サン・ホセ号の「財宝」
コロンビアで発見されたサン・ホセ号、数兆円規模の「財宝」について
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コロンビア沖で発見
スペインの船ー所有権を主張
戦争中に撃沈(1708年)
銀貨(ポトシ銀山から採掘)などを搭載
アメリカのトレジャーハンター会社が発見したと主張
積み荷の原価は史上最高額か(ハッキリ言って、どうでもいい)
コロンビア政府が引き揚げるとか引き揚げないとか話題になっています。単なる財宝の金銭的な価値だけではない。文化遺産としての価値、歴史の重み、そして、海底の環境・生物多様性の維持に係る問題などもある。
文化遺産としての価値
歴史の重み
生物多様性について
この3点。今日は、特に歴史の主にについてが中心。文化遺産としての価値は、結構語られているし、歴史と文化遺産は密接にかかわってますから。
これらを無視してただ単に財宝の価値にだけしか見ない人々がいることは悲しい。そんな単純なモノではない。
わ~い財宝だ!なんて馬鹿なこと言っている時代は終わっています。
ニュース記事は色々あるので皆さんはリンク先で内容を確認を。
また、この記事の一番下に、ちょっぴりまとめていますので、詳しくない人は最後の「そもそもサンホセ号って?」まで飛んで読んでください。
歴史の重み
スペイン人にとってみれば、文化遺産そのものです。動く姫路城です。スペイン政府は、文化遺産として、引き揚げずに水中で現地保存をすることが望ましいとしています。
しっかりと調査を行うこと。現地で保存できないものがあれば、引き揚げて保存処理を行い、博物館などで展示することを望んでいます。現地(水中)で保存できないものとは、海底に露出している有機物などです。船体の一部とか。いわゆる財宝と呼ばれる金・銀・宝石類は、海底では安定しているので、それらを引き揚げる理由は興味以外には何一つありません。
そして、スペインの主張よりも重みのあるのが、先住民の主張
この歴史の重みについては、ほぼすべてのニュース記事にも出てこない。
南米の先住民コミュニティーの声です。ポトシ銀山などに代表されますが、当時のヨーロッパの国々は植民地とした地域の人々を使役・労働力・奴隷として扱っています。疫病などにより多くの人が亡くなりましたが、一つのところに押し込まれて強制労働という環境であれば、疫病が流行るのも納得がいきます【もともとヨーロッパの病気に対して免疫がない】。
過酷な条件で扱われて集められた銀をもとに銀貨を作ったり、金、様々な財宝がスペインに送られました。それで富を得ていた…。サン・ホセ号に積まれた「財宝」は、そのようなモノなのです。
そこで声を上げたのが、ボリビアやペルーなどに住む先住民の血を引く人々、祖先は当時奴隷として扱われていた人々。その主張とは、(その財宝と呼ばれる)文化遺産の取り扱いについては、スペインやコロンビア政府だけではなく、我々も協議に参加する権利がある、というもの。
我々の財宝だ!と言っているわけではない。
当時、確かにスペインが所有していたが、それは我々の祖先を不当に扱い得た品々。その扱いについては、スペインのみがコントロールするべきではない。それは、現在も続く植民地主義的な考えから抜け切れていないのではないかと。コロンブスが「新大陸」を発見し、その後、スペインが先住民を強制労働させていますが、その歴史事実をしっかりと捉える必要があります。
ただ、様々な問題をはらんでいるのは確か。コロンビア政府が引き揚げて博物館などで展示を行うのであれば、その収益の一部は我々にも還元されるべきだと。その展示方法や趣旨などにも我々が関与する必要があるとしています。
まあ、そうでしょうね。引き揚げた遺物に関して、どのように展示するか、どのようなメッセージを持たせるか、遺物の解釈などは、スペイン、コロンビア、先住民が納得できる方法がベストでしょう。
こちらをよく読んでいただければわかるかと…英語でかなり大変かもしれませんが…
コロンビア政府が引き揚げを行うようですが、どうも大統領と行政(および考古学者)の間に考え方の食い違いがあるようです。下の記事を参照。
結構、大統領と文化財関係者の間の意見の食い違いってのがよくあります。インドネシアなどもそうですね。文化財担当者や多くの政治家などは、水中文化遺産保護を徹底することを主張していますが、大統領令で上書きしちゃった例があります。
さあ、どうなるのか…今のところ、スペイン、コロンビア、先住民の間で話し合いがもたれており、うまく関係が築かれつつあると報道されていますが…。
生物多様性について、ひとこと
生物多様性について…サン・ホセ号で直接そこまで話題になっていないですが、近年、沈船の研究家の間では話題です。
沈船は、生物の住処となるので、そこで一つの小さな生態系・マイクロビオトープを形成しているのです。それを、文化遺産だ(もしくは財宝だ)と言って引き揚げてしまうと、その周囲の生態系に傷がつくことになります。
慎重にならないといけないんです。特定の沈没船から発見された新種のバクテリアなどもいます。
つまり、生物多様性など海の環境の保護の側面から見た場合、遺物の引き揚げは適切ではないという立場も考えられます。
考古学と生物学は、水中の場合は共同作業が望まれています。
で、実はもう一つ問題があって、トレジャーハンターが絡んでくるので厄介です。彼らは40年ほど前にコロンビア政府と契約し、船を見つけます。引き揚げてその収益を分け合う契約でした。ところが、コロンビア政府が一方的にこれを拒否。近年になり、コロンビア政府が別の場所でサンホセ号を発見したと発表。これに会社が激おこ…。国際裁判では、コロンビア政府が契約を一方的に破棄したので不利益を被ったと主張しています。(まあ、つまり財宝を引き揚げなくてもコロンビア政府がお金を支払えばよいという立場)しかしながら、これも大きな問題となっています。
というわけで、単に「財宝だ!」と言って喜んでいる人は、文化遺産に対して無関心であるばかりでなく、植民地支配に関して無関心、さらには海洋環境に関しても無関心であることをさらけ出していることになる。
これらの問題を踏まえて、こちらの動画を見ていただきたい。
ここまで単純な話にしてしまってよいのだろうか…
オマケ…
そもそもサンホセ号って?
数日前にもちょっぴり書いていますが、そこから抜粋します。
おなじみのコロンビアで発見された沈船、サンホセ号。スペインの船です。1708年沈没。世界最高額の財宝を積んだ船なのだとか、ハッキリ言って、そんな財宝にみじんも興味ありません。とはいえ、それに振り回されている人々がいるのが事実。しかも、メディアが先導してウソを並べています。いや、ウソではなく、思い込みで書いてしまっている場合が多いです。財宝とか大金とか書けば読む人が増えるからね…。くだらないです。
南米の先住民族グループらが遺跡の所有権をUNESCOやスペイン、コロンビアに対して主張しているというニュースです。
まあ、アメリカのトレジャー会社がコロンビアと契約を結んで、数十年前に見つけたらしいです。が、コロンビア政府が正当な支払いを拒否。サンホセ号ではないと却下。その後、数年前にコロンビア政府が発見を報道。トレジャーハンターは自分たちが見つけたんだから財宝を引き揚げて売却すべきと主張。コロンビアはそれを無視。コロンビアが発見をしている、トレジャーハンターは別の船を発見しているから主張は受け入れられないと…
まあ、そこにスペインが登場。われわれが所有する船だから、トレジャーハンターやコロンビア政府は触ることはできない!と主張。
さらに、南米の先住民コミュニティーが声明(今回のニュース)。積まれた財宝は、不当にも当時のスペイン政府が我々から略奪した財宝である。そのため、遺物の所有権は我々にある!と主張。
コロンビアは、遺跡自体は自国にあるので自分たちの管轄にある。
で、結局誰のものになるの?と数年前から揉めている。この手のニュース、「自分たちの所有権を主張している=財宝を手に入れるのは我々だ」と書いてあるのは本質を理解していない証拠。特に、日本のメディアではそのよな書きぶりが多い。しっかりとソースを読むのと文化遺産の保護の現状を理解しないといけない。
所有権を主張=財宝を引き揚げて儲けたい ではない。
もう一度書く…
自分のものだ=財宝を売却 ではない。
真実は…
所有権を主張=現地にて保存・守るべき存在 である。
スペインは、特に力強く主張している。我々のモノを勝手に触るな。文化遺産なんだから、調査や保存に関しては我々の意見を尊重すべきである、と。
まあ、例えるならスペインにとって過去の自国の船は動く姫路城
例えば、海外の観光客が姫路城を勝手にバラバラにして部材ごとに売りさばいたらあなたはどう思いますか?
こちら、同じニュースですが、水中の写真などがあるのでご覧ください。
Indigenous groups claim stake in sunken Spanish ship, cargo off Colombia (msn.com)
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