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山岡鉄次物語 父母編9-3

《 成長3》ゴジラ・伸郎・親吾

☆長男鉄次と次男伸郎が小学生の頃のある出来事だ。

鉄次は伸郎に対して忘れられない思い出がある。兄としての汚点が心の奥に古い傷となって、今でも残っている。

現在は無くなってしまったが、この当時蒼生市には何軒かの映画館があった。
市内の映画館でかかっていたのはゴジラの4作目の「モスラ対ゴジラ」だった。
東宝映画のゴジラシリーズは当時の子供に大人気だった。

ある日、鉄次と伸郎は母親から貰った百円硬貨5枚を握りしめて、映画館までやって来た。
ところが映画館の入場料は350円で2人一緒では入れなかった。
普通なら兄弟2人諦めて帰るべきところを鉄次だけ入場して、伸郎は映画館の外で遊んで待つ事にしたのだ。

鉄次は映画館の前で、たまたま近くにいた子供と遊んでいる伸郎に言った。

『伸郎、お金が足りないから帰ろう。』

伸郎は子供と遊び続けながら答えた。

『せっかく来たんだから、兄ちゃん一人で見てくれば。』

鉄次は迷ったが、映画館に入ってしまった。

『じゃあ見て来るから』

鉄次は映画を見ながら、伸郎のことが気になり外に出たり入ったり落ち着かなかった。

スクリーンではザ・ピーナッツ扮する小人がモスラの歌を唄っていた。

鉄次は弟より自分の欲望を優先したのだ。伸郎に兄としてやってはいけない事をしてしまった。当時の伸郎はその後、何も無かったかのように文句を言わなかった。
無邪気な弟に救われた鉄次だった。

鉄次自身の細かい話は、この物語の青春篇(仮称)に書いてゆくが、鉄次はこの後、普通の人として成長し、妻を得て2人の子供と孫たちに囲まれ、普通に年老いて、今を生きている。
しかし、父母の人生に比べたら語るほどの生き様ではない。恥ずかしくもある。父母の過去に思いを馳せると、決して真似は出来ないが、生き方は学ぶべきことはたくさんある。

父は、子供たちが人に成った後、新年の家族会を自腹で催して、家族みんなの時間を作ってくれた事があった。その意図は解らないが、私たち姉弟の交流の場を作り、みんな仲良くして欲しいと願っていたのかもしれない。

鉄次もいつかそんな日を作りたいと思っている。

伸郎と親吾のこの先の話を少し続ける。

少年時代を元気に送った伸郎は、中学校を卒業すると父頼正の勤める栄和木材工業に就職をする。

会社では木材加工、主に建具製作に従事したが、建具職人の手元ばかりでは未来が見えないと、数年の勤務の後に転職をする。

頼正は伸郎が手に職をつけた方が良いと、板金職人の道筋をつけた。
隣村で建築板金業を営む家に住み込みで職人への道に進むが、数年後、伸郎は不安な事態に遭遇する。

伸郎が数年の修業を積んでいた頃、板金業を営んでいた親方夫婦が経済的事情で、東京へ出奔してしまったのだ。いわゆる夜逃げだった。

親方を失った伸郎は、実家に戻り父頼正の助けを得て建築板金業として独立の道を歩んでいく。

実家で生活する伸郎は、自家用車を持っていた事があった。どの程度の行いをしていたかは不明だが、車を使って暴走遊びをして、よく父母に心配をかけていた事があった。何処にでもある若者の一時の出来事だった。

建設不況の頃から建築塗装を始め、仕事の巾を広げて頑張っている。
伸郎は妻と3人の活躍する子供たちと幸せな時間を過ごしていく。

末っ子の親吾は姉弟みんなに可愛がられて育っていく。兄や姉の後に付いて回る可愛い弟だった。

親吾は中学校を卒業すると、市内の大手都市ガス会社に就職する。

青年になった親吾は長い間勤めたガス会社を退職し、伸郎の仕事を手伝っていた事がある。
もともと真面目で大人しい親吾ではあったが、若気の至りのなせる業なのか、タイミングが悪かったのか、この頃、交流があった悪い遊び仲間と失敗を犯してしまう。
批判されてしかるべき事だが、親吾は父母の手を借りて、時間とともに失敗の痛手を何とか乗り越えた。

その後の親吾は、市内の小規模の水道工事会社に職を得た。ガス会社時代の配管技術を生かし、水道工事会社で無くてはならない技術者となり、この会社を背負っていく。

親吾は妻を得、2人の子供、孫といい時間を送っていく。

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