見出し画像

【WACK】謎解きを終えて

本作品はピスちゃんの作品【WACK外伝】眠れぬ森の美女のスピンオフ作品になります。


ふむ…。

大ぶりの椅子にもたれかかるように座り、1人思索に耽る。天窓からは白々とした月明かりが静かに降り注いでいる。

眠れぬ森の美女事件

悲しい事件であったが、無事インソムニアの依頼を果たしたワディちゃんたち一行には、明日にでもギルドから報奨金が渡されることだろう。

インソムニアの望む結果になったのだから。

事件は解決したというのに、判然としない面持ちで、白は虚空を見上げる。

事件はこういう結末を迎えた。

インソムニアの夫であり、彼女を永い眠りから目覚めさせた夫ニコラスは命を落とし、彼女への想いを胸に秘めた男、ライナスは死から逃れるために、永き眠りについた。

ここ、なんだよなあ。

インソムニアを愛した男はともに眠りについた…

白は、そう独り言ちた。

※※※

この事件、遺されたインソムニアには何が残るだろう。

この事件は殺人事件である。

ライナスのことは、あの場にいたわずかな人々の胸に秘匿されることを考えると、表向きは顔見知りの人狼による突発的犯行。それも、現場の状況を鑑みると、ミスリルにより人狼が傷つけられていることが明らかなことから、被疑者死亡の事件として片付けられるはずだ。

とすれば、異国の王族が関与した殺人事件で、被害者の依頼によって解決がなされた犯罪を、この期に及んで改めて捜査するものもいないだろう。それは、刑吏機関がこの事件に一切関与せず、全てがインソムニアの裁量で進んでいることでも明らかだ。

しかも、ギルドへ捜査を依頼したことで事件に対する透明性も付与され、本国から彼女に嫌疑がかかることはなくなる

彼女本人が捜査の依頼をしたこと、そしてその依頼が解決したことを第三者が証明できることによって、彼女の潔白は証明されるからだ。

つまり、彼女は夫を殺された可哀想な被害者として身分が保証されるのである。

そうすれば、第3王子とはいえ王族に連なる未亡人をよもや本国が追放することはあるまい。そもそも、本国から遠く離れた異国で暮らしてくれているのだ。厄介事は抱え込みたくないはずだから、本国としても、本人の望むならば、今と変わらぬ生活を保障するかわり、本国のことには一切関わらせないというところで手を打つのではないか。幸いなことに世継ぎもいないなら尚更である。

しかし、このことはインソムニアからすれば、何物にも縛られない、完全なる自由を手に入れることと同義なのだ。

「どこまでが彼女の描いた筋書きなのかな…」

願わくば、彼女が真実の愛を知り、残された人々それぞれが、それぞれの幸せな人生を送ってほしいものだ。

そう思いながらも、人の想いとは全てが美しいとは限らないこともまた真実であることを、白は知っているのだった。

※※※

「やあ、今回は白さん名推理だったね!はい、みんなと分けちゃってこれだけしかないけど、今回の白さんの取り分ね!」

「それにしても、さすが大賢者でしたね!」

喫茶店に訪れたワディとピスタチオは、カウンター席から白に声をかける。

「いやいや、俺は話を聞かせてくれただけで十分面白かったよ。そいつはワディちゃんたちで分けてくれ。」

「そんなこと言わずに受け取ってよ!それよりさあ、白さんにあんな秘密があったなんてね。」

「ん?なんだ?秘密って。」

「ほら、ミスリルが白さんには致命傷にならないってやつ。」

「ああ、そのことか。それでも、純度が高いものになるとくしゃみが出て大変なんだぞ。」

そう言って白は笑う。そんな二人の横でピスタチオは何か思案顔だ。

「どうした、ピスちゃん。」

白が尋ねると、ピスタチオは口を開いた。

「ちょっと不思議だなって思ってたことがあったんです。ほら、今回ライナスさんは獣人に変化したことで、思考力が低下したって話だったじゃないですか。一方で白さんは獣人状態のままで、あれだけの鋭い推理ができるし、今だって思考力が鈍っている様子さえないし。もしかして、これも個人差があるんですか?」

ワディもピスタチオの言葉を聞いてその矛盾に気づいたようだった。

「ホントだ!白さんって何者なの?」

2人が身を乗り出し、白に詰め寄る。

「ははは、いいところに気づいたね。答えは簡単さ。俺は狼が獣人型に変化するライカンスロープなんだよ。」

「………え、えええ!!!」

「おいおい、そんなに驚くことか?人の中に狼に変わるライカンスロープがあるんだから、狼の中にも人型に変わるライカンスロープがいたっておかしくないだろ。そもそも人型のものが獣になる場合は知性にも変化があるだろうが、黒猫の状態で知性を持つピスちゃんみたいに、知性を持った狼が人型になったところで、知性が低下することはなさそうだろ?」

「ああ、コロンブスの卵だ…」

「だから、俺にとってミスリルは単なるアレルギー物質で、致命傷を負うものではないってわけだな。」

「じゃ、じゃあ、白さんは狼になれるんですか?」

「ああ、もちろんだ。散歩行くときはあっちの方が都合がいいからな笑」

そういうと、白は狼に変化して見せる。

「あ、この子!よく散歩している白狼!あれ、白さんだったのか!」

「そうそう、別に隠しているつもりはなかったんだが、そういえばわざわざみんなに言ったこともなかったね。…よっと。」

そう言って獣人の姿に変化する。

「変わった後に服を直すのがちょっとめんどくさいのが難点だな。俺は素っ裸で構わないんだが、人型だと色々うるさいからな笑」

目を白黒させている2人を交互に見ながら、白はウインクして笑う。

「さ、ラテを召し上がれ。」






この記事が参加している募集

お読みくださりありがとうございます。拙いながら一生懸命書きます! サポートの輪がつながっていくように、私も誰かのサポートのために使わせていただきます!