DFラインを上げる、下げる
DFラインが高い、低い、上げる、下げるといったことについて考えてみます。
結論から言えば、ボールにプレスがかかっている場合なら、ラインを上げる。ボールがオープンなら、ラインを下げるというところに尽きると考えています。この2つの原則は、条件と結論を入れ替えていうことも可能です。ラインを上げるなら、プレスに行く。ラインを下げるなら、むやみにボールには食いつかない。早い話、プレスとライン上げはセット、前線の後退とライン下げはセットになってこそ、初めて意味あるものになるということです。また、ちょっと別の見方をしてみると、DFラインと前線の間の距離をある程度一定に保つべし、ということになりますね(最後の方で3列の問題として取り上げます)。コンパクトな守備、というやつです。なぜこうした原則に行き着くのか、以下見ていきます。方法としては、この原則に従わない場合に、発生しうる問題点を挙げることで、これらの根拠を説明します。
従わないパターンは大きく2つに分かれます。まずは1つ目、前の選手がプレスに行ってないのに、DFラインが高い状態を見てみましょう。プレスに行かない、つまりボールがオープンであるということは、相手はどこにでも狙って蹴れます。そしてラインが高いということは、ゴール前のスペースが空くということです。相手からすれば、パス一本でGKと1対1のシーンまで行ければ、こんなに楽なことはありません。パスを出す方はじっくり相手を見ながら蹴れますし、受ける方もじっくりタイミングを見極めて裏に走り出し、パスを引き出すことができます。ということで、相手アタッカーがゴール前に走り、そこに相手DFから正確なボールが供給され続けます。まずはボールを見なければならないこちらのDFにとって、加速した相手アタッカーを掴むのは無理な話です。こういうわけで、昨年秋の東京ヴェルディはロングボールで何度もゴール前に迫られました。このように、前と後ろの意図がずれると、失点に直結する危険な状態になります。コンパクトな守備とはいっても、間違った状況でコンパクトな守備をすると、一気に崩されます。というか頭を越されちゃうんです。一つの例外として、横浜Fマリノスはプレスが間に合わない時でも非常に高いDFラインを維持している場合があります。しかし、あれは高いポジションをとるパクイルギュと、すごいスピードでかなり広いエリアをカバーできるチアゴマルチンスがいるから成立しています。真似するものではありません。
次に、2つ目のケースを見ましょう。DFラインは低いのに、前線がプレスに行っている状況です。前線と最後尾の距離が開いて、いわゆる間延びした状態です。1つ目の場合よりこちらの方が、実際の試合だと頻度は多いような気がします。これの何が危険かというと、こちらの陣形の隙間にスペースができてしまうことです。せっかくボールを追いかけて相手を苦しくさせても、相手からすれば、とりあえずこのプレスの一つ先までボールを届ければ、フリーの味方がいることになります。後述しますが、前線だけで出し手に完全なプレスをかけることは不可能です。よって相手DFはこちらの守備ブロックの隙間にボールを入れます。こうなると、相手はこちらの前線の背後でボールを落ち着いて引き取って、こちらの最終ラインに向かってくることになります。ボールはオープンで、しかもこちらの最前線はかわされていますから、大体の場合残り2列で相手を止めねばなりません。これも後述しますが、2列というのは守備の枚数としては心許ないものです。ということで、まずは守備がまずいです。と同時に、これはこちらのFWのプレスが完全に無駄になったということを意味します。FWからすれば相手を追うのは疲れる作業なので、無駄な走りで体力を削られ、攻撃に悪影響が出ます。また、後ろで運よくボールを取れたとしても、ボールを取った位置とFWの距離が開いているため、カウンターに繋げにくくなります。体力使って頑張ってボールを追いかけたFWは大体ついてこなかった見方に怒鳴るので、そういう意味でも悪影響ですね。
以上見たように、チーム内で方針が揃わないと、こんなに悲惨なことになります。だから、試合中に選手たちは一生懸命コミュニケーションをとって、ボールの状況と自分たちのDFラインの高さに矛盾がないように調整を繰り返します。この調整はもちろん各チームの特徴を計算に入れて行うので、最終的な守備陣系には個性が出ます。それも面白いところです。例えばボランチにカンテやマテュイディがいれば、多少全体が間延びしても、隙間のスペースを消すことが可能かもしれません。
最後に、僕の思う一般的な守備のセオリーを、大雑把ですが紹介します。まずは、プレスありで、DFラインが高い場合から。先に述べたように、プレスといっても、最前線でボールを取れることはそう多くはありません。なぜなら、最前線がプレスに行く前は、まだ何もボールに制限がかかっていないからです。オープンなボールにプレスが到達するまでの時間で、相手DFは自由には蹴れないにしろ、パスで逃げられます。しかし、最前線の役割はこれで達成です。相手DFから少しでも自由を奪うことができれば、2列目はパスコースを予測し、早めにパスの受け手に寄せることができます。ただ、2列目でも奪えないことがあります。そういう時は、3列目、大方の場合最終ラインの出番です。1、2列目で少しずつ自由を削れば、相手のパスも乱れ、誰に次出るかもほとんど決まるので、3列目は決め打ちして強く奪いに行けます。というか3列目を突破されると後はGKだけなので、必ず奪いに行かねばなりません(あくまで原則の話です)。迷いなく3列目がタックルに行けるよう、その準備を1、2列目がするわけです。これが、先ほど述べたように、守備には3列が必要な根拠です。最前線が完全にかわされ、2列目が一からプレスをかける場合、CBにラモスとヴァランがいるとかでない限り、2列だけでは奪いきれません。メッシが守備を免除されている場合のバルサや、同様にロナウドが前に残っているユベントスなどは、実質2列で守っていることもちょいちょいありますが、前者は相手によって崩されることも少なくないし、後者はマテュイディの貢献のおかげで安定を保っているといったところです。もちろん持っている選手の個性によってマイナーチェンジはありますが、通常は3列用意して、1列目が行くなら次々に2、3列目が飛びかかるのが基本です。
次に、プレスなしで、DFラインが低い場合を検討しましょう。今度はプレスがないので、2列目と3列目はさっぱりパスコースの予測はできません。よって人をマークすることができません。まずは一番危険な中央、そしてDFラインのスペースを埋めます。まずはゴールを守る、といった言い方をしたりします。逆に、人に早くつすぎてしまうと危険です。相手がボールを自由に蹴れる分、各々のマークにおいても、相手が主導権を握ります。逃げる方とついていく方がいて、逃げる方が先に走り出すなら、ついていく方が先にボールを触ったり、逃げる相手を止めたりするのは難しいです。大体の場合攻撃側はピッチを広く使ってポジションをとるので、相手選手を掴もうとすると、中央なり逆サイドなり、スペースが空きます。相手が自由に蹴れる状態でこうしたスペースを空け、相手選手にそこに走られるとついていけないとなると、守備は途端に崩れます。よって、まずは欲張らず、ゴール前を固めるしかないわけです。そして忘れられがちですが、ここでも3列存在することが重要です。3列の間のスペースを狭くして中に入れさせなければ、だいぶ縦の距離を稼ぐことができます。それだけボールをこちらのゴールから遠ざけることができるわけです。逆の例を考えると、例えば3列の間が詰まりすぎて一体化したとしたら、ペナルティアークのあたりからシュートがばんばん飛んできます。それにゴール前にわらわら人がいると、GKの視界を遮る上に、シュートがDFに当たってゴールへってことも頻繁に起こります。言うなれば縦幅の過度なコンパクトも、これまた良く無いわけです。今回は横の動きは考えていませんが、縦横にどう距離をとって選手を配置し、一番大事なスペースを守るかという話は、好守における段差、サッカーの競技性に深く関わる部分の話につながっていくので面白いんですが、なんせ場所も取るし、なかなかまとめるのは難しそうです。
以上、色々脱線しましたが、どんな方法で守るにしろ、必ず守備が成立するためには一定の条件が揃わねばならず、チームとしての整合性が求められます。マンツーマンならどうか、ゾーンならどうか、今回は触れませんでしたが、これに横スライドが加わるとどうか、奪った後の展開まで考えるとどうか。数え上げればキリがないですが、こうした要素をいくつもいくつも組み合わせて守備は出来上がります。これらを一つ一つ、そして組み合わせながら、これからも考えていきたいと思います。