「お客様」の気持ちがわからない
「あなたがお客様だったらどう思う?」
特に接客業やサービス業などでよく言われる言葉だ。
しかし、私はいまいちピンとこない。
それに気づいたのは大学生の時。結婚式やパーティーを行う会場でサービスのアルバイトをしていた。
そこでの業務は多岐に渡り、正直「アルバイトがここまでするんだ…」と思ったほどだ。確かに貴重な経験にはなったと思う。パーティー準備に後片付け、料理を運ぶのが主な仕事であるが、基本的にコース料理が提供されるため、パーティーの進行に合わせて提供するのが他の一般なレストランと違う点だ。余興もあったりするので我々が動ける時間は限られていたりして時間がタイトな場合が多い。常に時計を気にしながらも一生に一度かもしれない大事なパーティーで失敗は許されないというプレッシャーが大きかった。経験値が積まれるとさらにお客様個人個人に寄り添ったサービスを提供する立場を任される。担当のテーブルが与えられ、そこを重点的にドリンク等のサービスをする。さらに経験値が上がると新郎新婦のご両親のアテンドや、式の進行に直接関係する仕事を任される。その他クロークやラウンジなど…
業務が多すぎて、そして当たり前だが毎回人数も形式も違うパーティーに、私は最後まで慣れることはなかった。そこまで長くやっていたわけではないが。
とにかく、そこでのアルバイトは「サービス」だったため、お客様と直に接することになる。
そこで社員からよく言われるのが「あなたがお客様だったらどう思う?」
私はこの質問がピンとこなかったのだ。
というのも、私は正直別になんとも思わないからだ。
例えば、パーティー準備で私が並べたシルバーが少し曲がっていた時。呼び出されて「これお客様だったらどう思うかな?」と注意される。
私はその場しのぎで「はい、すみません」と言って直す。
しかし私の本音は「私が客だったら別にそんなことどうでもいい」。
注意されてふてくされているわけではなく本音である。
ほんの少しシルバーが曲がっていても多分気がつかないし、テーブルが丸いので私が曲がっているのかな、とか、座るときにテーブルに当たってずらしたかな、とか、そう思うだろう。
命や大金に関わること以外なら「人間なんだしそんなこともあるだろう」で終わる気がする。
こう一括りにしては批判もあるだろうが、日本人は細かすぎやしないか。
よく言えば繊細、それが日本のいいところでもあるが悪いところでもあったりするのではないだろうかと思うのだ。
私の少ない海外経験からではあるが日本は一番細かい国だと思う。
極端な話、海外では料理が投げ出されるように提供してくるところもあるが、出されるならいいとすら思っている。
確かに払っている値段は違う。パーティーで出される料理は凝っているしいい食材を使っているしサービス代も含まれている。だがそこまで細かいところを気にしなくても…と思うのだ。故意で適当なサービスをされるのであればそれはいけないが、こちらもお金を貰ってやっているという意識がありながらも多少過失してしまう部分だってある。それくらい寛容になれないだろうか。
と、こんな話をしていたら異論はありそうだが、きっと私がここまで不満なのはそれなりの給料と時間を貰えていなかったからだと思う。
「お客様は高いお金を払って来てるんだから」とよく言われたが、それを言うならこちらにもそれなりのサービスをすることに対する給料を払ってから言ってほしい。あとはどう考えてもタイトすぎる時間。利益を重視しすぎているのだろう。パーティーを詰め込みすぎて準備時間が短すぎるのだ。そんな中でシルバーが曲がっていると言われてもそれなりの時間をくれとしか思わない。たかが大学生や高校生のアルバイトに時間とクオリティ両方を求められても無理がある。だって大体のアルバイトは一年以内に辞めているから。ベテランがほぼいないのだ。まあそんなブラックな環境だからだろうと思うが、100人以上アルバイトがいても万年人手不足。さして親しくもない社員からシフト入れとしつこくLINEがくる。
社員を批判するというより私は経営を根本から見直していくべきだろうと思う。目先の利益ばかりを追っていると感じる。
私ならまず社員を増やして経験値の高い人間を育てる。パーティーは無理のない範囲で契約を取る。アルバイトは業務が多岐に渡りすぎないように分野ごとに採用することで広く浅くではなく専門の業務でゆっくり育てて、その後に他の業務も経験させる。その為に給料もベースアップする。
まあ社会人一年目の私がこんなこと言っても経営のプロから見れば無理があるよと言われるだろうが、将来性を考えたらこんな感じで経営できたらいいのではないかという提案だ。
このご時世でそのバイト先も危機なのだろう。どうしているのかは知らない。
かなりブラックな会社だったので精神的にも病んだししんどかったが、まあいい社会勉強になったとでも思っておこう。
実は未だに「あなたがお客様だったらどう思うか」という問いに答えが見出せないし、そもそも全員にその教え方が通用するとは思えない。現に私のように「なんとも思わない」人もいる。「お客様の気持ちを考えてみて」だったら少しはわかるかもしれない。考えるべき対象は自分ではないお客様だから。「あなたがお客様だったらどう思うか」だと自分の気持ちを考えることになるからそれはまた話が別だ。(それにちょっと嫌味っぽく聞こえる)
まあ実際そのような細かい点でお客様からお叱りを受けた事はなくて、気にしているのは社員だけだろう。社員がバイトにそのように注意するのもきっとそれなりにプライドやプロ意識があるからだろうし教育する役目もあるからだ。こういう環境におけるやる気のある人とない人の意識のすれ違いについても思うことがあるのでまた書くことにする。
プロ意識を持って仕事している人の言い分はわかる。言いたいのは「あなたがお客様だったらどう思うか」と言う教育をやめないか。
お客様の気持ちがわからない私はよく言えば寛容、悪く言えば人の気持ちが理解できない、おもてなし精神がないのだろうか。
そもそも私に細かいサービスを求められる仕事は向いていなかった。多分それだけ。
そしてきっと、異論だらけだ。
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