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最初で最後の手紙…Ep6(V様)

大都会の真ん中の
高層ビルの建ち並ぶ
その隙間に身を置いて
ビル風を
全身に纏わせるこの瞬間が
好きでした
そして
そんな光景には
あなたがいることが
必要でした

それは
愛と言うより
必然…
その場面を作り出すためには…

おしゃれなホテルのロビーで待ち合わせ
時には
それは
大きな大きな本屋さんの
洋書の本棚の前
時には
見上げれば時計台が見える
スクランブル交差点
時には
もうすぐ歌舞伎が開演される
ライトに照らされたお寺の本堂
時には下町の
迷路のような路地を入った
一見さんお断りの小店

どこで待っていても
風のようにあらわれるあなたを
待つことそのものが
幸せでした

声をかけられなくても
後ろから
あらわれても
通り過ぎたとしても
あなたを感じ取りました
あなたの
香りが
あなたを連れてきてくれました

今でも
ふと
その香りにふれることがあります

そんな時は
鮮やかに
あなたが目の前に現れます
まだ忘れられないの?…と
私を
戒めるのです

まったく
ありふれた話でしたね
一緒に
朝は迎えられない
それはそれで
スマートな関係で
スッキリしていましたね

あなたが帰る中央線
私が帰る千代田線
分岐点に立つ
駅は別れの
起点と終点
蠢くさまざまな感情…

あの日に帰りたいとは
思いませんが
あなたが
私のことを
どう思っていたのか
今さらそれを
確かめたいのです

私の本質を
あなたが握っていたのかどうか
それを知りたいのです

香りが
私をいつまでもいつまでも
捕らえて
放さないから…

あなたは
そんなことを聞かれても
さらりと躱しますか…
それとも…

微笑みますか