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知財・弁理士キャリア〜大企業知財編〜

 昨年少しずつ記事を書いていましたが、後半サボってしまい・・・、久しぶりの記事になります。これまで色々とまとまりもなく書いていましたが、その中でも比較的たくさんの方に読んでいただいたのが、知財・弁理士キャリアに関する記事でした。

 今回は知財のキャリアについて企業知財、特に大企業知財部のキャリアや業務にフォーカスしてみます。私自身は新卒で大手電機メーカーの知財部に入社して、約10年ほど働いた後、一度転職をして2年ほどか経つというようなキャリアです。

 あくまで、私自身の経験や他の企業に所属する知人からの話をベースにした個人的な考えに基づくものなので、その点はご容赦いただきつつも、ご自身のキャリアを考える上で何かの参考にしていただければ幸いです。

企業知財部における知財業務

 まずは、企業知財と言っても、いくつか異なるポジションがあるため、企業知財における知財業務を比較的よくある募集ポジションを簡単にご紹介します。

①特許出願権利化担当

 もっとも一般的なポジションだと思いますが、出願戦略の構築から発明発掘、先行文献調査、明細書作成、中間処理対応など、特許出願の権利化までの担当です。

 企業によっては、特許事務所に頼らずに明細書作成や中間処理の応答書類作成までを社内で対応することもあります。この場合でも全ての案件をというよりは、一定のルールの基づいて特許事務所に依頼する案件と内製するものを分けていることが一般的だと思います。

②契約・ライセンス・渉外担当

 ①が主に特許登録までの知財業務だったのに対して、こちらは特許等が登録された後のライセンスや渉外関連の業務や、アイデアが出る前の共同研究・共同開発等の契約関連の業務になります。

 知財関連訴訟が多い企業や、通信技術などのいわゆる標準規格関連の技術や、製薬、コンテンツなどのライセンスに深く関わる企業で特に多いポジションだと思います。

③戦略・分析担当(IPランドスケープ)

 ①や②でも戦略的な業務は当然あるのですが、戦略・分析系に特化したポジションが最近徐々に増えてきているです。
 いわゆるIPランドスケープの流れによるところが大きいと思いますが、どのような業務を具体的にするのかといった点は会社ごとのバラつきがかなりありそうな印象です。 

④商標・意匠担当

 特許に比べるとどうしても数は少ないですが、企業知財の中でも商標や意匠を専門に行うポジションも当然あります。

 大企業の知財部で商標・意匠専門のポジションがある場合、外部の商標・意匠系の事務所には依頼せずに完全に内部で対応していることもありそうです。

企業知財のメリット

 次に、知財キャリアの中でも企業知財のメリットについて、以下の3つをご紹介します。

  • 出願人サイドの知見

  • 企業内に蓄積された知見・教育体制

  • 社内でのキャリアチェンジ

 他にも色々な観点があると思いますし、主に特許事務所でのキャリアとの違いで個人的に感じた部分になります。

出願人サイドの知見

 やはり個別の特許や意匠・商標の出願を担当するだけでなく、その裏にある事業戦略や製品戦略をより深く理解し、出願人として知財に対してなにを目的にどのような活動をしていくのかを知れることは、もっとも大きなメリットではないでしょうか。この点は大企業に限らず、中小企業やスタートアップなどでも共通するポイントだと思います。

 もちろん、特許事務所でもある程度の事業情報は得られると思いますがどうしても情報量は少なくなりますし、出願人サイドの当事者として身をおくことで初めて得られる知見や感覚があるはずです。

 この点はその先のキャリアとして特許事務所を目指すとしても大いに役立つところだと思います。

企業内に蓄積された知見・教育体制

 大企業特有のポイントですが、多くの知見が蓄積されており、それを組織として教育する体制が構築されている点も一つの特徴だと思います。

 大手企業の知財部では数百名の知財部員がいて、社内弁理士も数十人規模でいます。さらに、海外の特許事務所も含め多数のネットワークがあり、非常に多くの情報が蓄積されます。また、過去の訴訟やライセンス交渉などからの学びが明細書を作成する際の業務マニュアルなどに反映されています。

 私自身は大企業知財部から転職して現在は色々な特許事務所の方と業務をしていますが、その中で前職では当たり前のことが、当たり前にはできていないみたいな場面に予想以上に遭遇しました。大企業の画一的なマニュアル対応の様なものは批判されることも多いですが、一方で知財業界におけるクオリティのばらつきが大きいことを改めて感じています。

 この様な大企業に蓄積されている知見を吸収できるという点は、個人の知財スキルを向上させキャリアをより優位に進める上では重要な点だと思います。

社内でのキャリアチェンジ

 これまで述べたように大企業知財では様々な知財業務があり、さらに複数の事業や技術を保有していることも多いため、外部に転職せずとも社内異動などを通して色々な経験をすることができます。

 出願権利化業務を経験してからライセンス業務を経験することもあるでしょうし、電気機械系の技術担当からソフトウェア系の技術担当になることもあれば、To B事業からTo C事業に担当が変化することもあるかもしれません。また、海外拠点に知財マネージャーや知財担当として駐在することもできるかもしれません。

 意図しないキャリアチェンジもあるかもしれませんが、希望が受け入れられることもあり、外部へ転職するよりもハードルが低い社内異動で様々な経験ができる点も大企業知財の特徴だと思います(転職を経験した身としては、異動では得られない経験が当然転職にはあると思いますが)。

企業知財の選び方

 ここまで大企業における知財業務やメリットについて説明しましたが、次はどのようにして自身が身を置く企業を選ぶべきかという点になります。以下、3つの観点をピックアップしました。

  • 事業や製品を信じられるか

  • 誰と働くか

  • 経験を活かす、新しい経験を得る

 これは特段大企業知財に限ったものではなく、私自身の転職活動の経験から企業知財全般への就職・転職を検討する際に共通するものとなっています。

 それぞれについて説明していきます。

事業や製品を信じられるか

 そもそも知財は単独で価値を発揮するものではなく、対象となる事業や製品、技術が上手くいかなければ、それに関連する知財がどんなにいいものであっても基本的にはそれ単独で価値を発揮することものではありません。

 そのため、知財業務のやりがいやモチベーションを高めるためには対象となる事業や製品、技術にどれだけ個人として興味を持てるか、その事業や製品の成功を信じることができるのか、という観点が非常に大きいと思っています。

 私自身の転職経験でも、この観点でかなり悩みました。明確な目標がない中で有難いことにいくつか内定をいただいたり最終面接くらいまで進むこともあったのですが、どうしてもその企業の事業や製品に強い思いが湧かず、転職への決心がつかなかったり、そもそも面接の中でその点を見抜かれて不合格となったりという時期がありました。

 その後、ある程度自分が興味のある領域とか観点を整理してそこにターゲットを絞って活動すると、転職活動も非常にスムーズにいきましたので、この観点は非常に重要だと思います。

誰と働くか

 どんな仕事でも共通だと思いますが、やはり一緒に働く人は重要です。特に企業知財の業務は特許事務所と比べると、単なる知財スキルだけでなく、社内でのコミュニケーションを通じて、業務上の目標や課題に対して必要な情報は集め、関係者で擦り合わせをして、具体的な活動を進めていくことが重要となります(もちろん、特許事務所でも上司・同僚・事務員の方などとのコミュニケーションは重要です)。

 また、各企業の文化や雰囲気は同一の企業内である程度一定の傾向はあるものの、大企業になればなるほど結局職場などによってばらつきが大きく、最後は自分が所属する部門の人で見極めるのが重要です。

経験を活かす、新しい経験を得る

 これは中途での転職に限りますが、転職活動をしていると、自身のこれまでの経験やスキルを活かせるという観点と、新しい経験やスキルを身につけられるかどうかという観点があり、これは基本的に相反するものなので、どちらを重要視するのかみたいなところで悩むことがあると思います。

 ただし、一定の汎用的なスキルや経験を取得していれば(知財業務はこれを得やすい)、自身の経験やスキルを活かしながらも新しいスキルや経験を得る機会も得られる様なポジションを見つけることができます。

 逆に上記点でしっくり来ないのであれば、より良い機会があると考えることもできるので、他の企業やポジションをもう少し探してみてもいいかもしれません。


 以上、企業知財、特に大企業知財でのキャリアとして、企業知財の業務やメリット、企業選びの観点についてツラツラと記載いたしました。キャリアに対する悩みはいつになっても尽きないと思いますが、企業知財に興味がある方に少しでも参考にあれば幸いです。

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