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【作品一首】喧嘩らしい喧嘩は未だないけれどヒメツルソバの殖えてゆく春
喧嘩らしい喧嘩は未だないけれどヒメツルソバの殖えてゆく春
「現代短歌新聞」2024年6月/147号「読者歌壇」
佐伯裕子選・佳作
【一首評】すっぽりとこの世から消えたことなくて携帯の灯が点滅してる/野口あや子
第一歌集『くびすじの欠片』(2009年)巻末歌。
個人的には、いわゆるガラケーを使っていたのは十数年前、十代の終わりまでで、それ以降「携帯の灯が点滅してる」光景を日常的に見ることはなくなった。ただ当時はといえば、携帯電話のランプが点滅しているのを見つけると、心待ちにしていた連絡が来たのか、あるいは予期せぬ人からのものなのかと、多かれ少なかれ毎回心が浮き立っていたのを覚えている。飽きるほどメールを
【作品一首】何時までも風の吹かない夜は想ふ千の林檎の浮かぶ果樹園
何時までも風の吹かない夜は想ふ千の林檎の浮かぶ果樹園
「現代短歌新聞」2024年5月/146号「読者歌壇」
佐伯裕子選・次席
【ランダム五首評】田村穂隆『湖とファルセット』【イメージを橋渡しする縁語】
半夏生 左腕に陽が差したとき傷の部分がいちばん白いp. 10より。
半夏生といえば白。この歌にかぎらず、多くの歌で縁語(と言っていいのか)が駆使されている。
上手いのは二句~結句のまとめ方だと思う。
腕の傷のことを、あくまで感傷的にならずに描写しつつ、「いちばん」を使って、傷の存在よりも白さに焦点を合わせる。「傷」で体言止めにしてより目立たせたりはしない。
そして白さに焦点が合ったとき「陽が差し
【作品一首】こころから遠く在りたる日の暮れに持ち手の黒き傘を引き抜く
こころから遠く在りたる日の暮れに持ち手の黒き傘を引き抜く
「現代短歌新聞」2024年4月/145号「読者歌壇」
佐伯裕子選・一席
【作品一首】指で引く書架の一冊 仰がるることなき天を本は持ちをり
指で引く書架の一冊 仰がるることなき天を本は持ちをり
「現代短歌新聞」2024年4月/145号「読者歌壇」
菊澤研一選・佳作
【作品一首】消ゆるとも其の後を追ふ他はなくまた街灯に伸びてゆく影
消ゆるとも其の後を追ふ他はなくまた街灯に伸びてゆく影
「現代短歌新聞」2024年3月/144号「読者歌壇」
佐伯裕子選・次席
【作品一首】客室の光を幕で遮つて夜の鉄路に漕ぎだすひとり
客室の光を幕で遮つて夜の鉄路に漕ぎだすひとり
「現代短歌新聞」2024年2月/143号「読者歌壇」
佐伯裕子選・佳作
【作品一首】終はりゆく月の曜日よ秋の葉のひとつひとつがただ一度降る
終はりゆく月の曜日よ秋の葉のひとつひとつがただ一度降る
「現代短歌新聞」2024年1月/142号「読者歌壇」
佐伯裕子選・次席
【作品一首】鋸で挽かるるごとく十月の闇ふるへをり鈴虫の音に
鋸で挽かるるごとく十月の闇ふるへをり鈴虫の音に
「現代短歌新聞」2023年12月/141号「読者歌壇」
佐伯裕子選・次席
【作品一首】額縁の紋深々と彫られけり外側へ引きかへす視界に
額縁の紋深々と彫られけり外側へ引きかへす視界に
「現代短歌新聞」2023年11月/140号「読者歌壇」
佐伯裕子選・次席
【作品一首】メールにもイントネーションはあると云ふ君がぶつたたいてゐるエンターキー
メールにもイントネーションはあると云ふ君がぶつたたいてゐるエンターキー
「現代短歌新聞」2023年10月/139号「読者歌壇」
菊澤研一選・次席/佐伯裕子選・次席(共選)
【作品一首】ポスティングスタッフ募集深夜の部 雨の野を踏む夢の投函
ポスティングスタッフ募集深夜の部 雨の野を踏む夢の投函
「現代短歌新聞」2023年9月/138号「読者歌壇」
花山多佳子選・佳作
【作品一首】あと何回この人生にあるだろう 蛍光灯の切れた薄闇
あと何回この人生にあるだろう 蛍光灯の切れた薄闇
「毎日歌壇」2022年8月15日
伊藤一彦選
【五首選+α】長谷川麟『延長戦』
現代短歌社賞の選考会や栞文その他でまだ取り上げられているのを見ていない歌に絞って五首選です。
視聴覚室のカーテンにくるまって思えばずっと秋だったことp. 15より。
カーテンに包まっていた昔から今までのことを回想していると読んだ。視聴覚室のカーテンは確か、遮光性の高い、分厚いものだった。だから、外界を遮断する膜として機能する。その膜の中にいれば、夏の暑さも冬の寒さも感じずに済むだろう。でもそれゆ