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読書日記「恋愛未満」

篠田節子さんの「恋愛未満」を読みました。

中高年の男女の心の機微を描いた短編集です。

中でも、「マドンナのテーブル」がすごく面白かったです。
30代の美佳は一回り以上年上の夫、大介と結婚しています。
息子もいてそれなりに裕福な生活を送っているのですが・・・ひとつ気になることが・・・
大介は学生時代の仲間としょっちゅう連絡を取り合い、時には仲間同士で遊びにいったりしていますが、その中に「女」がいるのが美佳には許せません。
「女」と言っても浮気だのなんだのというようなことは何もないのですが、地震の時など何かにつけ心配して互いに連絡を取り合ったりしている姿を見て美佳はどんどん疑心暗鬼に陥ります。

いや、これほど主人公(美佳)に共感できない話も珍しい・・・
インドで事件があったから、と仕事で行っている女(吾妻智子)の元に大介が心配して電話をしているのを見て、美佳は「どうだっていいじゃない」と叫び、時には金切り声をあげて怒鳴り散らす・・・

美佳のヒステリックな部分が強調されるごとに「女」、吾妻智子のかっこよさが際立ちます。
そもそも大介と同じ会社だったもものの、そこでは女性は出世の芽がないということで(こういうことが何でもない「よくあること」のように書いてありますが、深い問題ですね)あっさり違う仕事に就き・・・それでも、大介をはじめとする同じ会社だった男たちとの交流は続いています。
彼女がいることで仲間たちの空気が緩やかになる男たちの間の「マドンナ」的な存在ですが、いわゆる美人というわけではなく、大柄で芋虫みたいな指でビールジョッキを持って「があがあ」「だはははは」と喋り散らします。

しかし、その吾妻智子がいかに繊細に周囲の気持ちを汲んでいるか、反面、人に嫌われないように気を使いながら生きてきた美佳がいかに何も見えていないかが分かり面白いです。

それでも、私を含め9割くらいが「美佳」なんだろうな。
身近な人の自分には理解できない行動を「被害妄想」で色々考えて、無駄に悩んでしまったりしているんだろうな。
なんなら悩みのほとんどが「勝手な妄想」かもしれない。

美佳のことを嫌な女だ、と思いつつもどこか笑えない、突き刺さる話でした。

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