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「だいかい文庫オープン記念 もりもんナイト!」ーイベントレポート(SHIPメンバー活動紹介)

2020年12月、兵庫県豊岡市の街なかに、みんなでつくるシェア型図書館「だいかい文庫」がオープンしました。コンセプトはケアとまちづくりをつなぐ場所。本を借りられる「図書館」ですが、イベントを開いたり、お茶を飲んだりすることもでき、地域の人が日替わりで店番をしています。

一見すると医療色は感じられませんが、このプロジェクトを始めたのは、SHIPメンバーであり、医師の守本陽一さん。学生時代から地域活動にも取り組んでおり、「社会的処方」という考え方に影響を受けて、人のつながりの力で地域の健康を支えたいと、この新たな試みをスタートしました。

SHIPでは、そんな守本さんがなぜシェア型図書館をつくったのか、どのように運営しているのかなど、一晩たっぷり「だいかい文庫」について語ってもらうイベントを行いました。当日お話いただいた内容を書き起こしましたので、参加いただけなかった皆さんも「だいかい文庫」の魅力に触れてみてください。

守本陽一(一般社団法人ケアと暮らしの編集社/医師)

1993年神奈川県生まれ、兵庫県出身。医師。学生時代から医療者が屋台を引いて街中を練り歩くYATAI CAFE(モバイル屋台de健康カフェ)や本と暮らしのあるところだいかい文庫といったケアとまちづくりに関する活動を兵庫県但馬地域で行う。現在は、保健所で行政の立場から社会的処方のまちづくりも実践する。ケアとまちづくりに関するオンラインコミュニティケアまち実験室も運営する。共著に「社会的処方」「ケアとまちづくり、ときどきアート」など。趣味は、温泉/銭湯と読書とコーヒー。


地域と医療をつなげる場所「だいかい文庫」とは?

「だいかい文庫」があるのは豊岡駅から徒歩11分、駅前商店街の突き当たりにある3階建ての建物です。もともとマッサージ屋さんが入っていた建物を地域の人たちと一緒にリノベーションしました。

店内は「一箱本棚オーナー」と呼ばれる会員さんがつくる図書館的なスペースを中心に、3つのエリアに分かれています。館長の守本さん(当時。現在は館長を委譲)がセレクトしたケアやまちづくり関連の本を販売するスペース、そしてコーヒーやハーブティが飲めるカフェスペースです。

「だいかい文庫」の中核になっているのが「一箱本棚」です。
レンタルボックスのように一箱ずつ出資できる仕組みで、本棚には各箱のオーナーさんが選んだ貸し出し本や、本にまつわるモノが置かれています。高校の先生がオーナーの本棚には学生さんの創作物が置かれていたり、こけし好きのオーナーさんの本棚にはコケシが置かれていたり。どの本棚からも本を選んだオーナーさんの個性が伝わってきます。
本棚に置かれた本の借り方は、一般的な図書館と同じ。最初に300円の登録料を払う以外、レンタル料はかかりません。スマホが利用者カード代わりになるシステムを使っていて、誰でも気軽に借りられます。

販売スペースでは医療・ケア関係やまちづくりの本のほかに、人文・アートなどのジャンルの新刊書籍も扱っています。これは守本さんに地域の文化資本をつくることにも貢献できないかという考えがあるから。身近で文化に触れる機会が増えればと、良書を選りすぐっています。

お店自体は地域の憩いの場のような雰囲気で、単に本を貸し借りする場所と思っている方も少なくないでしょう。そこにさりげなく配置されている医療へのアクセスが週2日ひらかれている「居場所の相談所」。2時間ほどの相談タイムには医療福祉の専門家がいて、悩みごとや困りごとを話せるようになっています。

実は、カフェスペースで販売する飲み物もケアやまちづくりに関わるものをセレクトしていて、Webメディア「soar」を運営するNPO法人soarによるハーブティ「soar tea」や京都の障害者雇用がある醸造所「京都・一乗寺ブリュワリー」のクラフトビールなどが置かれています。「だいかい文庫」は表側からみれば気軽に利用できるオープンスペースですが、日常の延長線上で医療を届けるという目的を持ってつくられた場なのです。

コミュニケーションが得意でない人もフラッと立ち寄れる場づくり

医師である守本さんは「だいかい文庫」のオープン以前から地域活動を続けてきました。そのひとつが「YATAI CAFE」です。「YATAI CAFE」は医療関係の仲間たちと屋台をひいて、コーヒーをふるまいながら健康の話をする活動。「屋台」の面白さから病院や健康への関心の低い人も興味を持ってくれます。

病院では病気の人を治療しますが、医師として患者さんに関われるのは治療の間だけです。病気を抱える患者さんの生活のメインは病院の外にあり、治療期間は患者さんの長い人生のなかのほんの一部にすぎません。病気の予防や再発防止を考えるなら、病院の外にも目を向ける必要があります。そこで、守本さんとその仲間は自分達から街へ出ていくことを選択したのです。

「暮らしの動線上でコミュニケーションができれば、予防や退院後の支援も可能です」と守本さん。障害のために通学が難しくなっていた親子が「YATAI CAFE」に話をしにくるなど、病院のなかではアクセスできなかった人たちとつながれる手応えを感じていたといいます。

「YATAI CAFE」は積極的に街に出ていく活動ですが、イベント的なもので来たい人がいつでも来られるわけではありません。そこで、この活動と並行して、常にまちに”ある”場所も持とうと考えるようになり、シェア型図書館の発想へとつながりました。

つくりたかったのは医療相談所というよりは、まちのコミュニティーでした。

健康にはさまざまな要因が関係しますが、なかでも「孤独」の死亡リスクは無視できないものです。リスクの大きさはタバコ15本/日分に相当すると言われており、人との関わることが少なく社会から孤立した生活を送っていると、健康を害する可能性は高くなります。

「社会的処方」とは、孤立しがちな人に薬ではなく社会参加の機会を処方するというアプローチ。地域のコミュニティーを紹介するなどして、つながりの力で孤独に起因する病気を防ごうとするものです。実際、これに取り組んだイギリスの都市では入院や外来受診の頻度など複数の指標で改善がみられたといいます。

「だいかい文庫」で目指しているのは、豊岡での「社会的処方」の実践。シェア型にすることで、人のつながりの力を通して、まち全体の健康を支えていこうとしています。

人をつなぐため、まちにあり続けるための仕組み

場を持つにあたってこだわったのは、誰でも訪れやすく文化的な要素も兼ね備えた場を、ちょっと稼げる仕組みで運用することでした。

図書館・本屋になったのは、医療の看板をはずすことで医療関係ではない人、健康に問題を感じていない人でも入ってきやすくなるからです。

ちょっと稼げるというのは運営の持続性を意識してのこと。「だいかい文庫」で目指しているのはいつでも訪れられる場所。地域にあり続けることが大事なので、医療従事者のボランティア精神に頼って疲弊してしまっては本末転倒です。そこで無理なく続けられるように編み出された運営スタイルが「だいかい文庫」を特徴づける「一箱本棚」の仕組みでした。

運営費の9割近くを支えるのはオーナーさんからの会費収入です。一箱本棚のオーナーさんたちは自由に使える本棚スペースのために毎月2400円支払っています。

オーナーは店番もしますが、その対価は支払われません。それでもオーナーになりたいという人はオープン前から何十人も集まりました。店番をしていると、本の返却などで訪れた地域の人との交流の機会が生まれます。ちょっとだけ店番をやってみたい、地域の人とつながる場を持ちたいというニーズをうまく掴んだことで、持続性の高いシステムにすることができたのです。

オーナーさん達へのアンケートでは、人との出会いにメリットを感じている方が多いという結果がでました。本はきっかけで、求められているのは地域の人とつながれる場なのです。

「実は、精神科に通院中の患者さんも多く来られています。日常生活へ戻っていく作業療法的な場所にもなっている気がしています」と守本さん。患者さんが一箱本棚のオーナーとして店番をしたり、会員として本を貸し借りしたりする姿も見られるそう。「だいかい文庫」は計画していたとおり、生活と地続きで健康を支えられる場として、しっかり機能しています。

「本」をきっかけに色々な形で関わってもらえる街の拠点に

「だいかい文庫」では建物を改装する際、都市デザイナーの協力のもとワークショップを開催し、場所をつくるところから多くの人に関わってもらいました。また同時に費用の一部をクラウドファンディングで調達し、一箱本棚オーナーもオープン前から募りました。オーナーのなかには遠方の方もいて、住民以外の方が豊岡のまちに関わるきっかけともなっています。

いま日本各地で人口減少が進み、地域衰退の象徴でもある空き家が増加しています。住みづらくなり、人が出ていく悪循環をいかに止めるかは多くの地域の共通課題です。

人口が減ると商店などの生活基盤も失われていきます。スポンジ状にスカスカになって衰退していくまち。人口が減っても住みづらいまちにしないためには、さまざまな都市機能を兼用できる拠点が必要です。

「だいかい文庫」は小さなスペースながら、本を中心とする文化拠点、地域の人を医療・ケアへとつなぐ機能など、さまざまな役目を果たしています。ここで育まれるコミュニティーはまちづくりの視点からも重要です。

人口が減少する時代のまちづくりでは、住民だけでなく多様な人がそれぞれの事情のなかで関われること、つくる過程を楽しめること、そして価値観の異なる人とも対話をしながらつくっていけることなどが大事だとされています。「だいかい文庫」を準備する過程でやってきたことはまちづくりの法則にも適っていました。

「だいかい文庫」は「もっとオープンしてほしい」と要望する人がいれば「それなら店番をお願い」と答えられる仕組みです。誰かに楽しくさせてもらうのではなく、みんなが主体的に関わっていくことで面白くなっていきます。

安心できる場づくりの裏にあるジレンマと日本での「社会的処方」のあり方

人が集まる場が面白くなるかどうかは、そこにきている人が面白いかどうかに依存します。コミュニティーの質を良くしようとすると人を選ばなくてはなりません。また、コミュニティーを維持していくには場にそぐわない人に離れてもらうことも必要です。

でも、「だいかい文庫」でつくっていきたいのはどんな人も受け入れる場所。そこで、入会資格は設けず、会費さえ払えば誰でもオーナーになれるようにしました。禁止事項も問題がおこった時に許容範囲を明確にすることでゆるやかな運用ですが、これまではそうしたスタンスで特に大きな問題は起こっていないそうです。

ですが、この先、問題行動を起こす人が入ってこないとは言い切れません。

「ケアであり、文化の場であるので、趣旨にそぐわない行動を見かけた場合にはお声がけすることもあります。ただ、こちらのスタンスをお伝えしたことで離れていく方もいたので、そのバランスは難しいですね」

この場所で受け止めきれなかった方が気にかかり、他に地域のどこかでなじめる場所が見つかればと、各所をあたられたそうです。

日本には「社会的処方」に関わる制度はありませんが、まちづくりの世界ではそれに類似する活動が行われています。医療機関や医療従事者と、まちづくり関係機関や関係者が公式・非公式に人的ネットワークを広げていくことで、日本で「社会的処方」を実現することは可能ではないかと守本さんはいいます。

豊岡市には民間運営、行政主導ともに多様な場がつくられており、関係者や関係機関での連携も期待できます。「だいかい文庫」も重層的なネットワークの一員として、まちを支えていくことでしょう。

今後も新たなモノをつくっていきたいと発表を締め括った守本さん。

「だいかい文庫」は今も元気にオープンしており、「みんなのだいかい大学」や「ゆるいつながり研究室」など、イベント当時にはなかった新しい活動も始まっています。

さまざまな関わり方ができる場所ですので、気になる方はぜひ足を運んでみてください。

だいかい文庫サイトはこちら

SHIPというヘルスケアに特化したコミュニティの運営費にさせていただきます。メンバーが自分の好きに正直に事業を作っていけるようになることが幸せかと思っています。