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本棚は段ボール Vol.8 『黄色い家』/川上未映子

 何だったんだろう、あの人の人生は。
亡くなった人に対して、ではなく、私は自分が死ぬときのことを考えて似たようなことを思う。

 幸せとか、不幸とか、関係なく、人はみな死ぬ。
死んだ後に名前が残ったって、私はそれをきっと知ることができない。
じゃあ何のために、なんで生きているんだろう。
この結果のない長い長い過程には、何の意味があって、どうすることが正解なのだろう。
今私が頑張っても、笑っても、泣いていても、それに意味はあるのだろうか。

 考えない人は、考えないから調子に乗れる。
調子に乗れる人には運気が集まって結果的に成功する。
でも私たちは調子に乗ることができない。どうしても考えてしまうから。

 何かを盾にしないと人は後ろめたさでつぶれてしまう。
だから人の死も、病気も、自分の不幸も、すべてを使って、何もかもを盾にして自分を閉じ込めて、守って、必死に生きている。
盾にしないと、免罪符を得ないと、どうしたって自分が正しいと言い切ることができないから。
でも、正しさだけで生きていくことはどうしてもできないから。
まっすぐで、正しくありたくて、真面目だからこそ盾がないと生きていけないのだと思う。

 無駄に責任を背負って、責任をかき集めて、なりふり構わず限界までやりつくして、
でも、誰かを想ってしたその行動が結局、だれの何にもならなくて、それどころか人を不幸にして、
必至ゆえに目的もわからなくなって、「金」に執着してしまう。大切だったはずのものがどんどん、形を変えてしまう。
何よりも大切にしたくて、そのために何もかもやってきたはずだったのに。
 あまりにも自分と似ていて、自分に重なって、彼女は、私だと思った。

 どうして私たちはこんなにも愚かなんだろうか。

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