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観てみて分かる、私の性格。(累 -かさね-)

タイトル:累 -かさね-

公開日:2018年9月7日

ジャンル:サスペンス

監督:佐藤祐市

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 この作品を観ていて一番最初に考えたのは、主要人物を演じた芳根京子さん、土屋太鳳さんの役を全うすることの大変さでした。実は私は、ドラマや映画、ミュージックビデオなどの映像鑑賞の他、作品本編を観ることと同じくらいメイキング映像を観ることも好きです。だからなのか、私は作中の世界を堪能することと並行しながら、どこか客観的な視点も持ちながら鑑賞する癖があります。本作品の重要なポイントは、ある口紅を塗って人とキスをすると、その人と顔が入れ替わるということです。その映像作品として形にするにしては、一つ工夫が必要なこのストーリーの設計が、私のこの性をほぼ本能的に引き出してくれました。カメラワークとあらゆる技術を上手く利用しながら表現される顔が入れ替わってゆく描写と、累とニナ2人のキャラクターを2人の人間が演じながら、限られた尺の中の1秒1秒を確実に全うさせていくお2方の女優魂に心を打たれました。

 また私は、佐藤祐市監督が関わっている作品にかつて触れたことがあります。当時監督は演出を担当しており、2013年にフジテレビで放送された『家族ゲーム』というドラマです。私は高校生の時にこの作品に出逢いました。第1話ですっかり作品の虜になって、高校1年生の時に親から貰ったお年玉を持ってすぐさま某大型CDショップに駆け込み、人生で初めて新品のドラマ作品のDVDBOXを買ったことをよく覚えています。

 『家族ゲーム』の主人公は、本名とは別の名前を名乗りながら家庭教師をしている人でした。また、最終的には3つの名前(本名の他に2つの偽名)を使う女性が、この家庭教師の協力者として作中に登場します。この2人の登場人物は、後者の女性は勿論のこと、主人公もまた過去で自身の身に起こった事件から、自分ではない他人を演じて現在を生きている人間で、ドラマの場面によっては少しの時間だけ今名乗っている名前とは違う、本当の“彼”が出てくる場面というのが出てきます。要するに、この2人の演者は役を”演じ分ける”ことが求められた役柄なのです。

 なので、『累 -かさね-』を観ていてずっと頭の中を占有していたのが、先程書いた『家族ゲーム』の2人の登場人物の存在でした。今回は意図せず佐藤監督の作品を手に取り鑑賞に至ったのですが、この2作品を踏まえて浮かんだ疑問は、佐藤監督は”演じ分け”が必要なキャラクターが好きなのかな、ということです。私は元々予告映像や、俳優が宣伝のため出演したテレビ番組または雑誌で知る大まかなあらすじで気になった作品を手にとってみるスタイルなのですが、今回の疑問を切っ掛けに監督の名前で検索にかけてみて映像作品を手に取ってゆくスタイルも、一つ楽しいのではないかと思えるようになりました。

 びっくりしたことは、最近の作品は劇中のキーポイントになりそうな事柄や視聴者の感動をあおるような展開を、置いたら置いたままにしがちになってきたことです。実は、私が毎週2本は映画作品を借りて観る生活になったのはここ1ヶ月のことで、なじみのある映画・ドラマ作品以外に触れることは学びの場を除いて長らくありませんでした。だから、私のイメージする映像作品のストーリー展開あるあるとしては「変化が起こったり、壊れたりする」→「その世界に害をなすもの、登場人物が悲しく感じてしまうような方向の促進を避ける(止めに行く)」→「謎があれば解決する(俗にいう“伏線回収”)」だと考えていました。しかし今は謎は置いていくだったり、悲劇は悲劇のままだったりというエンドが多いと最近感じます。それだけ、人々の価値観が変わってきたということでしょうか。

 最後にストーリーの感想としては、私は好きな作品でした。累とニナ、口調や話す内容からだけでなく、2人の歩く時の姿勢の違いからもう感じられる“陰”と“陽”の姿は、話が進むうちに様子が変わっていきます。そのグラデーションがよく描かれているのが、私が感じるこの作品の魅力です。

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