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色栞一枚目 「枯林」

枯れていることは
なんも悪いことではないと
祖父が言っていたことを
幼心にじっと受け止めた頃

枝の語る昔話と
落葉の刻む時のリズムが
魂の一隅となって働いた

枯れた林は遠くまで見える
すぐ根元に寝転んでも
空がつかめる

鳥のさえずりもうまく行き渡り
吹き抜けていく風は峻烈で
引き締まる身が
湧き立つ命を抱えている

そして何よりも閑かで
体内の気と水分が
底の方にゆったりと
落ち着いてゆくのがわかる

澄んでゆく

その中に私たちは
砂金を見つけることもある
ガラス片とて同じこと
かけがえのない輝きが
私たちの糧となって
また緑うるわしい時へと
向かうのだ

静かな時の波が打ち寄せる場所
私たちをひっそりと休ませる場所
枯林で
土に染み入った祖父の精神が
身体の中心を通り抜けてゆく

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