でも知られる。

 人口約130万人、面積は日本の九州程度のこの小さな国が、5つのユニコーン企業(Skype, Bolt, Playtech, Transferwise, Pipedrive)をかかえ、世界的にも類をみない電子国家として注目を集めています。

 エストニアは旧ソ連の崩壊により1991年に独立。実は1918年にも一度独立したものの、第二次世界大戦の流れの中で、再び旧ソ連に占領されたという過去をもつようです。

 いつ領土を失ってもおかしくないという危機感が、たとえ領土を失おうとも国家の再生を可能にするためのデータの保存に努める一因となったようです。
 加えて、資源も乏しく、産業も未成熟な国内情勢が、政府がIT技術に目を付ける更なる要因となったのは間違いないでしょう。

 エストニア発ユニコーン企業第1号は日本人の耳にもなじみのある『Skype』です。創業者はエストニア人ではなく、本拠地がエストニアにあったということのようですが、Skype出身者が次々とスタートアップに関わっており、『スカイプマフィア』と呼ばれているそうです。

 齊藤さんのお話でもありましたが、エストニアは小さな国であるため、数人の知り合いを介せば、かなりの著名人や政府高官につながることも可能なようです。
 また、ハッカソンと呼ばれるプログラム開発およびサービスの考案に関するアイデアなどを競う祭典に、政府関係者も足しげく通いスタートアップを国をあげてサポートする体制が整っているようです。

 齊藤さんに質問させていただいた解答によると、エストニア発のユニコーン企業の創業者の多くはタリン工科大学などの同一の大学出身者である傾向が強いようです。

 ここからも、エストニアに優れたスタートアップ企業をつくり出す人材が豊富というより、Skypeマフィアを中心とした一部の大きな流れが次々と成功するスタートアップを可能にしているのかもしれません。
 ただし、斎藤さんの通われていたタリン工科大学では全ての専攻においてアントレプレナーシップに関する講義が組み込まれていたそうです。つながりのみならず、多くの生徒がスタートアップを意識する起業家マインドを身に付けているのは間違いありません。

 また、法人化へのハードルが低く、国民の法人企業保有率が高いことも齊藤さんは指摘されていました。
 日々の生活で、不自由を感じても私達の多くは、何も行動を移さず現状に甘んじていることが多いのではないでしょうか。
 自分が法人企業を有しており、何か不便を感じれば、これをなんとかできないだろうかと考える。

「こういうものが作れたら、みんな欲しくなるのではないだろうか。」
「自分はこういうものを作った、もしくは作れるが、それをどう売り出したらいいかわからない」
自分にはアイデアあるいは技術があるが、それ以外がない場合、人脈を通して誰かに補ってもらえばいい。スタートアップは起こるべくして起こるといってもいいのかもしれません。

 ドラえもんの道具や、キテレツ君の発明のようなアイデアを思いついた際に、自分では商品化する技術はなくても、誰かにそれを相談したことで結果として商品化につながるといった具合です。

 ベストセラー『ライフシフト』では人生100年といわれ、生涯学習の重要性が強調されていますが、斎藤さんも『Co grow』という言葉を使用され、80代で大学に通われる方の例を挙げられていました。

 日本人の多くは受験勉強以降、自分のために勉強をする人は少ないのかもしれません。
 読書をする人の数や、読書時間の少なさもしばしば指摘されています。

 勉強は本来、役に立たない形だけの知識を詰めこむものではなく、効率化や専門性を高めるためのものも含まれます。むしろそういったものの方が人生では大切といってもいいのかもしれません。

 一度就職してしまいさえすれば、年功序列、終身雇用で守られ余計な心配や労力はかける必要がない。これまではこういった神話が、スタートアップを促進する国民性につながらなかった要因は小さくないと考えます。

 ファーストリテイリングの柳井さんや、京セラ創業者の稲盛さんも、現状に甘んじることなく、常に危機感をもって新規事業にとりくみことの必要性を説かれています。
 この危機感がなければ、スタートアップへの意識は薄れて当然といえるのではないでしょうか。

 これまでニュースなどでエストニアの状況が報道される場合、高度な電子化、IT化ばかりが強調され、裏にあるエストニアのマイナス面に触れられる機会は少なかったという印象を受けました。

 『小さな国なのにこんなに進んでるんだ。日本もこれを目指せ!」といった感じです。

 齊藤さんも講義の中で、日本では1日で済むような処理が数日かかることも多いといった主旨の内容をお話されていました。
 
 日本の技術、品質は世界的に高いものと考えます。
 これからの日本に必要なものは。その技術・品質を新たな価値の創造につなげることです。

 技術や品質をないがしろにして、スタートアップばかりに焦点がいけば、日本クオリティを失ってしまいかねません。

 現在の日本、特に政府は形にばかりこだわって、内実をないがしろにしているとしか思えません。

 英語教育でスピーキングを重視してみたり、マイナカードに学歴や成績を紐づけようとしてみたり。

 物事の本質を見失っているとしか思えません。

 時間は有限です。スピーキングに時間をとるようになれば、他の時間を削ってくるしかありません。
 言語能力と論理性には、高い相関性が存在することが知られています。
 読書習慣の欠如や、読解力の低下がしばしば指摘されています。形ばかりのスピーキングに時間をかけすぎると、国語力、文法力の低下につながり、結果として論理性の更なる低下を助長しかねません。
 
 学歴や偏差値は評価しづらいものです。そんなものを管理しやすいという理由だけでIDカードと紐づけたりすると、プライバシーの問題以前に差別や、偏見といった様々な問題が生まれることは必至でしょう。

 日本の向かっている教育制度には恐怖しかありません。

 齊藤さんも、ご自身の留学経験から、日本人はスピーキングは多少苦手でも、文法や語彙力に長けている傾向を指摘されていました。この点については、アメリカでの留学経験のある私も同感です。 
 ただ英語力が不足しているだけなら、通訳を介せばいいわけですし、これからは翻訳機が更に進化する可能性が高くなっています。
 外国語に力を入れるあまり、中途半端な外国語力、それ以外には何もないといった結果につながりかねません。

 90分の講座でしたが、非常に学ぶところの多い90分となりました。
 
 自分の学びに加え、鎌倉への地方貢献もできたらと、今後も『まちの大学』の講座は機会があれば受講させていただこうと思います。

 時期がら懇親会に参加できず誠に残念でしたが、世の中がおちついたらそちらも是非参加してみたいところです。


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