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ASKAの歌詞を、お描きAIに描かせてみた。

Midjourney」というお絵描きAIが、夏頃からちまたで流行っている。
昨日ようやく私も使ってみた。

「Midjourney」は、コマンドを英文で入力すればそのイメージに近い絵画を自動生成してくれるオンラインサービスである。
どんな絵を描いてくれるのかといえば、このリンク記事に載っているイメージで大体想像がつくだろう。(有料記事だけどこの画像を見るだけで十分。東京タワーをゴッホ風に描いてもらったそうです。)

これを楽しむためには、自分の中に描きたいイメージが最初になければいけない。
私の中で描いてみたいイメージといったら、それはもうズバリ、ASKAの歌詞の中に描かれている情景だ。


ひとまず「Midjourney」の実力を知ろうと、パッと思い浮かんだ歌詞をコマンドに入れてみた。

海の上にそびえる 不思議な木を
大きな旗を立てて眺めている

歌い出しから印象的な、CHAGE & ASKAの「BIG TREE」。
こちら、アルバムジャケットには人の手を使ってこの”不思議な木”のイメージが表現されているが、これが手ではなく木だったら、どんな情景が見えるのだろうか。

そもそも「海の上に木がそびえる」なんてことは塩水にやられてしまってあり得ないので(マングローブなど一部の木は生息できるけれど)、このようなクリエイティブを施したり、絵画にでもしなければ実際に見ることはできない情景だ。


「Midjourney」でBIG TREEを描いてみる

というわけで、「Midjourney」のコマンド入力部分に「big tree, over the sea」などと歌詞に忠実に入れてみる。
ついでに「flag」とか「building lights」など、歌詞の中に出てくるキーワードも。

すると、なんだか間抜けな絵が生成されてしまった。
クリスマスツリーのようなもみの木が数本、海から突き出ている。
ビルがやたら大きく描かれ、旗がこれまたとんでもなくしょぼい。

いやそれ以前に、ビルがほぼ真ん中に位置してしまっているところが、思い描いていたのと全然違う。これは絶対に「BIG TREE」ではない。

うーん、でも「Midjourney」を責めるべきではないよね。
そもそも私の中で、何を描きたいかが定まっていなかっただけで。

そう思い直して、まず「BIG TREE」だけを描くことに決めた。
(本当は旗くらいは添えたかった。でもコマンドで遠近感を出す方法がわからなかったので…)

木が情けなくなったのは、具体的なイメージが足りなかったからだろう。
幹が太く、枝葉がよく茂っている木の代表格として「oak tree」と樹種を指定してみた。数も一本と指定。これで堂々たる木になるだろう。

海や空のディテイルも必要かもしれない…いい感じに飛沫が立ち、水平線近くに光が差している感じでどうだろう?

何度か具体的な指示を足していくにつれ、ある段階から急にAIが提示してくる絵のクオリティが上がった。
うん、いけそう!

何枚か提示し直してもらい、最終的に決めたのが、これ。
結構いい感じでしょう?


Twitterにて、他者の脳内イメージが違っていることを知る

この面白さをついシェアしたくなり、生成してみてすぐにTwitterに投稿してみた。すると、自分の中のイメージとはちょっと違う、という反応も。

そうそう、こういう「他の人の脳内BIG TREE」を聞いてみたいのもTwitterでシェアした理由だったので、コメントをくださったお二方には本当に感謝です。

それにしても、なるほどなぁ。「波は穏やかだけど、そこそこ海風は吹いている」とか「晴れ上がった空」というのは歌詞のどこにも書かれていない。
一方私の「荒れた海」のイメージも、どこにも書かれていないのだ。

この「BIG TREE」は「眠りから覚めて」消えてしまったイメージ、つまり夢の中に現れた木であろうことはわかる。
さらに「心にふちどられてる」と歌われるように、いつも胸の中にあって自我を守り、その在処を示してくれる象徴の木なのだろう。
うん、描きがいがある。

私の場合は、「風当たりが激しくても揺るがない自我」というイメージを荒れた波で表現したが、これが「堂々と凪いだ海」であっても、「気持ちよく晴れ渡った空」であっても、その人それぞれの自我の捉え方であるから全てそれが正しいとなるわけだ。

人それぞれの歌詞の捉え方が「Midjourney」を動かそうとするとコマンドに入力する具体イメージに変わるわけだから、これはとても面白いことだと思う。
詩を生む時に値するような、アーティスティックな脳の使い方を、AIが引き起こしてくれているのかもしれない、なんて。

歌詞が生み出す、自分だけのイメージ

そもそもだが、歌詞というのは「引き算」で作られていると私は思っている。

「こんな場面を描きたいな」というイメージは、作り手の中にはしっかり練り込まれ、組み上がっているはず。
だが音符に乗る言葉の分量や、歌ってみたときの母音の響かせ方などを調整するうちに、その豊富にあったはずの言葉はどんどん削いでいかれて、最もミニマルになった状態が完成形とされるのだろう。

みっしりと詰まった頭の中のイメージから、歌詞を作る人は削ぎに削いだ言葉だけをポンと投げてくる。
なのでキャッチした側は、そこから再度イメージを膨らませることになる。当然そこに、誤差が生じてくる。まるで伝言ゲームのように。
これが歌詞の面白いところだろう。

少ない情報を使い、頑張って自分の力で脳内に組み上げたイメージを、人は容易に変える気にはならない。
「この歌を聴いた自分だけの宝物」として、大切に胸の中に保管されていくに違いない。

歌を愛すれば愛するほどそのディテイルは細かくなっていき、時間帯や日の光、置かれている小道具からそこに満ちている空気の質感、匂いまで、まるで実際にどこかで出会った情景のように、大事に胸の中に溜め込んでいく。歌詞を味わうとはそういうものだ。

そんなイメージが数限りない人の胸の中に生まれることこそ、歌詞を書く人の冥利に尽きるのだろう。
だから「引き算上手」こそがうまい書き手なんだろうなと、素人目線からも私は思うのである。


抽象のまま、AIに放り投げてみたら

ところで「Midjourney」の仕事ぶりに気を良くした私は、もう一枚の絵を描いてもらえるようコマンドを打ち込むことにした。

貝殻の中の 無人のプラットホーム

「201号」という、これまたCHAGE & ASKAの楽曲の中のワンフレーズ。
この「貝殻の中の 無人のプラットホーム」というイメージが、どんな情景を伝えたくて語られた言葉なのか、ずっと私には想像がついていなかった。

最近になって作詞者であるASKAのブログを読んでいたところ、この「201号」と同じ部屋(同じ恋)のことを歌ったと思われている「C-46」について書いた投稿に、

想い出します。フローリングの床、まるでプラットホームのような長四角の部屋、彼女の少し外れて歌う鼻歌。角の丸いテーブル、一緒に買った座り心地の良いソファ・・。

https://www.fellows.tokyo/blog/?id=65

とあったのを読んで、「そうか!」と合点がいったものだ。

長四角の部屋を「プラットホーム」と表現したのか…さすがはASKAマジック。
初めてこの曲を聴いたときの中学生の私は、まさかこれが横長の部屋とは思わず、しんと静かな巻き貝の中に灰色のプラットホームが置かれているような、マグリットの描きそうなイメージを思い浮かべていたのだった。


この歌詞をそのままAIに打ち込んだら、どんなイメージを返してくれるのだろうか?
好奇心に駆られるまま、私は「貝殻の中の無人のプラットホームのような部屋」を直訳した英語を、コマンドに打ち込んでみた。

結果が、これ!という風に画像を貼りたいのだが、諸事情で画像を保存できなかったので仕方なく言葉で表現しよう…。

AIは相当悩んだのか、通常4枚提示してくれる画像のうち2枚は、謎の貝殻風オブジェが置かれている白い空間だった。

そして残りの2枚は、宇宙ステーションのような長四角のサイバーな建物。
どれにも、情緒や色気のかけらもない…。その先どうコマンドを入れればいいのか想像もつかず、この作業はこれで終わりとなってしまった。


歌詞とAI、その相性の悪さ。その先の可能性。

歌詞とAIは相性が悪い。
AIの能力が最大限に発揮されるのは、指示を与える側に具体的な言葉が溢れているときである。

それに比べて歌詞は、いかに情報を「隠すか」によって成り立っているようだ。
隠された行間にどんなイメージが潜んでいるのか、聴く側は言葉だけでなく声の抑揚、メロディライン、編曲に表れる情感などから受け取れる情報を総動員して、自分なりのイメージを組み立てていく。

そして、聴く側に自分ひとりだけの特別な歌詞世界を生み出していく。
それはもはや、歌詞を書いた作者の中にあるイメージとも違う。
だがそれでいいのだ。

この曖昧なもののキャッチボールを、奇妙なことに人間は好んでいるようだ。
具体的なイメージをうまく隠してくれる作家にこそ、人は惹きつけられ、そこに強い憧れや信奉する気持ちが生まれたりするのかも。

一方のAIは、イメージに被せられた薄い布を剥ぎ、全てを言葉に変えてしまわなければ、そのクリエイティビティを発揮することができないのだ。

もし作詞者であるASKAが「貝殻の中の 無人のプラットホーム」をAIに描かせようとしたら、どんなコマンドを打ち込むのだろうか。
ASKAが、自作の歌詞のイメージを全てAIに描かせたギャラリーを開いてくれたら、きっと長蛇の列ができるだろう。

だがそれは心から見てみたいと思えるようでいて、実は生涯見たくないものなのかもしれない。
それが彼の音楽への愛と、言い換えることができるのかもしれない。


・・・後 日 談 ・・・
(2022/10/08追記)

このお絵描きAIの「BIG TREE」をTwitter上で目にしたASKAさんが、作詞者自身の脳内にあったイメージをコマンドにしてつぶやいてくださいました!
こんなことってあります? SNS時代万歳です。

安定の誤字でいらっしゃるのはご愛嬌としまして。

「BIG TREE」の歌詞の中には「イカダ」は描かれていないのですが、'91〜'92年のツアーでこの歌を歌う前に朗読した「道標」という散文詩の中に、海を行く小舟のイメージが登場していました。

夢の下流で見つけた景色がありました
大きく空を突き抜けるような顔で
心の痛みを抱いてくれるような顔で
深い優しさと 限りない厳しさで
すべてを信じあえるような
そんな景色がありました

今 風を受け 順風満帆 ここに迷うことなし
今 風を受け 順風満帆 ここに迷うことなし
今 風を受け 順風満帆 ここに迷うことなし

このイメージと結びつけずに「BIG TREE」を語れないということですね。

「calm sea、blue sky」
「海から突き出るようにそびえ立つ大樹」

発売から31年経った今、これを知れた喜びは私の中でとてつもなく大きいです。

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