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【ブックレビュー】キャラクターたちの運命論

このたび、大好きなゴールデンカムイに関連する書籍を購入したので、紹介させてほしい。

『キャラクターたちの運命論』

植朗子,平凡社,2023

先にお断りしておくと、本記事にはゴールデンカムイおよび『キャラクターたちの運命論』のネタバレが含まれている。また、『キャラクターたちの運命論』でのゴールデンカムイに関する記述は、6章あるうちの1章分である。こちらを了解のうえ、読み進めてほしい。

読む前の印象

数か月前、X(旧:Twitter)にて、月島基を題材にした書籍が発売されるという情報を耳にした。

月島基(つきしまはじめ)とは、『ゴールデンカムイ』という漫画の登場人物で、主人公である杉元佐一と敵対関係(利害の一致により一時的に共闘する)にある存在だ。私は月島基のファンだったので、書籍の情報を注視していた。

ちなみにどれだけファンかというと…

  • 『週刊ヤングジャンプ』で連載をリアルタイムで見守っていた。

  • "死亡フラグ量産機"である月島に対して「死なないで!」と毎週祈るような思いで読んでいた。

  • ヤングジャンプのアンケートはがきの野田サトル先生へのメッセージ欄に「月島を殺さないで」と書いていた。

最後の1つは我ながら強火だったと反省している。

さて、話を戻そう。
特定のキャラクターを取り上げる本ということで、ファンブックかと思いきや、なんとあの平凡社からと出版されると聞き、私は驚いた。

大学時代に文化人類学や社会学を専攻していた私は、レポートや卒論で平凡社の本に大変お世話になった。私の中では(おそらく世間的にも)、平凡社は社会科学の分野において信頼のおける出版社という認識なので、いい加減な本ではないだろうという期待が高まった。

結論:ゴールデンカムイファン必携の1冊

本書を読んだ感想をまとめる。

鶴見中尉の、いご草ちゃん絡みの『嘘』や『鶴見のために死ぬ』だった月島が『鯉登とともに生きる』に至った過程がとてもわかりやすく説明、考察されていた。また、鯉登が単に月島を救う存在というだけではなく、鯉登自身の成長の過程にもしっかりと言及されていた。

私たちファンの「エモい、尊い」などといった言葉だけでなく、専門家の先生に丁寧に紐解いていただけたことで、月島、鶴見、鯉登が織りなす物語の見事さを再確認できた。

ゴールデンカムイ(というか月島)が好きで本当によかったと思える一冊だと確信している。

植先生の『キャラクターたちの運命論』は、今後ゴールデンカムイを語るうえで欠かせない文献になりそうだ。

文化人類学とゴールデンカムイ

私は文化人類学の専門家でもなんでもないが、X(旧:Twitter)での、植先生とのやりとりを、一部修正してこちらに再掲する。

なお、以下は、『キャラクターたちの運命論』ではなく、ゴールデンカムイと文化人類学、という観点での発言となる。

あくまで白豆腐の素人意見であり、植先生の発言ではない。


文化人類学を履修していた者として、ゴールデンカムイで気になったキーワードは「通過儀礼」。

第59話で尾形が「親殺しってのは巣立ちのための通過儀礼だぜ」と言っていたように、ゴールデンカムイにおいて「親殺し」は「通過儀礼」。

尾形と同じく父親を殺した月島にとっても同様といえる。

月島の「親殺し」の1回目は、実の父親。そして第2回目は鶴見中尉なのでは?と思っている。もちろん、鶴見は月島の父ではないが、関係性の深さから育ての父と言って差し支えないだろう。

第307話で、月島は、鶴見の「上がって来い」という言葉を拒否した。その後、杉元との戦いをきっかけに、鶴見は表舞台から姿を消す=社会的な死。

月島は遠回しにこれに加担したので、親殺しと言えなくもない。

文化人類学者のファン・へネップの通過儀礼における「分離」「過渡」「統合」の3つの過程に当てはめると、悪童だった月島は「父殺し」という分離の儀礼を経て、葛藤を抱えつつも人殺しを厭わない不安定な過渡の状態になり、「鶴見殺し」という統合の儀礼を経て、主体性を持った人間になったと考えている。

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テクニカルライターをするかたわら、趣味の着物やオタ活をしています。