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頭足類文学

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#ショートショート

耳を盗まれる

耳を盗まれる

 朝目覚めると、右耳が盗まれていた。
 ベランダの掃き出し窓を開けたまま寝てしまったようで、そこから侵入されたのだろう。部屋の中に荒らされた形跡はなく、右耳だけが綺麗に盗まれていた。窓から流入してきたモノラルの初夏の風の音が右脳に抜けていく。何はともあれ盗まれたのだから、先ずは被害届を出すことにした。
 「それで」
 「はい」
 「なぜ盗まれた、とお思いですか」
 「いや、普通に、盗まれたからです

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イカ墨スパゲティを啜る女

イカ墨スパゲティを啜る女

 静謐の鱗粉が店内に満ちている。その粒子を鼻からふんだんに吸い込んでみると、安息感と倦怠感で肺臓がめのうのようになった。静謐なんて店からしたら決して有り難くないのだろうが、瘴気みたいな粒子が客の来店を阻んでいるようにも感じる。思いがけず魔法びんと化している店内に、午の陽がぬるぬると流入してきている。窓際の席には、女が座っていた。あまりの存在感のなさに入店してから今の今まで気づかなかった。テーブルの

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純喫茶 盗掘

純喫茶 盗掘

 クリームソーダの中に小さな人魚が泳いでいる。
 人魚は炭酸に翻弄されてへらへらとたゆたいながら、下半身の鮮やかな紅色の鱗を煌めかせている。上半身は人間の女性のそれとまるで同じだ。巻貝の内側のような質感のふくよかな体を揺らしている。なぜが口が縫い付けられているのが痛々しい。
 「さあさ、クリームと一緒に掬い上げてみなさい」
 店主は、桃色と橙色の間の光を放つ宝石を埋め込んだ右眼と生牡蠣のような左眼

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