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とても綺麗 【詩】

僕らが歌を知らなかった頃
東の空が真っ赤に染まっていた

サイレンがあちこちで鳴っている
焦げついた脚が国道を横断する
金切り声をあげながら
住宅街をうねっていく貨物列車
慰問歌劇団を運んでいる

(なぜあんなに空が赤いのだろう)
(鉄が燃えているからね)

本棚には昆虫図鑑しかなかった
この世のものとは思えない色彩
ピン留めにされた虫たちが
規則正しく焼却炉に送られていく

(ホルマリンの燃えるにおい)
(左右がうらがえっている)

巨大な蛾が舞っている西の空
ミサイルが絶え間なく飛んでいる中
巧みにかわしながらダンスする姿は
ため息が出るくらいに美しい

(慰問歌劇団が駅に到着した)
(団長がラッパを鳴らしている)

噴火口を覗いていて
うっかり足をすべらせたあの日
墜落していく途中で
冷たい風が吹いていた
眼も鼻もない歌が聞こえた

(あの子、慰問団に売られたよ)
(美しい声の持ち主だった)

歌劇団のテント小屋から
月から聞こえるようなジンタ
三拍子 五拍子 七拍子
半透明の空中ブランコがここにあそこに
焼夷弾が少女たちの歌声を燃やしている。

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