🇨🇳#37 ラサで「信じること」を考える〜チベットその3〜

DAY2。
今日は一気に世界遺産を三つ回る。
立ち食いそばでは、鴨せいろに春菊天とわかめをつけるのがわたしにとって最大限の贅沢だが、ここに温泉卵を追加したら…と妄想しつつ、今までさすがにそこまで欲張ったことはない。
実際のところは、鴨せいろか温かい春菊天そばに無料の唐辛子を多めにかけるくらい控えめなのがわたしの日常というものだ。
しかしまあ、旅行会社が手配したプランなので、今日ばかりは仕方がない。

一日で世界遺産三つ、回ってみせようじゃないですか！！
ドヤったところで自分はただ、ガイドのロサンさんの後ろをついていくだけだけど！！

めちゃくちゃおいしいチベットのミルクティー。ヤクのミルクで作られている

ということで、9時にホテルを出て、ロサンさんとポタラ宮へ向かう。
どうでもいいけど、「ロサンさん」って「さん」が多くて呼びにくい。
もう後ろの「さん」要らないんじゃないか？
でも、大して親しくない異性に、会って間もないのに「味噌子」と呼ばれる違和感は人生四十年間で何回か経験しているので、やはり略さず「ロサンさん」でいこう。

昨日ポタラ宮の夜景を見た広場を再訪してから、ポタラ宮の東側にある団体入り口を目指す。

飼い主と一緒に巡礼する犬。犬も巡礼すると、来世は人間になれるらしい

すると、歩道でたくさんの巡礼中の信者たちとすれ違うことになった。
いや、待てよ、これでは巡礼の逆、反時計回りをしているではないか！
※巡礼は反時計回りに回ると悪徳を積んでしまう

わたし「ロサンさん、私たち逆走してるよ…。これじゃあ悪い徳を積むことになっちゃう…（あわあわ…）」
ロサンさん「ああ、わたしはボン教徒なんで大丈夫です」
わたし「え！」
ロサンさん「ボン教はチベット仏教よりも歴史がある、チベットの土着宗教なんですよ。今、チベット族では5%くらいしか信者がいないんですけどね。ボン教の巡礼は、反時計回りにするんです」
わたし「いや、それ本で読んで知ってるけど…。わたし、昨日トゥルナン寺を時計回りに巡礼したんで…できれば時計回りで行きたいな〜♪ なんて…（これ以上功徳ポイント失いたくない…)」
ロサンさん「味噌子さんはチベット仏教徒ですか？」
わたし「いや…それは違うけど（痛いとこつくな…）」
ロサンさん「大丈夫です。我々は巡礼しているわけじゃない、入り口があそこにあるから、道に沿って進んでいるだけです」
わたし「わ、わかりました…」

チベット、いや、アジア、世界の宝箱「ポタラ宮」

ほぼ、富士山の高さです

ポタラ宮は標高3,700mに建つ、建築面積1.3万㎡の13階建ての宮殿だ。
ダライ・ラマ5世以降、歴代のダライ・ラマが住んでいて、政務が行われていた場所でもある。

ポタラとは観音菩薩が住むという「補陀落」のサンスクリット名に由来する。
ダライ・ラマは観音菩薩の生まれ変わりだと言われているから、この名前なのだろう。
ちなみに白丸みそ子はネットの前世占いで、誰かの家庭教師の生まれ変わりだと言われている。

確かに昔、大物歌手の息子二人のベビーシッターを2年ほどしていたが…。

宮殿の中に入ると、酸素ボンベを使って座り込んでいる観光客がたくさんいた。
ロサンさん曰く、高山病で参観中に亡くなってしまう人もいるらしい。
わたしも相当苦しいが、何とかまだ動ける。
つくづく高山病予防のダイアモックスを飲んでいてよかったと思った。

ポタラ宮内の部屋数は約1,000。
こーんなにあるのに、ダライ・ラマ14世の頃宮殿に住んでいたのは、お付きのものや貴族など、70人くらいしかいなかったらしい。
そんなに余っているのなら、埼玉のボロいアパートに住んでいる白丸みそ子にも二部屋ほどただで貸してくれないだろうか。

残念ながら内部はほとんど撮影禁止だが、とにかく、豪華絢爛。
わたしの肌感覚では、金閣寺の千倍、万倍、贅が尽くされている。

唐、インド、ネパール…の文化の融合といった感じ

華美で精緻な彫刻、色鮮やかな壁画、黄金に輝く大小さまざまな仏像、金や宝石で宇宙を表現した曼荼羅…ため息が出るほど美しい、チベット美術の結晶といえる場所だ。

白い壁の塗料にはヤクのミルクが混ぜられている

ちなみに、ポタラ宮には白と赤、二つのカラーの建物がある。
こちらの白い建物は政務の場であった「白宮」。
壁材にはヤクのミルクや砂糖が入っているので、一年に一回壁が塗られる頃には辺り一面甘い香りがするらしい。

赤はチベットでは高貴な色

こちら赤壁の建物は、歴代のダライ・ラマのミイラが眠る「紅宮」。
※全員ではない
チベットでは葬儀の際、現在も鳥葬（火葬、水葬もあり）が行われているが、最上位の人間はミイラとして保管されるのだ。　

中にミイラをおさめた「霊塔」と呼ばれる棺は、全面金箔張り。
トルコ石や赤珊瑚といった無数の宝石が散りばめられていて、こんな棺桶見たことないという豪華さだ。
ただ、6世だけは素行が悪かったらしく、チベットを追放されて青海あたりで亡くなり、墓すら残っていない。
どこの国にも、⚪︎ゲの殿下とか、3回離婚しちゃう王様とか、破天荒な後継ぎというのがいるらしい。

集団謁見や祭事が行われる広場

こちらは白宮最大の建物、東大殿（ツォム・チェンシャル）。
最上層には、ダライ・ラマの寝室や謁見室などがある。

夏の離宮「ノルブリンカ」を見学する

「ノルブリンカ」は宝の庭という意味

東照宮の陽明門にも似てる

ご飯を食べて、二つ目の世界遺産へ。
ノルブリンカは、ダライ・ラマ7世によって1755年より建設され、歴代のダライ・ラマが夏の避暑地として過ごした離宮とその庭園だ。
ダライ・ラマは冬の間をポタラ宮で過ごし、夏はここノルブリンカにいたらしい。

園内には歴代のダライ・ラマがそれぞれの建物を建造していて、敷地面積は36万㎡もある。
中でも、ダライ・ラマ14世の住居として1954年に建てられた「タクテン・ポタン」は超豪華。
当時は珍しかったバスタブやラジオ、レコードプレーヤーなどが残されている。
でも、インドへ亡命したため、三年間しか利用されていない。

チベット仏教の総本山・トゥルナン寺

トゥルナン寺は本堂部の名称「ジョカン」の名で呼ばれることが多い

マニ車を備えた回廊。マニ車を回すと功徳を積んだことになる

寺院の中はあちこちでバターの蝋燭が灯されていて、お菓子のような不思議な香りが充満している

トゥルナン寺の本尊は、ソンツェン・ガンポに唐から嫁入りした文成公主が中国から持参したとされる釈迦牟尼像（最初はこの近くのラモチェ寺に置かれていた）。

チベット仏教の総本山とあって、正門前には、五体投地で祈るチベット仏教徒たちがたくさんいた。

わたし「五体投地って、大体何回するんですか？」
ロサンさん「十万回目標ですね」
わたし「グラウンドだってせいぜい『十周してこい』なのに？」
ロサンさん「はい？」
わたし「いや、なんでもないです…。彼・彼女たちを支えている信仰の力って何なんだろう」
ロサンさん「来世でよりよく生まれ変わりたいという想いですよ」
わたし「今世が辛いから？」
ロサンさん「そういうことではないと思いますが。味噌子さんは、来世も人間になりたくないですか？」
わたし「うーん、どうかなぁ…。輪廻の輪から抜けてしまってもいいとは思う。自分の存在が続いていくことには執着していないかな」
ロサンさん「味噌子さんは、人生が楽しくないですか？　疲れてしまいましたか？」
わたし「ここまでは、ぼちぼち楽しかったですよ。あ、疲れたかと問われれば、確かに疲れたな。ほら、今日だって16,000歩も歩いてる（Apple Watchの歩数を見せる）」
ロサンさん「（笑って）お疲れ様でした。そうですね…答えになるかわからないけれど、信じることは、幸福なことだと思います」
わたし「それは、すごくわかります。わたしも、信じるもの、あ、他人とか『人』じゃなくてね。これが自分の追い求めるものだって信じられる対象があった時、とても幸せでした」
ロサンさん「また、見つかりますよ。味噌子さんは、若い。わたしは味噌子さんの幸せを祈ります」
わたし「ありがとう、えっと…なんだっけな、あ、トゥチェナ（チベット語のありがとうございます）！」

こうして、信じることについて少し考えさせられた、チベット二日目であった。

旅は続く…

👇👇おまけ〜チベット仏教とその歴史〜
超長いので、ど暇な人か、変態だけ読んでください🙂‍↕️

白丸でもわかる！超簡単チベット仏教の歴史
7世紀、ソンツェン・ガンポっていう強い人が、チベット高原で小国家を統一して吐蕃国を作りました。
ソンツェン・ガンポは唐に姫を嫁にくれと迫りましたが、唐が断ったので、ソンツェン・ガンポはムカついて唐に圧をかけてカツアゲまでしました。
結局、唐の太宗はビビって、640年に、自分の娘分（実の娘ではない）文成公主をソンツェン・ガンポの息子のお嫁さんとして吐蕃におくりました。

文成公主はソンツェンガンポの息子と結婚しましたが、彼はすぐ死んだので、今度は義理の父であるソンツェンガンポと結婚させられました。
ソンツェン・ガンポはさらにネパールからもチツンという王女をお嫁さんにもらいました。
なので、吐蕃には文成公主の唐文化、チツンからインド・ネパール文化がもたらされました。

特に、その頃唐では仏教が流行っていて、文成公主もこれにハマっていたので、ソンツェン・ガンポは大乗仏教を吐蕃で保護しました。
そしたらこの大乗仏教は、吐蕃で昔からハヤっていた、呪術的なボン教という宗教とコラボして、独自にどんどん発達していきました。
これがチベット仏教となって、吐蕃王朝が衰退しても、チベットを中心に、モンゴルやネパール、ブータンなんかでも超流行り続けました。

14世紀の終わりあたりに、モンゴルにツォンカパという人が現れて、これまでのチベット仏教を改革して、戒律とかルールかなり厳しめのゲルク派を作りました。（今も8割がゲルク派）
それから16世紀になり、モンゴルでゲルク派のすごいお坊さんがいたので、ダライ・ラマ(大いなる海)と呼ぶことにしました。

ダライ・ラマは転生することがわかったので、その後も2世、3世…と続いて、イケイケだった5世が17世紀に(ソンツェン・ガンポが昔宮殿を建てた場所に)新しくポタラ宮殿を作りました。

ちなみに、この頃ダライ・ラマは高僧であると同時に、政治的な統治者にもなりました。
で、1913年には、ダライ・ラマ13世がチベット独立するどーと、宣言しました。

でもその後、1950年、中国共産党政権がチベット統治権を主張し、軍隊をチベットに派遣しました。
翌年の5月、チベット政府は中国側の要求を受け入れることにしました。
それから8年後の1959年3月、ダライ・ラマ14世を中心に独立を目指した反乱がラサで起きました。
反乱は鎮圧され、ダライ・ラマ14世はインドに亡命して、亡命政府を作りました。

14世不在のチベットでは、その後も87年から2008年まで、独立を求めるデモが頻繁に起きました。
現在、中国政府はチベットを自治区とし、チベット仏教の信仰を認めています。
ただ、チベット仏教の象徴としてダライ・ラマ14世を崇拝することは許されておらず、No.2のパンチェン・ラマをシンボルとしています。
以下、大人の事情によって略。