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【タワマン文学】会社の同期と行った高級店の話をします。

※これは創作です。

「この日本料理屋が気になってるんだけど」

Netflixを見ていると唐突にLINEが来た。

研修で同じチームだった子達のLINE。

あれから数年が経ち、連絡の頻度はめっきり減っていた。

人付合いだ。

仕方がない。

そう思いながら日程調整の表に記入した。

「値段は10,000円です!」

そう言われ、「!?!?」となった。

何故早く言わないのか、何故そんな高い店にするのか。

猛烈に行きたくなくなった。

とはいいつつも人付合いということで行ってみることにした。

千葉県柏市にあるお店。

静謐な住宅街にありながら、異彩を放つ店の雰囲気。

同期達はもうカウンター席に座っていた。

やがて仕事の疲れを忘れるように話し込んむ同期達。

料理が運ばれてきた。

日本料理の10,000円のコース。

日本酒も飲みながら運ばれているご飯を食べた。

イマイチだ。

見た目は美しいのだが、哲学が感じられない。

ままごとのような店。

30代位の店主。

店を開いて数年というぎこちなさが目につく。

他愛も無い近況の話をしながらお互い給料や職位の話は避けていた。

西麻布にあるミシュランの店にどこか似ている料理。

必死に考えたであろうメニュー。

全てがままごとに見える。

時折ちらつく庶民的な仕草。

仕込み料理を取り出したときに見えたジップロックのような袋。

狭いトイレ空間と見慣れたウォッシュレット。

どこの家庭にでも置いてあるような東芝の白い冷蔵庫。

庶民が背伸びして作ったようなお店。

「おいし~」

「このために生きているんだよなぁ」

「めっちゃ美味い」

こんなセリフが同期達の口から溢れる。

相変わらずぎこちない大将の料理。

静謐な店内だけが救いだった。

水と日本酒のペースが早くなる。

口に入れては日本酒で流し込む。

もう十分だった。

「大人になった感じがする~~やっぱ社会人はこうでないと」

こんなセリフを言った同期もいた。

私は黙ってジョージ・オーウェルの小説をKindleで読んだ。

帰りのつくばエクスプレスの電車には社会人と夜遊びからの帰宅であろう学生たちしかいなかった。

流山おおたかの森の隣の最寄り駅で降りた。

どこにでもあるような築10年位のアパート。

入り口にはカメムシが1匹いて悲鳴を上げそうになった。

誰もいないワンルームの電気を点け、浄水器の水栓の前でうがいをする。

どことなく料理の塩味がした気がした。

美味しいものを食べるために生きている。

この価値観は自分自身も持っている。

しかし、行くならやはり銀座、麻布、浅草の店が良い。

半年くらい前に行った歴史のある店。

価値ある料理を価値ある人と食べる。

これが重要だ。

そのために食費は出来るだけ節約してきた。

業務スーパーや肉のハナマサで値引き品を買う毎日。

2ヶ月に1回位食べる有名店の料理。

それでいい。

価値あるのはお店だ。

自分自身の価値はどうでもいいのだ。

そういう意味で行くんだったらやはり港区の店だ。

そう思いながら同系統の日本料理の店をインスタで調べてお風呂に入った。

背伸びをしているのは自分自身であることから目をそらすように一目散に布団に入った。

日本酒で酔った体を横たえ、やがて風の音が耳元から離れていった。

(背伸びをしている高い店が好きな独身20代という設定)

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