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グレート・ギャツビーに出て来る女の末路について(やはり、乳房の話)

ひとつ気になっているイメージがある。
グレート・ギャツビーに出て来る女の末路である。

いろんな女が出て来るが,中でも最も(作者から)バカにされている女。
あのいやなやつ(マッチョのトム・ブキャナン)のラブ・アフェア相手のマートル。
マートルにも夫がいて車の修理工だったと思う。
その貧相な男の描写がますます,マートルの貧しさと欲と裏切りの資質,女というものの醜さ(そういうものがこの世にありありと存在するかのように描いている)を際立たせるのである。

(ただ,この小説を読んだのは数年前なので,記憶はやや曖昧です)

病気になって乳房を切除するということが自分の身に起きてから
たまにちらりと頭をかすめる,この,グレート・ギャツビーの中で
最もバカにされている(と私が思ってる)女の死に方。

知ってますか?
この人,死ぬとき交通事故に遭うんですけどね
両乳房が千切れて死ぬんですよ
(すみません,手元に本がないもので,引用とかできないんですが)

いいですか,両乳房を失って死ぬんです。
それをこの女の特性の一部かのように書いてるんです。
なんなんですか?フィッツジェラルドはふざけてますよね?車に衝突しておっぱいがちぎれて死ぬ?そんな奴おるか?
あなた,マートルが,マートル的な女が,いや,女全体が,ほとんど大嫌いなんでしょう?
と、フィッツジェラルドの胸ぐらを掴んで詰め寄りたくなる。

私はおっぱいが千切れたわけではないけど,おっぱいの中の細胞に変異が起こって,それが修正できなくて,女性ホルモンを食べてどんどん大きくなり、とうとう私の命を脅かす存在となったため,そのおっぱいは切り取られた。

切り取られたものは,しかるべき検査をされて,もうとっくの昔に処理された。

おっぱいの中にあったがんの写真は撮ってくれてた。
ホルマリン漬けにして,からからになったがんを
スライスした写真を先生は見せてくれた。

ね。これががんだよ。

うん。わかった。

本当は「わかった」わけではなかった。
「はい,この目で見ました」
そのくらいの意味で,ボーッとしたテイストで、わかったと言ってる。

(診察室で,私はいつも,すこし解離してるんだ)
それに,私は先生が言っている内容を理解することよりも,
先生が一緒にそれを見て
そう言ってくれたということそのものから得る慰めを必要としてる,
(だから,多少,解離していてもいい)

私が言いたいのは,マートルの死に方のことを思い出すと
なんだか自分も醜いような気がちょっとしてしまう,っていうこと。

私もマートルみたいに悪いいやな女の要素があって,
そのせいでこんなふうにおっぱいを失ったんじゃないかって
そんなことありえないよ,そんなこと思ってないけど,
思ってないのに,思うわけないのに,
だけど,そんなこと,やっぱりちょっと思っちゃうのかもしれない。

「ネガティブなイメージになぞらえる」というのは,
陰湿な攻撃行動なんだよ
だから,
自分の乳がんのことと繋げてマートルのことを思い出してしまうときの思考は,自分に対して,陰湿な攻撃行動してるのとおんなじだ。

グレート・ギャツビーは残酷な小説だ。
あの小説は,正直,読み込むと面白かったけど
わたしは今になって,あの,マートルの死に方が気に入らない。
あの小説の中でもいちばん嫌いな女だけど,それでも,作者にバカにされてあんな風に死ぬなんて,フィッツジェラルドゆるせない。

なーんて,ほんとは,そこまで強く思ってるわけじゃないし
そこまで,繋げて考えてるわけでもないし
だけどね,死や怪我や病気やその部位やなんやかんや、劇的になりうる素材には
劇の小道具みたいに
意味を乗せることがあるでしょう

本当は、そこに意味なんかないのに
証明できないようなことでも,「そんな気がする」っていうことを
信じなくても,気分は悪い影響を受けるというか。
感情にふりまわされる,不合理だとわかっていても
それに,おっぱいなんて
もともと装飾だらけ,自分勝手に付加された意味だらけなんだから

だから仕方ないよ,私も多少,翻弄されちゃうんだ

誰も言ってないのに、私が私に言う、なんの根拠もない、不合理で陰湿な悪口。

この,マートルの乳房のこと
たまにふわっと出て来てたイメージなので,書いてみた

書くことで,翻弄される度合いが減って,
「自分への攻撃」が,最後には全部,消えてなくなりますように。

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