強みを伸ばすべきか弱みを鍛えるべきかはわからないけど、サルモネラ菌はどうしているんだろう、という話

よくネット上で繰り広げられる議論のひとつ「強みと弱み、どっちを伸ばすべき?」。

僕には答えがわからない。なぜならまだ25歳だからだ。悠長に議論している場合ではなく、強みも弱みもさっさとなんとかすべきなのである。なんならその前に社会人としての「基本のき」をもっと頑丈にしてやらなきゃいけない。

ネットのバトルを眺めながらうつつを抜かしている場合ではない。やるべきことは原稿の執筆と、担当者への進捗報告である。


「いらすとや」より

ではサルモネラ菌はどうだろう?

唐突にサルモネラ菌が出てきた。なぜサルモネラ菌なのか。それは僕が遺伝学に関する論文雑誌をペラペラとめくっていたからである。

そして見つけたのがこの論文。「人間の体内だけに住み着くようになったサルモネラ菌の弱点を発見したかも!」という内容のものだ。

一体何の話をしているんだ??と読者の皆様に思われそうなので、簡単にサルモネラ菌とはなんなのか、素人なりに頑張って説明してみる。


「いらすとや」より

サルモネラ菌といえば、食中毒。梅雨が始まったあたりから秋ごろまで、いろんなところで「サルモネラによる食中毒」が発生している。

主な感染源は肉や卵。古くなってしまったり、火が通ってなかったりする食品を通じて感染することが多い。主な症状は胃腸炎だが、小さな子供や高齢者が感染してしまうと大変なことになる。

とはいえ、一口にサルモネラ菌といっても2000種類以上ある。その中には「いろんな動物のお腹の中に棲息する菌」もあれば、「人にのみ感染する菌」も存在する。

厄介なのは後者。前者なら「あいたたた〜さっき食べた卵ちょっと古かったか〜」くらいで済むかもしれない。けど後者は症状が重篤化しやすい。そのうえ免疫細胞の監視をぬるりと交わしたり、細胞の中に入り込んで生き延びたりと、あの手この手で生き延びようとする。

だからこそ、そのような「人に感染しやすいサルモネラ菌」に対する研究は重要度が高い、とのこと。菌もいろんな方向に進化して、なんとかして生き延びてきたんだなあと思うと、世界は摩訶不思議である。

サルモネラ菌は「強さ特化型」

そんなサルモネラ菌の特徴について研究するべく、この論文では「Rb-Tn-seq法」を用いて性質を解き明かそうとしている。

また小難しい言葉が出てきたので、AIに説明を任せることにした。思いの外長ったらしいので、詳しく知りたい人以外は太字の部分だけ読んでください。

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人に感染するサルモネラ菌が特定の環境に弱いことをRb-Tn-seq法を使って発見した過程を、中学生にも理解できるように解説します。

特定の環境に弱いということを見つけるまで

1. 遺伝子を壊す

まず、サルモネラ菌の遺伝子を一つずつ壊していきます。この時に使う道具が「トランスポゾン」というものです。トランスポゾンは、まるで遺伝子のいたずらっ子のように、サルモネラ菌の遺伝子に入り込んで、その働きを邪魔してしまうことができます。

2. いろいろな環境で育てる

遺伝子を壊されたサルモネラ菌を、今度は様々な環境で育ててみます。この研究では、サルモネラ菌にとって、ヒトの体の中と似た25種類もの環境を用意しました。

例えば、胆汁(消化液の一つ)や抗生物質、活性酸素など、サルモネラ菌にとって厳しい環境も含まれています。

3. 生き残る能力を比べる

それぞれの環境で、どの遺伝子が壊されたサルモネラ菌が生き残りにくくなったかを調べます。もし、ある遺伝子が壊れたサルモネラ菌が、特定の環境で生き残りにくくなったとします。その場合、壊した遺伝子は特定の環境において菌が生き残るために必要なものだと分かります

4. 結果を分析する

この研究では、得られた結果を分析するために、「SAFE」という特別な地図のようなものを使いました。この地図上には、サルモネラ菌の遺伝子が、まるで駅のように配置されていて、隣り合っている遺伝子同士は、似たような働きをしていることが多いという特徴があります。

この地図を使って分析した結果、人に感染するタイプのサルモネラ菌は、鉄分が少ない環境や、活性酸素が多い環境で生き残りにくいことが分かりました。つまり、この実験で「人間の体内環境で生き残りやすい遺伝子」がなにかわかっただけでなく、人に感染する菌はそのような遺伝子の一部が変異していることが明らかになりました

具体的には以下のような遺伝子です。

例1: rfbE 遺伝子

rfbEという遺伝子は、サルモネラ菌の表面にある「O抗原」と呼ばれる部分に、特別な糖「tyvelose」をくっつける働きをしています。この遺伝子を壊したサルモネラ菌は、胆汁や、ある種の抗生物質に弱くなってしまいました。つまり、tyvelose を作ることは、サルモネラ菌がヒトの体の中で生き残るために重要であると考えられます。

例2:metIQN遺伝子

metIQNという遺伝子は、「メチオニン」という栄養素を、サルモネラ菌の中に運ぶ働きをしています。この遺伝子を壊すと、サルモネラ菌は、活性酸素ストレスに弱くなってしまいました。活性酸素は、サルモネラ菌を攻撃する武器のようなもので、ヒトの体の中でも作られます。つまり、metIQN遺伝子は、サルモネラ菌がヒトの体の中で生き残るために必要な遺伝子の一つであると考えられます。

例3:ybdZ遺伝子

ybdZという遺伝子を壊したサルモネラ菌は、鉄分が少ない環境で、特に生育が悪くなりました。鉄分は、サルモネラ菌が生きていくために、必要不可欠な栄養素です。ヒトの体の中は、サルモネラ菌にとって鉄分が少なく、なかなか手に入りにくい環境です。つまり、ybdZ遺伝子は、サルモネラ菌がヒトの体の中で生き残るために重要な役割を果たしていると考えられます。

このように、Rb-Tn-seq法という手法を使うことによって、サルモネラ菌が、どんな環境に弱く、どんな遺伝子を使って生き残っているのかを、詳しく調べることができます。

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おお〜長ったらしい解説。ざっとまとめると「人の体内で生き残りやすい遺伝子はわかった&人に感染するサルモネラ菌はそのような遺伝子を持っていた!けど、他の遺伝子の一部が変異して使い物にならなくなっていたよ〜」ということらしい。

つまり、サルモネラ菌は「弱みを切り捨てる代わりに特定の環境には強くなる選択をした」といえる。

もちろん、サルモネラ菌がTwitterで激論を繰り広げ、YouTubeのコメ欄でも議論し、その結果「伸ばすべきは強みだ!」と考えたわけではない。いろいろと複雑な要因が絡み合っているが、ざっくり言ってしまえば「たまたまそうなった」とも言える。

とはいえ現時点での研究結果として、サルモネラ菌は特定の遺伝子は放置し、別の遺伝子を強化していったといえそう。

なので仕事とかで悩んだら「でもサルモネラ菌はこっちを選んだな〜」みたいな感じで思い出してみてください。だからなんだ、となるはず。

でもひょっとしたら弱みを切り捨てるのが「自然の鉄則」である可能性もまた、0ではない。

※人間の労働市場と体内環境はぜんぜん違うので、キャリア選択とかの参考にはしすぎないでください。
※ちなみにこの研究は研究室の環境下で行われたため、実際の体内環境で遺伝子がどう作用しているかまではわかっていません。

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