江國香織と、ぼくたちの話

きもちいい、冬に飲むお酒はおいしい。
酒の肴がほとんどタバコだったとき、立ち上がってから気づくくらいの酔い、上着からする外の空気と居酒屋の匂い、全部が好きだ。
今日は仕事終わりに寄った古本屋で、江國香織の本を買った。店で友人を待つ間、少し読み進めた。
僕の鼓動は早まった。

「ただいま、」
部屋は真っ暗だ。小夜子はベッドに座り泣いていた。
僕はすばやく上着やジャケットを脱ぎ、ハンガーにかけた。洗濯は朝か…。
小夜子の横へ座り、彼女の背中を撫でる。嗚咽はさらに大きくなった。頬を伝う涙を拭いてやる。
「どうしたの?」
無視か、わからない。と言われるかどっちかだ。
「わかんない」
まだ声を聞けてただけよかった。小夜子は鼻をかみ、僕の胸の中でまた泣いている。
いつもの薬を飲ませた。
「大丈夫大丈夫、一緒に寝ようね、小夜子は大丈夫だよ」
泣き疲れてたのと薬で眠そうな彼女をベッドに横たわらせ、僕は浴室へと向かった。
素早く済ませ、ベッドに戻ると小夜子は静かに泣いていた。
「寝れない?辛くなっちゃった?」
「なんで、、なんで麻は優しいの?」
「優しいかなぁ、僕は優しい人間じゃないよ」
「はやくわたしのこときらいになればいいのに、」
「嫌いになってほしいの?」
「やだ」
「おやすみ」
僕は彼女にそう言い、夕方に買った本を読み進めた。

起きたのは昼過ぎだった。今日は土曜日だ。
私は紅茶を入れて林檎を剥いた。麻も起き上がり、コーヒーを入れだした。トーストとジャムもテーブルに置かれた。
2人で向かい、朝ごはんを食べた。
起きてすぐなので朝ごはんだ。昼ごはんはまた食べる。
「あんまりお腹すいてないの、私トーストはいらない。」
麻は昨日の夜の話をしない。本当に気にしていないんだと思う。私はああやって自分で自分をコントロールできず癇癪を起こしたりする。なのに麻は機嫌を悪くするでもなく、怒るでもなく、大丈夫だよ。と傍に居てくれるのだった。
私は今でも麻に嫌われるんじゃないかと思っている。
「今日はさぁ、いい天気だしちょっと遠くのタバコ屋さんまで散歩する?」
「いいね、そこら辺でお昼ご飯にしよう」
麻はいつも私の提案を否定しない。

ねむたい、起きると小夜子が林檎を剥いていた。今日は機嫌が良さそうに見えた。
しかし僕の予想は外れた。やっぱり最近の小夜子は調子が悪いのだろう。出かけた先で涙を浮かべながら「帰りたい。」と言い出した。
家に着くと声をあげて泣き出した。
「しんでしまいたい」
「そっか」
小夜子は立ち上がり薬を飲んだあとまた泣きじゃくった薬が効いてくるまでの数十分、彼女は苦しそうだ。
彼女には白湯を、僕はコーヒーをいれた。
ベットに横たわっている小夜子に目をやりながら、コーヒーを飲む。
昨日読んだ江國香織の本には、小夜子のような女性が描かれていた。びっくりして一気に読んだ。
果たして僕は、そこに登場する彼のようになれるだろうか。僕らはずっと一緒に居られるだろうか。
色々な不安で僕も泣きそうになった。
明日は小夜子と美味しいご飯を食べに行こう。
僕はベットに入り、小夜子を抱きしめながら寝た。

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