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あえて雨にあたって歩く

 働き始めてからは鞄にかかさず折り畳み傘を入れているが、あえて雨にあたって歩くのも好きだ。蒸し暑くなってきた季節に少し冷たい雨が降っていると、それが頬にあたるのが気持ちよかったりする。

 先日、会社帰りになんとなく雨にあたりたくなった。残業終わりで疲れきった頭を冷やしたくなったのだと思う。

 音楽を聞きながらいい気分で歩いていたら、突然右斜め後ろ声をかけられた。

「傘2本持っているんで貸しますよ!!」

 ラフなかっこうをした男性がビニール傘をさしながら一所懸命話しかけてきてくれていた。私は思わず、ナンパかと思い断ったのだが、その後もしばらく何度か声をかけられた。

 やがて諦めて男性は去っていったのだが、私は徐々に申し訳ない気持ちがわいてきた。私はついナンパかと思ってかなり対応を冷たくしてしまったが、もしかしたら本当に善意だったのではないだろうか? 傘を2本持っているようにはとても見えなかったが、雨の降り方はけっこう本降りに近く、私以外の通行人は全員傘をさして歩いていた。明らかに私は雨の中、傘のないかわいそうな人間だった。

 声をかけてくる人間は本当にナンパの場合もあるので、今回の対応はいたしかたないとは思いつつも、そもそも私は鞄の中に折り畳み傘を持っているのにわざわざささずに歩いていたわけで、最初からさしておけばこんなことは起こらなかったのである。しかも私はなぜか折り畳み傘を2本も持っていた。私のよくわからない動きのせいで男性は声をかけてきたわけで、なんだか申し訳ないという気持ちがむくむくわいてきた。

 今度からは、人通りの多いところでは素直に傘をさそう。そう決心しつつ、今日も折りたたみ傘を鞄にいれる。

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