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白鉛筆
2021年6月21日 21:07
「げ。また君か」指定の時刻、指定の場所に現れたシノノメは、私を認めるなり顔をしかめた。マスクをつけていても明らかにそれとわかる、渋面を作っている。「お久しぶりです。シノノメさん」「うん、久しぶり。瀧本さらささん」都内某私立大学の食堂。その窓際にある二人席に、私たちは向かい合って腰掛ける。オフピークの時間帯のため、広々としたフロアは人影がまばらで、私たちの声が聞こえる範囲には誰もいない
2021年6月20日 17:15
ここでようやく私の話になるのだが、しかし、だからと言って、さほど語るべきことはない。そもそも、この場の出役はあくまで羽鳥先生とシノノメである。私のプロフィールになど、さほど価値はないと思っていたし、今も思っているところだ。だが、こうして指名されたのならば、ある程度の個人情報は開示すべきだろう。そう思い至ったところで、まさにそれに取って代わるであろう、シノノメとの一問一答が始まった。「お
2021年6月20日 00:36
「ご心配なさらずとも、毒など入っていませんよ」羽鳥先生は、面会相手に向かって言った。シノノメと呼ばれるその相手は、およそ老舗の料亭に似つかわしくない、ぶかぶかの黒パーカーに金髪姿だった。フードとマスクを被ったまま、という不遜な出立ち。しかし、先生はお構いなしなご様子で、丁重な態度を崩さない。「赤坂の『鼓月』と言えば、我々の界隈でも専ら飯を楽しみたい時に使う店です。特に個人的には、茶碗蒸