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白鉛筆
2024年3月28日 20:02
始まりは、母を祝う。子種を宿し、育て生む大地を讃える。次に、父を祝う。子種をもたらす、雨の恵みに感謝を捧げ。さらには祖と裔。受け継ぐ過去と、続く未来を想い、尊ぶ。そして己。此処で鳴る心臓、脈打つ命、巡る心を是と捉え。最後に祝うは、それら全てを創りし神。世の理を統べる者。祓いをこの世の禊と捉え、穢れなき世界、それを象る者たちを祝福する。「それが、祝詞」あの子の声で、七代目が言う。
2024年3月23日 06:24
桜色のワンピースが似合う、そんな女の子になりたかった。髪を伸ばし、可愛いもので身を固め。ふわふわのシュシュや、パールピンクのネックレス。爪もリップも艶々にして、明るい色をほんのり添えたい。しかし、違った。生まれ持った私の素地に当てがわれたのは、寒色系のボーイッシュ。柔らかく華やかなものよりは、強く凛々しくが似合うらしい。純血の祓い師という立ち位置も相まって、私のそうした印象は過度に演出さ
2024年3月16日 11:26
朧月のように淡い灯りを、懸命に辿る。ミノから聞いた住所は、見知らぬ地方の見知らぬ地名だった。実家から今住んでいる街へ向けた道中、新幹線を途中下車して、さらに地下鉄に乗り換える。最寄とされる駅で降りると、中心街の喧騒はそこにはなく、転がしているスーツケースの音が嫌に響いた。『私のところにも退去命令が出ました。おそらく直に、監視の目もつく。連絡を取ることが難しくなります』持参してきた荷物ひ
2024年3月9日 07:40
卒業の時までに、学外で制服を着る機会がどれほどあるだろう。せいぜい修学旅行や冠婚葬祭ぐらいではないか、と思っていたのだが、しかし、「えー普通に休みの日とかでも着てる子いるよ。ディズニー行ったり。そうだ、うちらも行こうよ。制服ディズニー。ショーちゃん、ランド派? シー派? タートルトークあるのって、どっちだっけ」まさにその制服に着替え終わった彼女が、二倍の台詞量で応酬してきたので、すぐさ
2024年3月2日 16:44
春と風を引き連れて、その子は私の前に現れた。すなわち、出会いと変革。紆余曲折と悲喜交々を経て、念願とも言うべき高校生活を手に入れた私だったが、しかし待っていたのは孤立と虚脱だった。真新しい制服に身を包み、近代的なガラス張りの校舎へ踏み入ってはみたものの、中にいたのは良くも悪くも、ただの『子供』であった。里にいた同年代と比べ、姿形は幾分垢抜け、立ち振る舞いもこなれた風である一方、本質的な