今、一言だけ、ことばを届けられるとしたら、なんて言うだろう。
誰かの不安を拭って、温かい気持ちにさせる、
暗い気持ちを少しでもやわらげられる、
そんな万能なことばなんて、あるのだろうか。
誰に届けるかでも変わりそうだ。
誰に届けたいだろう。
医療従事者、明日からの生活が薄暗い方、政府や総理、自分の大事な人。
こんな時だからこそ言えることもあるし、
こんな時だから言えないこともある。
ただのことば一つでも、
そこに文脈があるだけで意味が全然変わる。
今と1年前じゃ、「気をつけて」の重みが全く違う。
だいたい1年前に気をつけてと言われたとて、何を?となるのがせいぜいだ。
でも今の「気をつけて」は、
「あなたのことが大切です。」
くらいの含みを持っている。
ことばの深みをも変えてしまうような今、わたしは、誰に、何を届けたいだろうか。
***
突然だけれど、私は折々のことばがとても好きだ。
折々のことばというのは、鷲田清一さんが朝日新聞で書いてるコラム。
毎日1〜2行程度の、誰かのことばと、それに対する鷲田さんの解説が載っている。
いつも時世を反映した素晴らしいことば選びとコメントで、朝日新聞を読むときはまず折々のことばから、が私のルーティンとなりつつある。
4/9 の折々のことばは、特に良かった。
無名の運命のなかで、自分の筋を貫き通して、歴史にものこらないで死んでいった者の生き方に、ぼくは加担したいんだよ。(岡本太郎)
このあとに、鷲田さんのことばが続く。
「尊敬する人」といえばなぜみなすぐに権威を誇った人を挙げるのだろうと、芸術家は言う。成功者といっても、彼を取り巻く「いろいろな状況が押しあげた」だけ。歴史には、成功しないと知りつつ「命を賭けて筋を通した」無名の人々が埋もれているはずで、そこをしっかり見ようと。『太郎に訊け!岡本太郎流爆発人生相談』から。
これを、4/9、緊急事態宣言の翌々日に出す。
強制はできない、要請が最大限。
そんな、強い措置のとれないない日本の制度の中で、一般市民がどう過ごすべきか。
その道標になるようなことばだと思った。
この国を作るのは、名もなき一般市民。
その一般市民が、成功するかも分からないけれど、命を賭けて、人を助けたり、人を守ったり、人のために働いたり、人のために何もしなかったり。
何百万、何千万という、自分の筋を通して、今を生き抜いている全員に、拍手を送りたい気持ちになる。
このことばを、今、この時期に、全国紙に載せる。
ことばそのものが持つ力をはるかに超えて、心に響いてくるものがある。
1年前でも来年でも、きっとこのことばは全く違う意味を持っただろう。
岡本太郎が生きた時代の"歴史にものこらない死んでいってた者"は、戦争で「お国のために」と命を落とした数多の人々だったかもしれない。
***
改めて、私が今届けたいことばを考えると、「気をつけて」かもしれない。
今だから言う意味があって、今だから伝わる背景の文脈があって、今だから本当に届いてほしいことば
どうかみなさん、お気をつけて。
2020.04.26
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