本棚は段ボール Vol.12 『ニムロッド』/上田 岳弘
昔買った本を、なんとなくどんな話か忘れていて、当時はそんなに刺さらなかったのだけれど、もう一度読んでみることにした。
現代というものは、何でも知ることができる。何でも知ることができるし、お金があれば"あるものなら"何でも手に入れることができる。
すべてを手に入れたとして、その先に人間が望むことはなんだろうか。
何でも知ることができるようになってしまったからこそ、私達は「知らないこと」に不安や恐怖を覚えるようになった。
考えても、調べてもわからないこと。不安の対象。考え続けることの地獄。生きる意味。
こんな社会で、すべての責任を全人類が背負わされている中で、考えることを、諦めてはならない、考えることをやめてはならないと強く信じ込んでしまう人がいる。考えることをやめても死なないし、むしろ楽になれることを知っているのに、どうしてか考え続けなければならないと思い込んでいる人々。
世界のありとあらゆる不幸や損失の責任を、自分が担っているのだという罪悪感。囚われた人間は自らが思考を放棄することを許せなくなる。
生きる不安と、死の恐怖。考え続けた時間のぶんだけ肥大化する不安が、恐怖に勝り続けると人は生きて行けなくなってしまう。
考えなくたって良い。考えなくたって、人はただ生まれて死ぬのだから、生まれて死ぬのであれば、ただなにも考えずそこに在ればいいだけだ。
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