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LINEふるふる特許事件からの考察

 ご無沙汰してしまいます。オリンピックも盛り上がっていますが、久々に投稿します。LINEふるふる特許の判決が出ましたね。権利者勝訴とはいえ賠償額約1400万円という金額がLINEの事業規模からするとあまりにも低い賠償額となりました。実質的に権利者敗訴といってもいいかもしれません。知財関係者の中でも色々と意見が出ているようですが、知財の価値が小さく見積もられてしまうのではないかなど、全体としてはネガティブな意見も多いような気がしてます(あくまで個人的な観測範囲では)。

 一方で、個人的には今回の判決自体は結構妥当な感じかなと思っており、IT分野でこの辺りのグレーな論点に触れられた数少ない判決でもあることからも、この辺りの考えを備忘録的にまとめてみようと思います。

判決の概要

 ここでは損害額の判断にフォーカスして整理したいと思います。詳細はこちらの動画が実際の権利者の方も出演してもおり、判決内容の全体を理解するには非常にわかりやすいと思います。一方当事者の主張が多くなるので、その点は割り引いて聞いていただいた方が良いかもしれません。

 裁判所の判断を整理すると、損害額の認定の考え方として、(1)ふるふるによる機能と相当因果関係にある範囲の売上高を算出し、(2)当該売上高に相当因果料率を乗じた金額を損害額と認定しています。

 (1)に関して、アカウント広告による売上は、一般のユーザ同士のふるふる機能による友達登録との関係がないか、関係があっても希薄であると判断しています。また、コミュニケーションによる売上は、スタンプや絵文字についてはふるふる機能による友達登録とコミュニケーションと関係があるとしています。その上で、スタンプや絵文字の売上にふるふるによる友達登録割合を乗じた金額が相当因果関係にある売上と認定しています。
 さらに、(2)に関して、類似技術が存在することや、被告システムの売上や利益への本件発明の貢献の程度は限定的であることを考慮して、相当因果料率を算出しています。具体的な料率は非公開となっていますが、損害賠償額からするとかなり低い料率だったようです。

広告モデル収入の扱いについて

 上記の中でも一番議論の的になっているのは、アカウント広告による売上における広告による売上(判決文における⑥の売上)が、損害賠償の対象から外れたことだと思います。本判決によって、無料で特定の機能を提供しつつ、広告で収益をあげる広告モデルのビジネスが全て損害賠償請求できなくなり、それはおかしいのではないか、法律が現実のビジネスに追いついていないのではないかという意見がちょこちょこ見受けられます。

 上記点に関して、個人的な見解としては、今回の判決は、無料で提供される機能と広告モデルによる売上との間の関係性が問題であり、今回の判決によって必ずしも広告モデルの収益を無料機能に関する特許権の侵害訴訟で捕捉できないということにはならないと思います。

 上記点について深掘りすると、LINEの企業広告については色々とあるようですが、主に以下の図にあるような、タイムラインに表示されるもの、トークルームの一覧表示の上部に表示されるものがあり、今回はこれにフォーカスして説明します。

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 LINE広告の例(LINEのHPより転載

 上記のような広告の効果を考えると、LINEのユーザ数、特にアクティブユーザ数に依存するものだと考えられます。一方、ふるふる機能に関連するユーザ同士の繋がり、友達登録の数は、直接的にはLINE広告に影響を与えるものではなく、広告自体も友達同士のトークルーム内に表示されるものではありません。

 また、広告主である企業の目線からしても、LINEのユーザ同士の友達数に着目して広告を出すのではなく、LINEの膨大なユーザ数に期待して広告料を支払っていると思います。もちろん、友達数が極めて少ないとアクティブユーザにはならないという側面はあるものの、ふるふる機能によって友達登録される数が全体からすると極めて少ないことも考慮すれば、「アカウント広告による売上は、一般のユーザ同士の本件機能による友達登録との関係がないか、関係があっても希薄である」という結論は、一定の妥当性があるのではないでしょうか。

 もし、LINEの広告モデルが、ユーザ数ではなく、ユーザ同士のコミュニケーション数やその前提となる友達数に応じた従量課金になっていたり、友達同士のトークルーム内にも広告が表示されていたりすれば、アカウント広告による売上とふるふる機能による友達登録とがより密接に関連していると考えられ、異なる結果になった可能性はあるかもしれません。

相当因果料率について

 上記点に加えて、(1)の売上高の算定においてふるふるによる友達登録割合を考慮し、さらに(2)の料率の算定でもふるふる機能の貢献度を考慮しているのが二重でふるふる機能の貢献度のようなものを掛けている点で、賠償額が低くなってしまっているのではないかという意見もありました。

 確かに、二重で貢献度を掛けているようにも見えなくはないですが、この点についても妥当な側面もあると思っています。

 通常、HW製品の侵害訴訟であればまずは権利侵害している侵害対象となる製品・機種を特定することになります。今回はLINEが提供しているアプリが、多様な機能を有するSWであり、かつ、売上も単純にSWを提供することで得ているわけではなく、多様な形態でマネタイズされている複合的な製品・事業と言えるでしょう。そのため、LINEアプリを単純に多様なチャネルから売上を得る単一の製品と捉えるのか、複数の機能を前提に多種多様な売上が積み上がっていく複数製品・事業と捉えるのかという切り口があり、権利者側や上記の意見は前者で捉えており、東京地裁は後者で判断したものと考えることもできると思います。そして、判決では、LINEの複数の事業のうちスタンプや絵文字の事業(売上)の一部(ふるふるによる友達登録割合分)がふるふる特許の侵害と関連するものと判断されています。

 ここで、スタンプや絵文字の売上に対して、ふるふるによる友達登録割合を既に掛けているので、さらに貢献度を掛ける必要があるのかという議論がありますが、むしろ貢献度を掛けなかった場合、この売上全体がふるふる機能によって得られた利益(損害額)と言えるでしょうか?

 ふるふる機能により友達登録されたユーザ同士が有料スタンプや絵文字を利用している場合、ふるふる機能が友達登録したユーザにコミュニケーションを取るきっかけをもたらしたという点でふるふる機能の貢献はあるかもしれませんが、その売上は純粋にスタンプや絵文字の良さ(デザインやセンス)による貢献の方が圧倒的に大きいと思います。そうすると、上記売上全体をふるふる機能によって得られた利益と考えるよりも、ふるふる機能の貢献度を一定割合掛ける方が妥当だと言えるのではないでしょうか。

本判決を踏まえた特許戦略

 本判決を考慮すると、例え広告モデルのように無料で提供される特許アイデアてあったとしても、広告や他の収益に寄与するものであれば有効だと考えられます。本件であれば、権利ができるかは別として、LINEのユーザー数増加に直接寄与する機能や、コミュニケーション機能そのものに関連するものであれば異なる結果になった可能性があります。

 一方で、収益向上に寄与していないもの、広告モデルであればユーザ数や広告の閲覧数が広告の収益と密接に関連するKPIであるため、ユーザ数や閲覧数の向上に寄与しない特許発明は損害賠償の対象とはなりにくいと考えられます。無料で提供される機能と広告等の収益との関係性は非常に難しいですが、本件であればふるふる機能の提供によって広告料収入やスタンプ収入が向上しているのかということを直感的に考えると理解しやすいのではないでしょうか。実際、本件訴訟との関係性は不明ですがふるふる機能が提供されなくなって、その結果としてLINE社の売上が減少したということもなさそうであれば、この事実がふるふる機能とLINE社の各売上との関係性が希薄であることの何よりの裏付けと言えるでしょう。

 上記を踏まえると、自社・他社の収益の源泉となる部分を如何にして特許で守るかが重要になります。非常に当たり前っぽく聞こえるかもしれませんが、競合を意識して知財活動をしていると他社の製品に当て込むことに意識が行き過ぎでしまうこともあります。他社製品を意識すること自体は重要ですが、些末な部分で当て込みにいっても、収益性と関連性が乏しい部分や、簡単に設計回避できてしまう部分では、権利行使ができたとしても本件のように自社に優位な結果を導くことはできないでしょう。

 本判決は、改めて、製品や技術の本質的な部分を特許で抑えることが重要であると再認識させられる事例だったのではないでしょうか。


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